下<表1>~<表4>は、近畿圏全体の2022年1月現在の新築賃貸住宅募集事例をタイプ別にまとめたものです(弊社独自調査)。
型式別に前年と比較すると以下のとおりです。
① 「1ルーム」タイプ
2022年の供給件数は、対前年比で約15%減。総額賃料は、68千円台で、2021年に比し、7.0%上昇した。占有面積は、27㎡台と昨年より拡大した。賃料単価も約4%上昇した。一時金月数は2.0ヶ月で、0.3ヶ月増加した。
② 「1K-1LDK」タイプ
2022年の供給件数は、対前年比約7%の減少。総額賃料は、78千円台で、対前年比3%の上昇。占有面積は、34㎡台で若干拡大した。賃料単価は、約2%上昇した。一時金月数は、1.8ヶ月で2020年と同じ月数である。
③ 「2K-2LDK」タイプ
2022年の供給件数は、前年に比し約4%の増加。占有面積は、58㎡台で、前年とほぼ同じ広さである。総額賃料は、117千円台で約9.0%上昇した。賃料単価も約8%上昇している。一時金月数は、2020年から2.0ヶ月と変わらない。
④ 「3K-3LDK」タイプ
2022年の供給件数は、前年と同数である。占有面積は、77㎡台で前年より約2㎡縮小したが、賃料単価は、約5%上昇し、総額賃料も173千円台と上昇した。一時金月数は、前年から0.2ヶ月減少し、2.2ヶ月となった。
⑤ まとめ
近年、地価の上昇、建築費の上昇により、新築賃料は上昇せざるを得なかったが、賃料の上昇は、賃貸ユーザーに敬遠されるため、ユーザーの支払限度額に合わすべく、各型式の専有面積を小振りにして、総額賃料を抑えてきた。
但し、2022年は、対前年比較で若干ではあるものの、「3K-3LDK」を除く他のタイプの占有面積が拡大している。
2021年に関西の賃貸住宅事業者がテレワークについて、入居者ヒアリングを行ったところ、自宅でテレワークを行う、若しくは行う予定は約4割で、週3~4日が最も多い結果が出ました。
「テレワーク」を行う場所については、過半数の人が「リビングの一角でテレワークを行っている」、若しくは「行う予定」との回答であり、「狭くても良いので専用スペースが欲しい」が61%、「ドアをしめ切って使える専用の居室(4帖以上)が欲しい」が36%となっており、「狭くても良いので専用スペースが欲しい」と回答した人が望む広さは、「2帖程度」が35%、「1帖程度」が18%と、広くても1坪程度とささやかなものでした。
2022年では、上記のような賃貸ユーザーの「広め」の要望が反映され、総額賃料を抑えるため、占有面積の小振化が進んでいた昨年とは違い、「3K-3LDK」を除き、各型式で若干ではあるものの、占有面積が広くなりました。
しかしながら、建築費は変わらず高水準にあるため、賃貸単価は上昇しており、総額賃料も上昇している状態です。
一方、賃貸ユーザーは、長引くコロナ禍による生活・収入不安を反映し、賃貸条件のうち、特に総額家賃についての妥協はないため、賃貸市場では需給ギャップを生じており、強気な賃料設定をしている新築賃貸マンションの成約率は、低迷しています。
広めの住宅に移転したい人は、持家の購入を検討しますが、新築分譲マンション市場では、価格は高騰しており、近畿圏の2022年1月時点の分譲マンション価格は3,992万円(専有面積坪当り2,463千円)で、分譲マンション需要の最多層である世帯年収500万円台の世帯の年収の約8倍となり、分譲マンションの購入に手が届かなくなっています。
更に、新築分譲マンションの平均専有面積は53.57㎡と小振りで、テレワークのために広い部屋に住替えたいという希望も充足することができない状況にあります。
このため、持家購入を断念し、賃貸住宅を選択する層が増加していますが、こうしたユーザーが望む広さの賃貸住宅の供給は極めて少ない状況です。
現在、賃貸住宅市場では、中古の「2LDK」「3DK」「3LDK」で、共益費込み8~10万円までの賃料帯が人気となっています。
長引くコロナ禍により、賃貸住宅ユーザーの移動時期も変化しており、従来であれば、1~3月に引っ越しや転勤で移動する人が多かったですが、こうした一時に需要が集中する流れはなくなり、移転時期が平準化してきているようです。
また、賃貸ユーザー側も、住み替えの要望はあるものの、コロナ禍で移動を自粛している動きもみられるなど、市場の動きは鈍いようです。
以上のことから、2022年の賃貸住宅市場は、家賃の高い新築賃貸住宅よりも、広めの中古賃貸住宅にニーズが集まることから、新築賃貸住宅の設定家賃は、当初は強気の設定でも、その後、下落していくものと予測します。
土地活用には、住居系・事業系の2種類の用途がありますが、事業系の用途、例えば店舗・事務所を出店したい事業者は、人の通行量・車の通過量が多く、視認性が高い立地でないと出店しないため、住宅地内での土地活用の用途としては、マッチングはなかなか困難です。
そこで、住宅地内であっても、出店できる業種を下表のとおりまとめました。
現在、コロナ禍ではありますが、ポストコロナの時代に事業展開を考える事業者は、積極的に事業用地を探しています。
事業用地であるので、同業種と競合するエリアには進出できなかったりという制約はあるものの、住宅系の用途地域では、店舗は建築が制限される用途地域はありますが、上記の用途は、住居系の用途地域内での制限はないため、賃貸住宅に替わる土地活用として考慮してみる価値はありそうです。
図表1は、2000年から22年までの1月初旬における「大阪市」と「近畿圏」(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市(西宮市、尼崎市、芦屋市、宝塚市、伊丹市、川西市)、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に分類したものである。
22年は、「大阪市」の供給戸数の86.5%、「近畿圏」の70%が単身者向け(「1R」「1K-1LDK」)であり、その中でも「1K-1LDK」が供給のメインとなっている。昨年と比較すると、「大阪市」は1.6ポイント減、「近畿圏」は2.7ポイント減。いずれも供給割合が減少し、ファミリー向け供給割合が増加している。
00年は、「大阪市」の単身者向け供給数の割合は約69.4%、「近畿圏」は49%で、「近畿圏」ではファミリー向け供給が主流であった。15年以降、「大阪市」「近畿圏」ともに単身者向け割合が増加傾向にあるが、これは核家族化が進行しているためである。
ところが、22年はファミリー向け供給割合がわずかに増加した。これは、新型コロナウイルス感染症の拡大により、リモートワークを含め自宅で過ごす時間が増えたことから、住宅の広さを重視する傾向が強まっていることが反映していると考えられる。
図表2~図表5は、近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数の推移(20~22年)をまとめたものである。
① 「1R」タイプ(図表2)
22年の供給件数(148件)は、対前年比で約15%減、賃料は68,000円台で同約7%上昇。専有面積は27㎡台と昨年より拡大した。賃料単価は約3.7%上昇、一時金月数は0.3ヶ月増加した。
② 「1K-1LDK」タイプ(図表3)
22年の供給件数(1,298件)は、同約7%の減少。賃料は、78,000円台で、同3%の上昇。専有面積は34㎡台で若干の拡大。賃料単価は約1.8%上昇し、一時金月数は1.8ヶ月で0.1ヶ月増加している。
③ 「2K-2LDK」タイプ(図表4)
22年の供給件数(383件)は、前年比で約4%の増加。専有面積は58㎡台で前年とほぼ同じ広さである。賃料は117,000円台で約9.0%上昇、賃料単価も約8%上昇。一時金月数は、20年から2.0ヶ月と3年連続で変わっていない。
④ 「3K-3LDK」タイプ(図表5)
22年の供給件数(83件)は、前年と同数。専有面積は77㎡台で前年より約2㎡ほど縮小したが、賃料単価は、約5.6%上昇、賃料も173,000円台と約10.8%上昇した。一時金月数は、前年から0.2ヶ月減少し2.2ヶ月となった。
⑤ まとめ
入居希望者の支払うことのできる金額の上限は決まっているため、各タイプとも専有面積を小振りにして賃料を抑える傾向にあったが、22年は若干ではあるが、「3K-3LDK」を除いて前年比で専有面積が拡大している。
一時金月数については、「3K-3LDK」が21年より0.2ヶ月減少。「2K-2LDK」は2.0ヶ月で変化はなく、「1K-1LDK」は0.1ヶ月、「1R」は0.3ヶ月微増した。20年からの傾向をみると、「1R」と「3K-3LDK」は2.0ヶ月前後、「1K-1LDK」は1.8ヶ月前後、「2K-2LDK」は2.0ヶ月で推移している。
21年、当社の顧問先である不動産会社が、大阪市内に保有・管理する賃貸物件への入居者を対象に「テレワーク」の実態についてヒアリングを実施。「自宅でテレワークを行う」「自宅で行う予定」との回答が約4割を占め、「週3~4日」が最も多かった。
テレワークを行う場所については、過半数が「リビングの一角で行う」、もしくは「行う予定」であるとの回答。また「狭くても良いので専用スペースが欲しい」(61%)、「ドアを閉め切って使える専用の居室が欲しい」(36%)との回答が多くみられた。
なお、「狭くても良いので専用スペースが欲しい」と回答した人が望む広さは、「2畳程度」が35%、「1畳程度」が18%と、ささやかなものである。
22年は、テレワークスペースの確保といったニーズがあり、先述したように、「3K-3LDK」タイプを除いた、各タイプで専有面積が拡大した。ただし、建築費は変わらず高水準であるため、賃貸単価と賃料はともに上昇している。
長引くコロナ禍での生活・収入不安を反映し、ユーザーは賃料についてシビアにならざるを得ない。
以上のことから、強気な賃料設定をしている新築賃貸マンションの成約率は、低迷していると言えよう。
一方、分譲マンション市場では価格は高騰しており、近畿圏の21年12月時点におけるマンション価格の平均は4,274万円(専有面積坪当たり2,350千円)。分譲マンション需要の最多層である年収500万~600万円世帯の年収の7倍を超えており、一般世帯では手が届かなくなっている。
このため、持家より賃貸住宅を選択する層が増加しているが、十分な広さを確保した賃貸住宅の供給は極めて少ない状況である。従って、賃貸住宅市場では、既存の「2LDK」「3DK」「3LDK」で、共益費込み8万~10万円までの賃料帯が人気となっている。
また、従来であれば1~3月に引っ越しや転勤などで移動する人が多かったが、長引くコロナ禍において、一時期に需要が集中する傾向はなくなり、移動時期の平準化の傾向が見て取れる。また、住み替えの要望はあるものの、移動を自粛している動きもみられるなど、市場の動きは鈍い。
以上のことから、22年の賃貸住宅市場は、賃料の高い新築賃貸住宅より、広めの既存賃貸住宅にニーズが集まり、新築賃貸住宅の賃料は下落していくものと予測する。
図表1は、2000年から21年までの1月初旬における「大阪市」と「近畿圏」(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
21年は、「大阪市」は供給戸数の約88%、「近畿圏」の約73%が単身者向け(「1R」、「1K-1LDK」)であり、その中でも「1K-1LDK」が供給のメインとなっている。昨年と比較すると、「大阪市」は8.8ポイント増、「近畿圏」は0.4ポイントの微増。「近畿圏」はここ数年、72~73%の割合で推移している。
21年前の00年は、「大阪市」の単身者向け供給数の割合は約69%。「近畿圏」は49%で、「近畿圏」ではファミリー向け供給が主流であった。「大阪市」「近畿圏」ともに単身者向け割合が増加傾向にあるが、これは核家族化が進行しているためだと思われる。
08年のリーマンショック以降は、ファンドによる単身者向け供給割合が減少したが、15年以降、再び単身者向け供給が増加している。なお、21年の供給戸数は「大阪市」が対前年比約11%増の656件であるが、「近畿圏」は対前年比約6%減の1,364件である。
図表2~5は、近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数の推移(19~21年)をまとめたものである。
① 「1R」タイプ(図表2)
21年の供給件数は、対前年比で約31%増(175件)。賃料は、64,000円台で、20年比で、約1.4%下落。専有面積は26㎡台と過去最低となった。専有面積が縮小したため、賃料単価は約2.8%上昇、一時金月数は0.4ヶ月減少した。
② 「1K-1LDK」タイプ(図表3)
21年の供給件数は、対前年比約1%の微増(1,394件)。賃料は、75,000円台で、対前年比約0.6%の微減となった。専有面積は33.74㎡で1.7㎡縮小。賃料単価は約4%上昇し、一時金月数は1.7ヶ月で0.1ヶ月減少した。
③ 「2K-2LDK」タイプ(図表4)
21年の供給件数は、前年比で約22%の減少(368件)。専有面積は58.38㎡で、前年比で約1.06㎡減少した。賃料は、108,000円台で約4.5%の下落。賃料単価も約0.7%下落している。一時金月数は、昨年の2.0ヶ月と変わらない。
④ 「3K-3LDK」タイプ(図表5)
21年の供給件数は、前年比で約73%増加(83件)した。専有面積は79.62㎡で前年より3.89㎡拡大したが、賃料単価は、約10%下落し、賃料も171,000円台で約6.1%下落している。一時金月数は、前年から0.1ヶ月増え、2.4ヶ月となった。
⑤ まとめ
入居希望者の支払うことのできる金額の上限は決まっているため、各タイプとも専有面積を小振りにして賃料を抑える傾向にあったが、20年には小振り化に歯止めがかかり、賃料は上昇機運を示していた。しかし、21年1月初旬時点で小振り化が進行しつつあり、総額賃料はすべてのタイプで下落している。
一時金月数については、「1R」「1K-1LDK」が20年より下落し、いずれも「1.7ヶ月」に。「2K-2LDK」は2.0ヶ月で変化はなかったが、「3K-3LDK」は0.1ヶ月増加した。
19年12月、中国武漢市にて端を発した新型コロナウイルス感染症は、全世界に流行し、日本においては20年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出され、同年5月25日に解除された。ところが、7月後半から感染者が増加、9~10月まで落ち着きがみられたが、11月以降、感染者が爆発的に増加し、21年1月7日、2回目の緊急事態宣言が出されたのはご存じの通りだ。
コロナ禍により、「リモートワーク」の導入が加速したことで、住宅の選び方に変化が表れている。コロナ禍以前においては、カップルでも「1DK」「1LDK」と、部屋数より広めの「DK」「LDK」指向であったが、リモートワークを始めて、仕事場としての「プラス1室」指向が生まれている。さらに、以前は「職住近接」がキーワードで、「広さ」を我慢しても「交通利便性」を追求していたが、リモートワーク下では「通信環境が整備されているなら、職住近接にこだわらない」と、以前とは違い住宅の選択枠が拡大している。
こうした前向きの賃貸需要もある一方で、コロナ禍により、雇い止め、自宅待機等により収入減となっている賃貸需要帯では、現行より低い賃料の賃貸住宅に住み替える「生活防衛型」賃貸需要が増加。学生向けでも、大学のリモート授業、バイトができないことによる生活苦などを理由に実家に戻り、賃貸住宅を解約したり、より賃貸の低い住宅への住み替える動きも目立っている。親の援助も得られにくいと、地元大学を受験する動きが見られ、学生需要が減少傾向にある。
大阪市では「1R」の新規供給が増加したが、この供給源はインバウンド需要目当てのホテル(簡易宿所を含む)が少なくない。20年に開催する予定であった東京オリンピックを狙い、大阪市内ではほぼ全区で宿泊施設の新規供給がみられたが、コロナ禍によるインバウンド大幅減により、宿泊需要は霧散。20年の5月以降、宿泊施設が多数売却されている。その中には、宿泊施設を1Rマンションにリフォームし、賃貸住宅として満室とした後に売却しているものも多く見られる。
そのため「風呂・トイレ・洗面所」が1ユニットタイプと人気がない設備・間取りであるが、入居者を早く獲得し早期に売却できるよう、総額で1万円前後賃料を安く設定している事例が大阪都心部を中心に見受けられる。これが周辺のマンションの賃料水準の下押し圧力となっているのだ。
当社による20年7月時点での賃貸市場調査では、「2居室」「3居室」から賃料が下降し始めていたが、21年1月調査では、賃料は「1R」「1居室」も下落し、全タイプでの賃料下落となった。
コロナ禍による景況悪化が原因であるため、ワクチン接種により感染拡大が鎮静化し景況感が回復すれば賃料下落に歯止めがかかるという見方もある。しかし、関西はインバウンド景気による底上げも大きかったため、外国人観光客が再び訪れるまでに数年はかかることを考えると、21年の賃貸住宅市場は賃料の回復は見込めず、低調になると予測している。
新型コロナウイルス感染症の流行により、経済活動に大きな影響を与えています。休業要請や三密対策により企業の売り上げは激減し、多くの事業者は家賃・人件費等の固定費の支払に苦しんでおり、家主に賃料減額の交渉をすることが日常になっています。 本件では、賃貸オーナーがコロナ禍で直面する問題について、弊職に寄せられた質問とそれに対する回答をピックアップしてご紹介いたします。
A1. 借地借家法32条1項によりますと、
① 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減
② 土地若しくは建物価格の上昇若しくは低下、その他の経済事情の変動
③ 近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。但し、一定の期間、建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う
とあります。
即ち、固定資産税が上昇したり、あるいは下がった時、土地や建物価格が上昇したり、あるいは下がった時、経済事情が大きく変わって、元々の賃料が相当でなくなった場合、近隣の同種の賃料水準と比べても賃料が相当でなくなった場合に、借主・貸主のいずれからでも家賃を下げたり、上げたり請求できます。
今回のコロナ禍で、不動産価格や同種の家賃の低下については、徐々に空室率の上昇、家賃の下落等が表われており、また、自粛要請や三密対策のため、事業活動の縮小が余儀なくされている現在の状況は経済事情の変動に該当すると考えられなくありません。
例えば、本件のコロナ禍で、経済事情が大きく変わって、借主が賃料を○月から△円を×円に減額して欲しいと請求し、貸主がその金額に合意すれば、賃料は減額されます。
しかし、貸主が減額に応じない、若しくは借主の請求する減額額まで減額できないといって、双方の合意が成立しない場合は、調停をし、そこでも合意ができなければ訴訟になります。
家主側も建物購入時のローンの支払や、家賃収入を生活費にあてているため、賃料減額に応じると支障が出るケースも考えられ、将来にわたっての賃料減額に応じられないという場面もあると思います。
そこで、賃料減額ではなく、以下のような対応も考えられるので、ご紹介いたします。
① 家賃の支払猶予
家賃の支払猶予は、賃料は従前の額のままで、その全部又は一部の支払時期を延期することです。
猶予した家賃をいつ分割して支払ってもらうか、事前に双方が合意してその内容を証する書面を作成します。
書面には双方の記名押印はもちろん、猶予する額と期間を記載します。
② 家賃免除
一定の期間に限り、家賃の一部又は全部を減額、即ち免除することです。
この場合も借主であるテナントの事業の支援目的である旨並びに減額する金額、期間を書面で表し、双方の記名押印が必要です。
通常時は賃貸ビルの貸主法人が、テナントから賃料減免の依頼があって賃料を減免した場合、寄付金扱いとなり、税務上の損金算入が制限されていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払が困難になったテナントからの賃料減免の依頼があった場合、賃貸ビルの法人貸主が営業に被害が生じている間の賃料を減免した場合、寄付金扱いにならないで、全額損金算入が可能になりました(法人税基本通達9-4-6の2)。
要件としましては、
ア、取引先等(賃借人)において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難になったこと、又は困難となるおそれが明らかであること。
イ、賃料の減額が取引先等(テナント)の復旧支援(営業継続や雇用確保等)を目的としたものであり、そのことが書面等で確認できること。
ウ、賃料の減額が取引先等(賃借人)において、被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間)内に行われたものであること。
なお、事業用賃貸だけでなく、居住用賃貸、駐車場賃貸についても同様の適用となります。この際、家賃債務保証会社による保証を利用している場合は、賃料の支払を猶予している間は、家賃債務保証会社に代位弁済請求することができないことがあります。家賃保証会社にまず、確認をとって下さい。
上記ア・イ・ウの要件の内、イの文書が特に重要です。
どのような文面にしたらよいのかわからないという方のために、国土交通省ホームページには、「賃料減額に関する覚書」の記載例が公開されていますので、以下ご紹介します。
また、電子メールによる形式を用いることも可能との記載があります。
記載例
※ 本様式はあくまで一例であり、個別の合意内容・状況に応じて編集可能とする。また、電子メールによる形式を用いることも可とする。
覚 書(案)
【不動産所有者等名】(以下「甲」という。)と【取引先名】(以下「乙」という。)は、甲乙間で締結した○○年○月○日付「建物賃貸借契約書」(以下「原契約」という。)及び原契約に関する締結済みの覚書(以下「原契約等」という。)に関し、乙か新型コロナウイルス感染症の流行に伴い収入が減少していること等に鑑み、甲が乙を支援する目的において、以下の通り合意した。
第1条 原契約第△条に定める賃料を令和2年×月×日より令和2年▲月▲日までの間について、月額□□円とする。
第2条 本覚書に定めなき事項については、原契約等の定めによるものとする。
令和2年◇月◇日
③ 敷金・保証金等の預り金を家賃に充当する。
借主から家賃の一部又は全部を敷金・保証金の預り金から控除して、家賃に充当して欲しいとの申出がなされることもあります。
敷金・保証金の目的は、債務の履行の担保ですので、一時応じても、減少した敷金・保証金を追加で差し入れする取り決めが必要です。
もちろん、これも文書を作成します。
また、敷金・保証金がゼロになっては、債務の担保ができませんので、せめて家賃の3ヶ月分位はキープしておいた方が良いと思います。
なお、2020年4月1日施行の改正民法622条の2の2項では、賃借人から敷金を家賃に充当する旨の請求は認められておりません。
この他、家賃保証会社との保証契約がある場合に、保証会社に無断で敷金充当の合意をしてしまうと、家賃保証会社との契約に違反する場合があるので、ご注意ください。
A2. 賃料の不払いが継続した場合、貸主から賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除するには、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されていることが必要です。
この点につきまして、法務省民事局は、「最終的には事案ごとの判断となりますが、新型コロナウイルス感染症の影響により、3ヶ月程度の賃料不払いが生じても、不払いの前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」との見解が出ています。
従いまして、契約解除より先ず、支払猶予や家賃免除も視野に入れて、賃借人と協議してはいかがでしょうか。
では次に、入居者が感染した場合の賃貸人としての対応について、お話しします。
Q3. 入居者が新型コロナウイルス感染症に感染したことがわかった。A3. 借主の部屋の消毒につきましては、借りている部屋内の通常の清掃費用は借主が負担すべきものと考えられますので、部屋の消毒費用は借主の負担となります。
共用部分につきましては、入居者がコロナに感染したことを貸主に告げず、入院が必要にもかかわらず、正当な理由なく、部屋を利用し続けたというような特段の事情がなければ、共用部分の維持管理は貸主が実施するものであるので、コロナに感染した入居者に消毒費用は請求できないと思われます。
A4. 原則として、入居者のプライバシーにかかわることになりますので、貸主が他の入居者に告知する義務はないものと思われます。
なお、共同住宅で、密の状態になるのはエレベーター内ぐらいですので、エレベーター内に注意書き、例えば「マスク着用、大きな声のおしゃべりはお控え下さい」といった貼り紙や共用部分の消毒など、日頃から感染防止対策をされることをおすすめします。
A5. 新型コロナウイルス感染症は、病気の一種です。
また、適切な消毒をすれば、次の入居者が感染する可能性は考えられません。
即ち、「新型コロナ感染症」に罹患していたことは、心理的な瑕疵にも該当しないと思います。
従いまして、こうした事実を積極的に告知する義務はないと考えられます。
但し、入居希望者から前の入居者がコロナに感染していたかと問われた場合には、その事実を秘匿せず、正確な情報とその後の消毒等が完了しているならば、その旨を伝えられた方がよいと思われます。
では最後に、不動産オーナーが、テナントの賃料支払を減免したり、猶予した場合の支援策について、下表のとおりまとめましたのでご活用ください。
図表1は、2000年から20年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
20年初旬時点(以下、「20年」)では、「大阪市」の供給戸数の約79%が、「大阪市を除く近畿圏」の約72%が、単身者向け「1R」「1K-1LDK」の物件となっている。
00年は、「大阪市」の供給戸数の約69%が単身者向け、2居室以上のファミリー向けが約31%、「大阪市を除く近畿圏」では供給戸数の約49%が単身者向け、約51%がファミリー向けであったが、年々単身者向けの供給が増加傾向にある。単身者向け供給のピークは、「大阪市」が05年の約92%、「大阪市を除く近畿圏」は04年・08年の約78%であった。
但し、供給量については、ここ3年は減少傾向が続行している。
図表2~図表5は、近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数の推移(18年~20年)をまとめたものである。
① 「1R」タイプ(図表2)
20年の供給件数は、前年比で29%減。賃料は、65,000円台で、19年に比し1.7%上昇。専有面積は27.75㎡で前年より0.34㎡拡大し、賃料単価も1.5%上昇した。一時金月数は、前年より0.4ヶ月増加し、2.1ヶ月である。
② 「1K-1LDK」タイプ(図表3)
20年の供給件数は、前年比16%の減。賃料は76,000円台で、前年に比し7.3%上昇した。専有面積は35.44㎡で1.24㎡拡大し、賃料単価m3.1%上昇。一時金月数は1.8ヶ月で横ばい基調にある。
③ 「2K-2LDK」タイプ(図表4)
20年の供給件数は、前年に比し約3%の増加。専有面積は、59.44㎡で、前年より0.22㎡広がった。賃料は113,000円台で5.8%上昇、賃料単価も5.4%上昇している。一時金月数は、前年から0.2ヶ月減少し2.0ヶ月となった。
④ 「3K-3LDK」タイプ(図表5)
20年の供給件数は、前年に比し63%と激減。専有面積は75.73㎡で、前年より2.36㎡縮小した。賃料単価は17.8%上昇し、賃料も182,000円台と15%上昇した。一時金月数は、前年から0.3ヶ月減少し、2.3ヶ月。
⑤ まとめ
「1R」「1K-1LDK」「2K-2LDK」は、専有面積が拡大し、賃料単価も賃料も上昇。「3K-3LDK」も賃料単価が上昇しているが、新築分譲マンションの賃貸物件が多く、ファミリータイプも投資目的の対象となっている。
特筆すべきは、「1K-1LDK」「2K-2LDK」の専有面積の小振り化に歯止めがかかり、賃料が上昇しても需要がついてきている状況になりつつある点である。
⑥ エリア別
20年の大阪市の「1R」は、平均賃料67,700円、専有面積27㎡台で約1.6㎡の拡大。賃料単価は下落したものの、賃料は約3%上昇した。
「1K-1LDK」も同様で、専有面積は前年比1.6㎡拡大の32㎡台に。賃料単価は上昇し、賃料も81,400円と前年比で約9%上昇している。大阪市の「2K-2LDK」の約1/3は、大阪都心部で供給され、分譲マンションの賃貸が多い。都心部以外では、専有面積、賃料単価はほぼ横ばい地域が多く、都心部のみ賃料上昇が顕著である。
大阪府下で「1K-1LDK」の供給が多いのは堺市(専有面積38㎡台、賃料74,000円台)、東大阪市(同36㎡台、同68,000円台)、吹田市(同34㎡台、同83,000円台)、茨木市(同37㎡台、同79,000円台)。吹田市は大阪市の賃料を上回っている。「2K-2LDK」の供給量多いのは、東大阪市(同59㎡台、85,000円台)、豊中市(同67㎡台、129,000円台)。
芦屋市、西宮市、尼崎市の阪神エリアでも、供給の主流は「1K-1LDK」で、尼崎市の供給が多い。阪神エリアの専有面積は、35㎡台、平均賃料は77,000円台である。
神戸市エリアの供給の主流も「1K-1LDK」。中央区と都心へのアクセスの良い兵庫区の供給が多い。神戸市東灘区、灘区、中央区の3区の平均賃料は、専有面積34㎡台で89千円台。19年に比し約5%の上昇となっている。
国土交通省「平成30年度 住宅市場動向調査」(19年3月)によると、民営借家に住む世帯主の平均年齢は、首都圏39.2歳、中京圏37.7歳、近畿圏39.8歳で大きな年齢格差はない。
年収は首都圏530万円、中京圏506万円、近畿圏453万円で、近畿圏が低い。ただし、平成29年度調査(以下、「前回」)結果の平均年収と比較すると、首都圏8.8%上昇、中京圏5.2%上昇、近畿圏15.3%上昇と近畿圏が最も上昇している。
「支払家賃 + 共益費」で見ると、首都圏が88,868円、中京圏67,054円、近畿圏74,791円で、近畿圏は中京圏より支払いコストが高い。また、前回結果と比較すると、首都圏は2.6%上昇、中京圏は1.3%上昇、近畿圏は8.6%上昇と近畿圏の上昇率が最も高かった。
勤務先からの住宅手当があるのは首都圏26.8%、中京圏27.0%、近畿圏23.9%と中京圏は手厚いが、前回結果と比較すると、中京圏の3.7ポイント低下に対し、首都圏8.0ポイント上昇、近畿圏5.0ポイント上昇している。勤務先からの住宅手当については、首都圏が月38,857円、中京圏が月28,567円、近畿圏が月34,411円。首都圏は前年比15.2%上昇、近畿圏は26.4%上昇したが、中京圏は12.2%低下している。
世帯主の職業では三大都市圏とも「会社員・団体職員」の占める割合が最も高く首都圏53.0%、中京圏40.4%、近畿圏37.1%。次に多いのは「会社・団体役員」で、首都圏15.8%、中京圏22.5%、近畿圏24.5%である。
家賃の負担感については、負担感がある(「非常に負担感がある」「少し負担感がある」の合計)割合は、首都圏54.4%、中京圏51.7%、近畿圏57.8%で近畿圏が最も高いものの、前回結果比では首都圏10.0ポイント、中京圏0.7ポイント、近畿圏11.1ポイント低下となっている。
以上の調査結果から、景気の拡大により企業の人手不足が深刻になり、雇用を拡大するために、賃金や住宅手当等の福利厚生を改善したものと思われる。このため、賃料が上昇しているにもかかわらず、入居者の家賃の負担感が低下している。景気の好況感が20年も継続するならば、賃料の上昇に需要がキャッチアップできるため、新規住宅賃料は値崩れすることはなく、堅調に推移していくものと予測する。
図表1は、2000年から19年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
19年1月初旬時点(以下、「19年」)では、「大阪市」の供給戸数の約84%が、「大阪市を除く近畿圏」も約72%が、単身者向け「1R」「1K−1LDK」の物件となっている。
00年は、「大阪市」の供給戸数の約69%が単身者向け、2居室以上のファミリー向けが約31%、「大阪市を除く近畿圏」では供給戸数の約49%が単身者向け、約51%がファミリー向けであったが、年々単身者向けの型式の供給が増加傾向にある。
単身者向け供給のピークは08年で、「大阪市」が約88%、「大阪市を除く近畿圏」が約78%。近年では、「大阪市」が約84〜85%、「大阪市を除く近畿圏」が約71〜72%で推移している。
図表2〜図表5は、近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
① 「1R」タイプ(図表2)
19年の供給件数は、対前年比で14%減。総額賃料は、63,000円台で、18年に比し、3.8%上昇。専有面積は、27.41㎡で前年より0.09㎡縮小した一方、賃料単価は対前年で3.4%上昇した。一時金月数は、前年より0.1ヶ月減少し、1.7ヶ月である。
② 「1K−1LDK」タイプ(図表3)
19年の供給件数は、対前年比20%の減少。賃料は、71,000円台で、対前年比で0.7%の微増。専有面積は、34.20㎡で0.08㎡縮小し、賃料単価は0.7%上昇した。一時金月数は、1.8ヶ月で横ばい基調。
③ 「2K−2LDK」タイプ(図表4)
19年の供給件数は、前年に比し約18%減。専有面積は59.22㎡で、前年に比し0.61㎡広くなった。賃料は104,000円台で8.6%上昇。賃料単価も6.3%上昇している。一時金月数は、昨年の2.2ヶ月から0.1ヶ月上昇し2.2ヶ月となった。
④ 「3K−3LDK」タイプ(図表5)
19年の供給件数は、前年に比し18%減少。専有面積は78.09㎡で、前年より0.52㎡広がった。賃料単価は2.8%下落し、賃料は158,000円台で2.0%下落となった。一時金月数は、前年から0.1ヶ月減少し2.6ヶ月。
⑤ まとめ
近年の建築費の高騰により、単身者向けの「1R」「1K−1LDK」は専有面積を圧縮することにより賃料を抑えてきたが、それも限界に近付いている。専有面積の縮小にストップがかかり、賃料は上昇基調が明確になっている。
反対に、ファミリー向けは専有面積が拡大傾向にあるが、これは分譲マンションの新規賃貸が増加しているためである。特に「3K−3LDK」は、大阪市内で都心区の分譲マンションが供給の多くを占め、賃料も23万円を超えている。一時金月数も2.6ヶ月と、近畿圏の平均値を上げている。大阪市を除く近畿圏の賃料は14万円。専有面積も77.56㎡と変化はなく、一時金月数は前年の2.8ヶ月から2.5ヶ月に下落している。
⑥ エリア別
19年の「1R」は、平均賃料が65,900円、専有面積25㎡台で賃料単価は上昇している。「1K−1LDK」も同様で、専有面積は前年より1㎡弱縮小しているのにもかかわらず、賃料単価は上昇。平均賃料74,400円、専有面積31㎡台である。大阪市の「2K−2LDK」は、都心部では分譲マンションの賃貸が主で、大阪市全体の約39%を供給している。都心部以外の専有面積は40㎡台の供給もあり、総じて小振りである。
国土交通省「住宅市場動向調査」によると、近畿圏で賃貸需要がある世帯主の職業は、首都圏や中京圏に比べると「自営業」「派遣社員・短期社員」「無職」の割合が高い。最も多いのは三大都市圏とも「会社員・団体職員」である。
賃貸住宅を選ぶ理由の第1位は、「賃料が適切か」。かつては、新築で設備が良ければ背伸びして予算より高いマンションを選んだ時代もあったが、ここ5〜6年、予算をオーバーするマンションは選ばない傾向にある。第2位は「住宅の立地環境」であるが、近畿圏では「昔から住んでいる地域だったから」「親・子供と同居した、近くに住んでいたから」が他圏より多く、地縁的選好性が高い。
また、他圏では「住宅の広さが十分」を約6割が選んでいるのに対し、「近畿圏」では約48%。「間取り・部屋数が適当だから」で住宅を選んだのは他圏が70%台であるのに対し、近畿圏は59%にとどまっている。
こうした需要動向調査をみると、近畿圏は「住宅の広さ」への選択理由の割合が低い。近畿圏は3圏の中でも「賃料の負担割合が高い」と感じており、予算を優先し、「広さ」については我慢しているとみられる。
建築費・地価上昇を賃料に転嫁すると需要が離れることから、ここ4〜5年、専有面積の圧縮が進行していたが、18年から専有面積の圧縮にストップがかかり、賃料単価の上昇がみられる。特に最多供給の「1K−1LDK」はシングルのみならずカップルが積極的に選んでいる。19年も「広さ」を犠牲にして、「立地」と「賃料帯」で選択する需要に支えられて「1K−1LDK」の供給が増加していくものと予測する。
下<図1>は、2000年から2017年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
リーマンショック後の2009年から「大阪市」「大阪市を除く近畿圏」共に単身者タイプの供給割合は縮小し始め、反対に「2K−2LDK」の供給割合が増加した。
これは、「1ルーム」の供給過剰による空室率の上昇が顕著になったこと、団塊ジュニア世代の第一子が学童期前後になったため、広めの住宅の住み替え需要が増加してきたことなどによる。
しかし、こうした需要も一巡し、2015年以降は再び「1K−1LDK」の供給割合が増加に転じた。この背景としては、単身者需要に加え、カップル需要が「1K-1LDK」タイプを選択していることがある。
都心で利便性の良い立地では、ファミリー向け賃貸住宅の家賃は高額であるため、予算に合う小型タイプを選択せざるを得ないためである。
<表1>〜<表4>は、近畿圏全体(大阪市も含む)の毎年1月初旬におけるタイプ別の賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
(1)「1ルーム」タイプ <表1>
2017年の供給件数は、対前年比で13%減少した。賃料は、61,800円台で、2016年に比し微増。専有面積が27.30㎡で前年より0.42㎡拡大し、賃料単価も微増したためである。一時金月数は、前年より0.4ヶ月減少し、1.9ヶ月と2ヶ月を割り込んだ。
(2)「1K−1LDK」タイプ <表2>
2017年の供給件数は、対前年比16.5%増加している。賃料は、70,000円台で、対前年比2.0%下落した。専有面積は、35.02㎡で前年より0.28㎡縮小し、賃料単価も0.6%の微減であった。一時金月数は、2.0ヶ月から1.9ヶ月に減少した。
(3)「2K−2LDK」タイプ <表3>
2017年の供給件数は、前年比で5%増と2015年の729件には及ばないものの増加した。専有面積は57.96㎡で、前年比で0.47㎡小さくなった。賃料単価も1.9%下落した結果、賃料も96,000円台で2.8%下落した。一時金月数は、昨年の2.3ヶ月から0.1ヶ月減少し、2.2ヶ月となった。
(4)「3K−3LDK」タイプ <表4>
2017年の供給件数は、前年に比し、10%減少した。専有面積は75.92㎡で前年より0.7㎡広がったが、総額賃料は139,000円台で6.5%の下落となった。一時金月数は、2.7ヶ月で変動はない。
(5)まとめ
過去の調査によると、2012年では全タイプで賃料単価の下げ止まりが観測され、2013年では、賃料単価は横ばい、微増で安定感が顕著となった。2014年では賃料単価は上昇したものの、2015年では、「1ルーム」を除いて下落。2016年調査では「2K−2LDK」を除いて、専有面積の小振化が一層進み、賃料単価は上昇するも、「1ルーム」「1K−1LDK」の総額賃料は下落している。
反面、「2K−2LDK」「3K−3LDK」のファミリータイプの総額賃料は上昇した。
また2016年調査では、専有面積の縮小が顕著に表れた。建築費・地価の上昇が原因で2014年の新規賃料は上昇したが、その結果、新築物件に需要が集まらず、満室にするのに苦戦を強いられた。
その後の新規供給では需要層が借り易くするため、総額賃料をおさえるべく、専有面積を縮小した。そうした傾向も2017年調査では歯止めがかかり、賃料単価はシングル層向けタイプが安定傾向にある。
(6)戸建賃貸 <表5>
2017年の供給件数は、前年に引き続き減少し、専有面積は、前年の84㎡台から85㎡台に拡大したが、賃料単価は、前年に比し1.0%下落したため、総額賃料は前年より1.9%下落した。一時金月数は前年より0.3ヶ月減少し2.6ヶ月である。
(7)エリア別動向
エリア別にみると、大阪市では「1K‐1LDK」の供給が前年より増えているが、大阪都心区より周辺区での供給が目立つ。神戸市では逆に中心区での供給増となっている。京都市は各型式とも供給源となっている。
利便性志向が継続。1DK・1LDK供給増も
近畿圏の賃貸需要は首都圏、中京圏に比すると昨年に引き続き、芳しくない。
国土交通省「平成27年度 住宅市場動向調査」(2016年3月)によると、賃貸受託の世帯主の平均年齢は、首都圏36.1歳、中京圏39.0歳、近畿圏37.9歳と首都圏と近畿圏は同年齢が近いが、世帯年収は首都圏461万円、中京圏469万円、近畿圏424万円と三大都市圏内で最も低い。
「支払家賃 + 共益費」でみると、首都圏が85,523円、中京圏68,737円、近畿圏69,945円で中京圏より支払コストは高い。
さらに勤務先からの住宅手当があるのは首都圏24.2%、中京圏33.7%、近畿圏24.8%。世帯主の職業では三大都市圏とも「会社員・団体職員」の占める割合が最も高い(首都圏47.0%、中京圏53.9%、近畿圏44.4%)が、近畿圏は、他圏より「自営業」「派遣社員・短期社員」「年金受給者」「無職」の割合が高いのが特徴だ。
家賃の負担感については、負担感がある(「非常に負担感がある」「少し負担感がある」の合計)割合は、首都圏64.9%、中京圏55.1%に対し、近畿圏は70.6%で近畿圏が最も高く、支払コストが年収に占める割合、即ち、家賃負担率は首都圏22.3%、中京圏17.6%、近畿圏19.8%で、首都圏に次いで高い。
2017年の弊社の賃貸市場調査結果では、建築費の高騰を吸収すべく、専有面積を小振化し、総額賃料を抑えている傾向は継続しているものの、専有面積の極端な縮小はどの型式でもなくなってきた。
また、シングルタイプの「1ルーム」、「1K‐1LDK」は賃料単価の動きが微少で安定化の傾向が見て取れる。ファミリータイプの賃料は未だ調整局面にあるものの、2017年度は各型式とも賃料は安定化していくものと予測する。
また、需要の利便性志向は今年度も続行し、その結果、所得に見合う家賃の支払限界から「住宅の広さ」を犠牲にせざるを得ず、今年度も賃貸の主流は「1K‐1LDK」となるが、特にカップル需要が選択する「1DK」「1LDK」の供給が増加していくものと予測する。
さらに、分譲マンション価格が、地価・建築費の上昇に伴い高騰したため、近畿圏マンション販売価格は年収の8.1倍にまで上昇し契約率が低下している。このような状況は賃貸住宅を選ぶ需要増につながるため、今年の新築賃料は安定することも予測される。
出張中のビジネスマンが宿泊先を確保できないほど、大阪ではホテル需要が活況だ。商業の中心地である心斎橋のアーケード街には外国人観光客が殺到しており、今後のホテル需要の堅調さは容易に想像がつく。
大阪のホテル市場が活況である。
東京から出張のビジネスマンが大阪で宿が取れないと嘆く程である。
<図1>は、2001年度から2014年度までの大阪市、京都市、奈良市、神戸市の客室稼働率の推移を表したものである。
大阪市は2002年度〜2005年度間は、76%〜78%の客室稼働率であったが、ファンドバブル期に入って、2006年度、2007年度は80%台になったものの、2008年のリーマンショック以降、客室稼働率は悪化した。2010年度に稼働率回復の兆しがみえ、2011年度は2010年度より改善しているが、これは東日本大震災により、東京から一時的に避難した層の影響による(主として外資系)。2012年度に83.1%と2001年度の水準に回復して以降、2013年度、2014年度と客室稼働率が上昇している。
(注)上記数字については月刊HOTERES掲載の「週刊ホテルレストラン調べ」による客室稼働率を弊社にて集計し、年度別に整理した。
<図2>は、訪日外国人旅行者数の推移を表したものである。
これによると、2011年の震災時は大幅に減少したものの、2012年以降、訪日外国人旅行者数は急増している。
即ち、客室稼働率の上昇と訪日外国人旅行者数の急増は、リンクしていることがわかる。
外国人旅行者数は、中国、台湾、東南アジアを中心に急増しているが、その背景としては、ビザ免除若しくはビザ発給要件の緩和、航空路線の拡大(特にLCC)、円安等の効果が掲げられよう。
(注)出典:日本政府観光局(JNTO)
大阪ホテル市場は、世界に名高い観光地「京都市」へのアクセスが良く、市内にはショッピングゾーンが充実しており、東南アジアにアクセスが良い(関西新空港は2016年第3ターミナルを供用開始する)ことから、インバウンド効果をもろに受けているが、2014年以降は大阪USJ(ユニバーサルスタジオ)のハリーポッター館開業効果も見逃せない。
また、円安が大きな追い風となっている。
今後も、2019年開催の「ラグビーワールドカップ」、2020年開催の「東京オリンピック・パラリンピック」、2021年開催の「関西ワールドマスターズゲームズ」等、観光客を誘致するビックプロジェクトが続いている。
こうした中で言われているのが、ホテル客室不足である。平成26年6月「観光立国推進閣僚会議」による「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」では、2020年を重要な通過点として訪日外国人旅行者数を3,000万人に増やす目標を掲げ、外国人旅行者の多様な滞在ニーズに応えるため、古民家・町屋の再生、農林漁業体験民宿や国家戦略特区制度を活用した滞在施設の利用に向けた取り組みや、大規模イベントの開催時に宿泊需給が一時的に逼迫する場合への対応として、既存の宿泊施設以外の施設の活用の検討を記しているが、現時点では旅館業法により、その取り組みは進捗しているとはいえない。大阪市内のホテル客室数は平成22年度の46,573室から平成24年度の46,509室とほぼ横ばい状態が続いている。
無論、ホテル需要が高まっている近年、供給側も主として建設業界や不動産業界から新規にホテル事業に進出する意欲のある企業は大幅に増加している。
しかしながら、都心部の地価と建築費の高騰から、ホテル運営会社が提示する家賃では、投資採算性が低く、新規ホテル供給は思うように増加していない。既存ホテルについては、J-REIT、S-REITの他、投資ファンドや外国企業、国内外の富裕層の購入意欲が高く、ホテル売買価格は高騰している。
以上、大阪ホテル供給市場は、需要増に比すると大きな後れをとっていると言わざるを得ない。
しかしながら、大阪シティホテル市場のADR(Average Daily Rate = 平均客室販売単価)、RevPAR(Revenue Per Available Room = 1日当り販売可能客室数あたり客室売上)をみると、2014年4月と2015年4月の比較では、大阪はADRが+30.9%、RevPARが+34.7%と著しく上昇している。これは、東京(同期間でADR+14.6%、RevPAR+14.5%)に比しても、極めて大きな伸び率である。
こうした状況が継続すれば、高い地価、建築費のリスクをとっても、ホテルビジネスに参入してくる企業は、今後、増加していくものと予測する。
一、所得環境改善の遅れから賃料は下落、1居室タイプの供給が主流に
下<図1>は、2000年から2015年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
2008年までは、「1R」「1K−1LDK」の供給シェアが高く、2008年では、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市除く)全体の78.4%が単身者向けであった。
ところが、2009年から大阪市、近畿圏ともに単身者タイプの供給は縮小し始め、2012年まで「2K−2LDK」タイプの供給が増加した。しかし、2013年以降は、「2K−2LDK」「3K−3LDK」のファミリータイプの供給割合が減少傾向にあり、再び「1R」「1K−1LDK」の供給割合が上昇している。
2015年の大阪市の供給割合では、「1R」が7.5%で対前年比0.9ポイント上昇、「1K−1LDK」が71.0%で4.9ポイント上昇する反面、「2K−2LDK」は17.7%で4.8ポイント、「3K−3LDK」は3.9%で0.9ポイント減少している。
近畿圏全体では、「1R」が7.0%(対前年比1.3ポイント上昇)、「1K−1LDK」が63.1%(同1.6ポイント上昇)、「2K−2LDK」が24.7%(同1.8ポイント減少)、「3K−3LDK」が5.2%(同1.1ポイント減少)であった。「2K−2LDK」は、供給戸数は前年より増加しているものの、供給割合では減少している。
図表2〜図表5は、近畿圏全体(大阪市も含む)新規賃貸マンションタイプ別総額賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
(1)「1R」タイプ
供給件数は、2年連続で増加している。総額賃料は、63,000円台で、2014年とほぼ同じ水準である。賃料単価は1.6%上昇したが、占有面積が28.16㎡で前年より0.45㎡狭くなり、総額賃料はほぼ変化がない。一時金月数は、前年より0.1ヶ月減少し、2.2ヶ月となった。
(2)「1K−1LDK」タイプ
供給件数は、前年比で16%増加している。総額賃料は、72,000円台で、対前年比2.7%下落した。専有面積は、36.43㎡で前年より0.52㎡縮小し、賃料単価も0.5%下落した。一時金月数は、2.4ヶ月から2.2ヶ月に減少した。
「1K−1LDK」は供給の主流タイプであり、賃料単価は底堅い動きを示していたが、賃貸需要の所得環境の改善の遅れから、面積を小振りにし、総額賃料をおさえる動きが顕著となっている。
(3)「2K−2LDK」タイプ
供給件数は、前年比で約5%増加した。専有面積は58.26㎡微減。賃料単価は2.6%下落し、総額賃料は95,000円台で3.6%下落した。一時金月数は、2.2ヶ月で0.2ヶ月減少した。
(4)「3K−3LDK」タイプ
供給件数は、前年比で6.7%減少した。専有面積は76.34㎡で前年より1.31㎡縮小したが、賃料単価も1.4%下落し、総額賃料は145,000円台で5.5%の下落となった。一時金月数は、2.8ヶ月と0.2ヶ月減少した。
(5)まとめ
2012年では全タイプで賃料単価の下げ止まりが観測され、2013年では、賃料単価は横ばい、もしくは微増で安定感が顕著となった。2014年では賃料単価は上昇したものの、2015年では、賃料単価は「1R」を除いて下落し、賃料調整局面に入っている。
理由としては、建築費・地価の上昇により、2014年は新規賃料を上げたものの、ユーザーの所得環境の改善の遅れから、上昇した賃料についていけなかったことと、相続税対策のための貸家建設が大量供給されたことから、賃貸住宅間の競争が激しくなったことが考えられる。
図表6は、戸建賃貸を集計したものである。
供給件数は120件で前年比32%の大幅な増加となっている。総額賃料140,100円で1%下落した。専有面積は、2.51㎡増の87㎡台である。賃料単価は、1.6%下落した。戸建賃貸も需要環境の厳しさから賃料は下落に転じている。一時金月数も2015年は前年比で、0.7ヶ月下落している。
以上をもとに、2015年は次のように予想する。
二、相続税対策で増える貸家が空家率上昇要因に
国土交通省 住宅局「平成25年度住宅市場動向調査 報告書」によると、近畿圏の民間賃貸住宅の世帯主の年齢は、近畿圏36.9歳であるが、平均世帯年収は、401万円で、首都圏・中京圏と比べると最も低く、勤務先からの住宅手当がある割合も23.3%と最も低い。
平均月額家賃は、共益費込で71,574円で、収入に対する賃料負担率は、近畿圏が21.4%である。また近畿圏は、敷金・保証金・礼金等の一時金月数「3ヶ月以上」が他エリアより多く、賃貸のイニシャルコストが高い。
以上、近畿圏の賃貸需要の特性から鑑みると、建築費、土地代の高騰を賃料に転化することは困難であり、新規募集賃料を需要見合いまで調整せざるを得ない。
1居室タイプの需要層が増える一方で、40歳前後となる団塊ジュニア世代の住み替えは一巡したため、2居室以上の需要は減少する。
また、所得環境の改善の遅れから、1居室タイプがカップル層の予算内の家賃であり、特に「1DK」「1LDK」が増加する。
図表7をみると、近畿2府4県のうち、最も空家率が高いのは和歌山県であるが、空家のうち、賃貸住宅が占める割合が高いのは大阪府である。
政令指定都市で最も空家率が高く、また空家のうち、賃貸住宅が占める割合が高いのも大阪市である。
人口減少時代における貸家建設の増加は更なる空家率の増加をまねくことになる。
2015年調査では全タイプで一時金下数は下落しており、今年もこの傾向が続く。
固定資産課税台帳に登録された価格について、不服がある納税者は、各市町村に設置されている固定資産評価審査委員会に不服の審査を申し出ることができます。
手続きの流れは下図を参照して下さい。
審査の申出をすることができる人は、固定資産税の納税者、即ち「その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産の所有者」です。
納税義務者でない方(例えば、借地人や借家人)がした審査の申出は却下されます。
固定資産課税台帳に登録された3年に1回の基準年度(今回は平成27年度)の課税についてです。
但し、価格を算出する下記の要因も含み、基準年度以外でも審査申出ができる場合があります。
土地 |
|
---|---|
家屋 |
|
課税台帳に価格等を登録した旨の公示の日(地方税法411条2項)から、納税通知書の交付を受けた日後60日までです。(14年度改正地方税法432条1項本文)
審査申出期間中に天災その他、審査申出をしなかったことにやむを得ない理由があるときは、その理由がやんだ日の翌日から起算して1週間以内に審査申出の申出ができます。(地方税法432条2項 行審法14条1項ただし書き、2項および4項)
「納税通知書の交付を受けた日」または「通知を知った日」は、必ずしも現実に知ったかどうかにかからず、社会通念上、関係者の了知し得べき状態におかれたときは、特別の事情がない限り、これを知ったものと考えられています。
また、「やむを得ない理由」とは、「地震、暴風、落雷等の自然現象、火災、交通の途絶等、人為による異常な災害に基因する場合等、審査申出人の責めに帰することができない理由」と考えられ、申出人が(1)審査請求期間を知らなかった。(2)多忙であった。(3)出張していた。(4)家族が受け取っていて、本人が送達日を知らなかった。(5)入院していた。(6)休暇中であった。といった理由はやむを得ない理由にはあたりません。
審査申出は文書でしなければなりません。通常は審査委員会で審査申出書を作成していますので、その用紙に記載します。
申出書には、「審査の申出の趣旨」「審査申出の理由」を記載するところがあります。
「審査の申出の趣旨」は、委員会に対して決定を求めるべき結論をいい、「評価額○○円を○○円にして下さい」というように、具体的にかつ明瞭に記載することが望ましいですが、記載内容の全体から判断して「審査の申出の趣旨」が特定できるような表示であれば、それで足りると考えられています。
「審査申出の理由」は、審査の申出を支持し、理由あらしめる法律上及び事実上の根拠をいい、理由について、単に「評価が高いから」というだけでは不足で、いかなる理由に基づいて主張するのか、できるだけ具体的に書くことが必要です。
また、「口頭意見陳述を希望する」欄があり、口頭意見陳述とは、委員会の委員の前で審査申出の趣旨や理由を口頭でのべる場であり、文章では書きにくいけれど、口頭でなら説明できるという方はぜひ、希望して下さい。
委員会の方も審査申出人がどういう理由で審査申出したか、理解を深めることができますので。
審理は原則として書面審理ですので、審査申出書が出されると、市町村長から弁明書が提出されます。
その弁明書に対して審査申出人が反論したいことがあれば反論書を提出します。
委員会は双方の争点の整理を行って、必要ある場合、実地調査を行い、審査の決定を行います。
委員会の決定内容が確定しますと、文書(決定書)として作成します。
決定は、(1)却下、(2)棄却、(3)認容の3つに区分されます。
(1)の却下は、申出が申出期間後にされた場合や申出人の資格がない者が審査の申出を行った場合や、課税台帳の登録価格以外の申出を行った場合に却下の決定をします。
(2)の棄却は、審査の申出は、適法だけれども実体的には理由がないということで原処分を是認する決定(即ち、台帳登録価格を是認すること)を下すことで、棄却したからといって、登録の効果が強められるものではありません。
(3)の認容は、全部認容と一部認容があり、全部認容は、申出人の主張を主張どおり正しいとすること、一部認容は、例えば市町村長が決定した価格は下回るが、審査申出人の主張している価格よりは高い価格を決定する場合です。
審査委員会が行った決定に不服がある場合は、審査委員会が所属する市町村を被告として、裁判所に提起することになりますが、決定があったことを知った日から6ヶ月以内に提起しなければなりません。
以上、審査申出の流れと留意点をご説明しましたが、審査申出制度の利用は納税者の権利ですので、納得できないことは期間と申出できる事項に注意して、審査申出をしましょう。
特に価格については、原則として来年の基準年度(平成27年度)になりますので、この機会をぜひ活用して下さい。
毎年1月に関西不動産市場の予測レポートを発表し、地価、賃料、マンション価格の予測を発表しております。
今年3月に発表された大阪府の地価公示結果を見ると、商業地における地価上昇率ベスト5は福島区福島6丁目(+11.1%)、中央区河原町2丁目(+10.7%)、中央区安堂寺町2丁目(+10.5%)、北区野崎町(+10.3%)、北区大淀南1丁目(+10.2%)が上位となりました。商業地としてはすべてセカンド立地です。背景にはマンション開発用地として取引が過熱していることがうかがえ、依然としてオフィス需要よりもマンション需要が上回っているのです。
しかしながら商業業務施設のオープンが続いた北区梅田地区、中之島地区や、アパレル関係の出店や海外観光客の回復効果で中央区の心斎橋エリアも、上位のマンション立地ほどではありませんが、地価の上昇は拡大しています。
今後の不動産市況で問題視されるのが建築費の上昇です。建築費の上昇分は不動産価格や募集賃料に反映されますが、ユーザーがその価格や賃料上昇に追いつけない懸念があります。
大阪貸ビル市場の最近のテナントの傾向をみますと、神戸市や大阪隣接市から北区梅田エリアへ移転の動きが活発になっており、北区梅田エリアに一極集中している観があります。
「選ばれるビル」の定義とは何か。
東京の貸ビルトレンドを俯瞰すると、やはり耐震性や停電対策といった高レベルのBCP機能、加えて企業の社会的責任に寄与する省エネ性能が設備(ハード)面における重要ファクターだが、「今後はソフト面のサービスが重視される時代になる」と予想する。
今後のオフィス市場の展開では、女性労働力がますます重要視されることから、女性が働きやすい職場環境が求められる。とすると、働き方も当然今までのようにオフィスに9時から17時まで勤務といった従来型勤務形態から在宅勤務やワークシェアリングといった勤務形態が増えていくことが予想される。低成長時代かつ少子高齢化が進む日本の活性化を目指すためにワークスタイルはこれから大きく変化していくだろう。
OA革命からオフィスビルのハード面は著しく進化し、オフィスも広くなっていったが、今後はハード面もさることながらソフト面のサービスが重視される時代になるのではないだろうか。
下<図1>は、不動産ポータルサイトに掲載された情報をもとに2000年から2014年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
2008年までは、「1ルーム」「1K−1LDK」の単身者向けの供給が増加傾向にあり、2008年では、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市除く)全体の78.4%が単身者向けであった。
ところが、2009年から大阪市、近畿圏ともに単身者向けの供給は縮小し始め、2012年まで「2K−2LDK」タイプの供給が増加した。2013年には「2K−2LDK」「3K−3LDK」タイプのファミリータイプの供給割合が減少し、「1ルーム」「1K−1LDK」の単身者向けの供給割合が上昇した。しかし、2014年は「1K−1LDK」が66.1%と前年比5.1ポイント減少、一方で「2K−2LDK」が22.5%(1.6ポイント上昇)、「3K−3LDK」が4.8%(2.5ポイント上昇)と、ファミリータイプの供給が増加している。
近畿圏は2012年からシングルタイプとファミリータイプの割合は65対35で推移していたが、2014年は67対33とシングルタイプの割合が上昇した。
近畿圏全体では、「1ルーム」5.7%(0.5ポイント減少)、「2K-2LDK」26.5%(1.3ポイント減少)、「3K−3LDK」6.3%(1.3ポイント減少)の供給割合が減少し、「1K−1LDK」のみ61.5%と3.2ポイント上昇した。
<表1>〜<表4>は、<図1>と同様不動産ポータルサイト掲載情報をもとにした近畿圏全体(大阪市も含む)タイプ別の総額賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
(1)「1ルーム」タイプ
総額賃料は対前年比△0.7%の微減。賃料単価は、4.4%上昇している。一時金月数は、2.3ヵ月と0.6ヵ月減少。専有面積は、28.61㎡で前年より1.33㎡縮小したため、総額賃料は下落した。
(2)「1K−1LDK」タイプ
総額賃料は対前年比2.3%上昇。専有面積は前年より0.08㎡縮小。賃料単価は、1.5%の上昇。一時金月数は0.2ヵ月の減少となった。「1K−1LDK」は供給の主流タイプ。賃料単価は底堅い動きを示し、専有面積はやや小振り化したが、総額賃料は上昇傾向にある。
(3)「2K−2LDK」タイプ
総額賃料は対前年比2.5%増で、年々上昇している。専有面積は前年より0.59㎡縮小したが、2011年以降58㎡台で推移している。賃料単価は3.3%の上昇。ただし、一時金月数は0.5ヵ月減少した。
(4)「3K−3LDK」タイプ
総額賃料は、対前年比17.8%の大幅上昇。専有面積は前年より0.33㎡広大。賃料単価は14.0%の大幅上昇。これは大阪市内での高額賃貸物件増により、平均賃料が上昇したものである。一時金月数は0.1ヵ月減少した。
(5)まとめ
2012年は全タイプで賃料単価の下げ止まりが観測され、2013年では、賃料単価は横ばい、微増で安定感が顕著となり、2014年は賃料単価は上昇機運にある。
ただし、専有面積が狭くなってきており(「3K−3LDK」を除く)、総額賃料を調整しているが、総額で下落しているのは「1ルーム」のみで、他のタイプは上昇している。一時金月数は全てのタイプで減少傾向にある。一時金月数の下落は総額賃料が上昇しているため、入居時の負担を減らして入居促進策をとっているためと考えられる。
<表5>は、戸建賃貸を集計したものである。
比較的安定して供給がある。専有面積は2011年の90㎡台から2012年以降は、83㎡〜84㎡台で推移している。
賃料単価は、2014年では1,652円/㎡と、対前年比0.3%の微増であるが、専有面積が1.57㎡広くなったため、総額賃料は4.1%上昇した。
一時金月数は、2011年の5.2ヵ月から下落傾向にあったが、2014年は3.6ヵ月で下落傾向に歯止めがかかった。
以上をもとに2014年は次のように予想する。
1.新築賃料は建築費アップを反映して上昇するも、需要離れにより、下落する。
2014年新築賃料の上昇は、景気回復の表われではなく、専ら労賃と資材の高騰による、建築費によるものである。特に2013年9月以降、急上昇している。
大阪の標準建築費指数は、鉄筋コンクリート造の集合住宅は2013年12月の対前年同月比で5.3%の上昇、鉄骨鉄筋コンクリート造では同6.0%の上昇であるが、ゼネコン、マンションディベロッパーへのヒアリングでは、25%〜30%上昇しているとの回答を得た。
このコストアップのため、新築賃料は上昇するが、関西の勤労者世帯の所得環境は改善しておらず、賃料負担力がないため、需要離れが起こり、結局募集賃料を下落せざるを得なくなる地域が出現する。
2.建築費の高騰により、コストは上昇するも、専有面積を圧縮して総額家賃を抑えていく。
前述したように、コストアップを家賃に転化すると、賃貸需要の支払能力の限界から需要離れを引き起こす恐れがあるため、専有面積を圧縮して総額家賃を抑えていくことになる。
3.相続税対策による新設貸家戸数が増加するのに比例して、空家が増加する。
下表のとおり、大阪府の2013年貸家の新設住宅着工戸数は27,114戸で、対前年比+22.5%と増加している。持ち家が同11.2%、分譲住宅が同5.1%、総数で同12.5%増加であるので、貸家建設は著しく伸長していることがわかる。
これは、相続税対策として貸家建設により、借入金をおこす、また、貸家を建設することにより、固定資産税等を軽減するといった目的などによりみられた現象であるが、既に大阪府の賃貸住宅の空家率は住宅総数に対し、9%(平成20年 住宅・土地統計調査報告 総務省)に達している。
それに対し、住宅需要層でボリュームのあった団塊ジュニア世代は39歳〜42歳に達し、持ち家、賃貸への住み替えは一巡しており、次世代の需要層の人口ボリュームは急速に減少することから、住宅需要そのものの減少が始まる。
従って、賃貸住宅市場では供給の増加に伴い、賃貸住宅の空家数も比例して増加していくものと予想する。
(国土交通省 住宅着工統計による)
4.都心立地の「1ルーム」マンションについては、投資需要が厚いため「1ルーム」の供給が増加する。
都心部の地価は上昇が継続しているが、建築費の高騰により、エンドユーザー向け分譲マンションディベロッパーは都心部から撤退し、ファンド・リート・投資向け分譲マンション業者が進出している。
地価・建築費コストが上昇しても、単身者向け賃貸マンションであれば、専有面積を小振りにして賃料単価を高くすることが可能であることから、投資向け分譲マンションディベロッパーの参入は増加する。
また、購入層である投資家も預貯金が低金利であるため、需要層が厚く、「1ルーム」「1K」の供給は増加する。
平成25年地価公示結果の近畿の府県別・用途別の年間変動率は以下の表の通りで、すべての府県で住宅地・商業地・工業地の地価は下落が続行しているものの、下落率は縮小傾向にある(例外は和歌山県工業地のみ)。
大阪市内の商業地では、平成25年地価公示結果で△0.1%と平均では下落であるが、前年公示では△2.4%であったことから、下落率は大幅に縮小している。
区別では、阿倍野区+1.5%(平成24年地価公示結果では+0.9%)、天王寺区+0.9%(同▲0.3%)、福島区+1.1%(同▲0.2%)、西区+0.8%(同▲0.5%)、北区+0.7%(同▲2.9%)で、都島区、城東区は±0%と横ばいをつけた。大阪市内商業地のマンション用地の需要が強い地域で上昇ないし横ばい地点が出ている。
大阪都心部をみると、上昇率トップは対前年比+4.1%の「北区梅田1丁目」(「地価公示番号「大阪北5-29」」)で平成24年の△2.1%からプラスに転じた(1㎡当り価格は7,700,000円)。上昇率第2位(+2.8%)は「北区中之島3丁目」(地価公示番号「大阪北5-18」1㎡当り価格1,480,000円)、第3位(+2.6%)は「北区角田町」(「地価公示番号「大阪北5-1」(1㎡当りの価格7,230,000円)と、上昇率ベスト3は「大阪市北区」で占めている。
また、価格順位では「北区大深町」、もと梅田北ヤードの先行開発地区の内「グランフロント大阪Aブロック」に地価公示標準地が新設され、今まで大阪の最高地点、前記「大阪北5-29」を抜いて8,470,000円/㎡と、大阪市第1位の価格となっている。
先行開発地区のAブロックには約1.1ha、地上38階建の商業施設、オフィスビル、Bブロックには約2.3ha、地上38階建・地上33階建のツインタワーに知的創造拠点ナレッジ・キャピタル、事務所、商業施設、ホテル、サービスアパートメント、コンベション、Cブロックには約0.5ha、地上48階建の分譲マンションの事業が進行中であり、平成25年4月26日に開業の予定である。
その他、「大丸梅田店」の増床(平成23年3月開業)、「三越伊勢丹百貨店」とファッションビル「ルクア」の新規開業(平成23年5月)、「阪急百貨店」の建て替え(平成24年11月全面開業)と大型商業施設の新増設が梅田エリアに集中している。
また、阪神百貨店が入る「大阪神ビル」も2023年に約190mの高層ビルに建替計画を発表しており、13.3万㎡のオフィス床を供給予定である。
北区中之島地区では、「中之島フェスティバルタワー」(平成24年10月竣工)、「ダイビル本館」(平成25年2月竣工)がオープンし、開発が活発な地域での地価上昇傾向が見て取れる。梅田地区の平成24年12月末時点でのオフィス平均空室率は6.12%(三鬼商事調査)と、対前年同月比で1.69ポイント空室率は縮小している。
こうしたオフィス市場の好転を反映して、地価が上昇したものである。
しかしながら、今年は「グランフロント大阪」、「ダイビル本館」のオープンにより、オフィス供給量が一気に増大するため、空室率が上昇し始めている。これを一時的とみるかどうかは景気回復を好感して、借り換え、拡張移転等のオフィス実需が今後どこまで伸長するかにかかっている。
図表1は、2000年から2013年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
2008年までは、「1ルーム」「1K−1LDK」の供給が増加傾向にあり、2008年では、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市除く)全体の78.4%が単身者向けであった。
ところが、2009年から大阪市、近畿圏ともに単身者タイプの供給は縮小し始め、2012年まで「2K−2LDK」タイプの供給が増加していた。2013年には、対前年比で大阪市は「2K−2LDK」「3K−3LDK」のファミリータイプの供給割合が減少、「1ルーム」「1K−1LDK」のシングルタイプの供給割合が上昇した。特に「1K−1LDK」の割合が5.6ポイント上昇している。「3K−3LDK」タイプは2.9ポイント減少した。
近畿圏は、2012年からシングルタイプとファミリータイプが65対35の割合で推移している。シングルタイプの中では、「1ルーム」の割合が増加した。ファミリータイプは2012年とほぼ同じ割合で「2K−2LDK」が約28%、「3K−3LDK」が約7%台で推移している。
図表2〜図表5は、近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の総額賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
(1) 「1ルーム」タイプ
総額賃料は、6万4,000円台で、対前年比3.4%上昇。専有面積は2012年より0.93㎡拡大。ただし、29㎡台で推移している。賃料単価は同値で横ばい。一時金月数も横ばいで安定的に推移している。
(2) 「1K−1LDK」タイプ
総額賃料は7万2,000円台で、対前年比3.1%の上昇。専有面積は前年より0.93㎡拡大。賃料単価は1.7%の上昇。一時金月数は0.3ヶ月の減少。「1ルーム」と同様、「1K−1LDK」の専有面積は徐々に広がってきているにもかかわらず、賃料単価は底堅い動きであり、総額賃料は2011年以降、上昇している。
(3) 「2K−2LDK」タイプ
総額賃料は3.9%の上昇。専有面積はで前年より0.67㎡拡大。2011年以降58㎡台で推移している。賃料単価は1.3%の上昇。ただし、一時金月数は0.3ヶ月減少した。
(4) 「3K−3LDK」タイプ
総額賃料は対前年比3.6%の下落。専有面積は前年より0.22㎡拡大。賃料単価は0.3%増。一時金月数は0.1ヶ月減少した。
(5) まとめ
2012年は全タイプで賃料単価の下げ止まりが観測され、2013年では、賃料単価は横ばい、微増で安定感が顕著となってきている。
また、全タイプでわずかではあるが、専有面積が広くなってきており、総額賃料は「3K−3LDK」を除いて、上昇してきている。
しかしながら、一時金月数は「1ルーム」を除いて減少傾向にある。
図表6は、戸建賃貸を集計したものである。
2013年は2012年に比し、件数は若干減少したものの、比較的安定して供給がある。
総額賃料は2011年から下落しているものの、2013年は2012年に比し、0.8%増と強め安定傾向にある。
専有面積は2011年の90㎡台から2012年、2013年は83㎡台で推移している。
賃料単価は2011年の1,655円/㎡から2012年は2.5%下落したが、2013年では2.1%上昇した。
一時金月数は、2011年の5.2ヶ月から下落傾向にあり、2013年は3.2ヶ月となっている。
賃料は二極化し、一時金月数は下げ止まる
1.「戸建賃貸は今後も増加する」
戸建賃貸の供給増加の背景として需要面から、
(1) 団塊ジュニア世代が子育て期に入り、広めの住宅の要望があること。
供給面からは、
(1) 賃貸経営のための多大な投資をさけることができる。
(2) 相続財産を分割することで、生前贈与が可能となり、遺言で相続人に振り分けしやすい。
(3) 更地化しやすいため、将来の有効活用の弊害になりにくい。
(4) 一棟貸しなので、管理の手間がいらない。
等のメリットがある。
戸建賃貸は、駐車スペース2台分の確保があれば、多少駅から遠くても需要はあるので、今後も、増加していくものと予測した。
2.「支払賃料は下げ止まりエリアと下落エリアの二極化が進む。ただし、世帯年収の低下から長期的には賃料は下落トレンドになる。」
「平成23年度 住宅市場動向調査報告書」(平成24年3月 国土交通省住宅局)によると、民間賃貸住宅の入居者の税込世帯年収は「400万円未満」が43.3%で最も多く、次の「400万円〜600万円未満」が29.5%である。
当社調査では、年々「400万円未満」の割合が多くなっている。
また、同報告書の住宅決定項目では、第1位が「家賃が適切だったから」(55.5%)、第2位「住宅の立地環境が良かったから」(47.3%)、第3位「住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから」(45.5%)の順であった。平成22年度以降、「家賃が適切だったから」の割合が増加しており、「家賃重視」が年々強まっている。
このように賃貸需要の世帯年収の低下傾向から長期的には賃料は緩やかに下落トレンドになるものと予測した。
ただし、その中でも人口流出より人口流入の多いエリアでは、賃料の下げ止まりが観測されることから、二極化傾向はより鮮明になっていくものと思われる。
3.『「親子間の近居・隣居・同居」と「地緑的選好性、即ち地域コミュニティ重視」の指向が強まっていく。』
先に紹介した報告書の平成22年度と平成23年度を比較すると、「親・子供などと同居、近くに住んでいる」は0.6ポイント、「昔から住んでいる地域だったから」は5.3ポイントと上昇しており、東日本大震災により「地緑的選好性、即ち地域コミュニティ」「親子の同居・近居」が重視されてきている。
この傾向は、2013年も更に強まっていくものと予測した。
4.「一時金月数」は下げ止まる。
前掲の当社調査結果では一時金月数はいまだ減少傾向にあるが、2013年では「一時金月数」は下げ止まっていくものと予測する。
先に紹介した国土交通省の報告書は、首都圏(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)、中京圏(岐阜県・愛知県・三重県)、近畿圏(京都府・大阪府・兵庫県)の地域の賃貸住宅入居者に対して調査したものであるが、この報告書で敷金・保証金の月数は「2ヶ月ちょうど」が36.9%、「1ヶ月ちょうど」が36.3%、礼金の月数は「1ヶ月ちょうど」が61.0%、「2ヶ月ちょうど」が21.9%との調査結果が出ている。
一時金月数(即ち、敷金・礼金・保証金・敷引を合算した月数)の調査はないが、仮に敷金2ヶ月、礼金1ヶ月の組合せであると、計3ヶ月となり、全国的に高いといわれていた関西の一時金月数も全国のスタンダードな水準に近づいたことが下げ止まりの判断理由である。
駐車場経営をされておられる皆様、最近「契約台数が減少してきた」「月極駐車料金が下がってきた」といったお悩みはありませんか。
本稿では、駐車場経営をとりまく環境が変わってきたことをご説明し、駐車場の活用プランをご紹介いたします。
その1
自動車保有台数は減少傾向にある。(<図1>参照)
乗用車と二輪車(125㏄を超えるオートバイ)は増加しているが、乗用車の伸び率も平成18年から鈍化している。
出典 (財)自動車検査登録情報協会出典のデータをもとに弊社にて図作成
その2
マイカーの普及台数は平成19年から全国40万台以下の増加にとどまっており、平成24年の1世帯あたりの普及台数は1.081台。(<図2>参照)
近畿圏では、マイカーの1世帯あたり普及台数が多いのは、滋賀県、和歌山県、奈良県であるが、兵庫県、京都府、大阪府は1世帯1台を割り込み、特に大阪府は0.677台と滋賀県の約1/2である。
即ち、交通便の良い立地程、マイカーの保有率は低くなる。
また、近年は都心の交通至便立地に人口が集中する傾向にあるので、マイカーの保有率は減少が予測される。(<図3>参照)
出典 (財)自動車検査登録情報協会出典のデータをもとに弊社にて図作成
その3
自動車盗、車上狙い、部品狙いの発生場所の8割は駐車場。
全国ワースト1位、2位を大阪府と愛知県が占めている。
大阪府警のホームページでは、対策として「夜間明るく監視の行き届いた防犯対策の整った駐車場を選ぶ」ことを推奨。
個々の駐車場では、防犯対策のコスト負担が大きくのしかかる。
しかし、対策を講じないと顧客離れが生じることになる。
その4
駐車場経営の今後の問題点として、マクロ的観点からは、「人口減少、少子高齢化による車両保有台数の減少」、「都心部に人口が流入するのに比例して駐車場の空車率の増加」が掲げられる。
また、ミクロ的観点としては、「駐車料金が安ければ、ドライバーは300mから500m程度の範囲内であれば、歩いて目的施設に向かう」ことがアンケート結果で出ており、適正駐車料金を考える必要がある。
その5
以上、駐車場経営の問題は、地域と一体となった総合的・戦略的な駐車(駐輪)整備計画も必要となるので、地域のまちづくりの問題でもある。
プラン1 隔地駐車場として企業に一括貸する
ある一定規模以上の商業施設は、法律により一定の駐車台数の附置義務が課せられています。
こうした商業施設は、附置義務台数を確保するために、近隣で駐車場を求めることが良くあります。(隔地駐車場といいます)
このような企業に一括若しくは部分貸しして、契約率を高めることが考えられます。
近年、中規模スーパーが都心に多く進出しており、隔地駐車場のニーズは高まっています。
プラン2 駐車場立体利用プラン
<図4>は、商業地にある駐車場の活用でピロティタイプの商業・業務施設を建設し、1階は駐車場、2階は店舗・事務所に賃貸します。
2階のテナントの駐車場利用も見込めます。
<図5>は、住宅地型で、駐車場にピロティタイプの家庭向け倉庫(トランクルーム)を建設し、1階は駐車場、2階は家庭向け倉庫(トランクルーム)として賃貸、若しくは倉庫業者(トランクルーム事業者)に一括賃貸し、倉庫業者が一般利用者にサブリースする方法です。
総投資額4,000万円前後で、40トランクルームとシャッターガレージを建設し、表面利回り14%〜15%、投資額を10年以内で回収できる事例があります。
なお、住宅地であっても、<図4>のような店舗・事務所の需要も見込めます。例えば、美容院・整骨院等は、住宅地に多い業態です。
プラン3 駐車場の一部を活用するプラン
駐車場の一部にコインランドリーを併設し、残地を時間貸駐車場とします。
郊外でも、スーパーの近くなどが適地です。
コインランドリーのお客の大半は主婦で、家庭で洗えない、干せない洗濯物をコインランドリーで洗濯します。
郊外ニュータウンでもよくみられるようになりました。
コインランドリーは20坪程度の建物で総事業費2,600万円ですが、コインランドリーの総投資額が低い割に粗利率(売上に対し、40%〜50%)がよいので、(もちろん、立地によりますが)メリットがあります。
プラン4 自動二輪車(バイク)向け駐車場若しくは駐輪場に転換する
バイク愛好者の中にはバイクのために、マンションについている駐車場ではなく、わざわざ専用の駐車場を借りる人が少なくありません。
バイク駐車場のために引っ越す人もいる位です。
こうしたバイク愛好者が安心して、バイクを置き、整備できるホビー型駐車場はいかがでしょう。
昔ながらのガレージタイプ(シャッター付ガレージ)に向いています。
また、駅近であれば、駐輪場に転換することも一計です。
プラン5 駐車場の用途を転換するプラン
駐車場用途から他用途(例えば、店舗、事務所、工場、倉庫、グループホーム、デイサービスセンター)に転換するプランです。
事業用定期借地や建物を建築して賃貸する事業手法で活用できます。
近年、高齢化に伴い、グループホームやデイサービスセンターの需要が高まっています。
グループホームで200坪〜250坪、デイサービスセンターで120坪位の土地を必要とします。
有料老人ホームになりますと、300坪〜400坪、特別養護老人ホームで1,000坪が必要なので、駐車場の広さが100坪〜200坪が多いことを考えますと、グループホーム、デイサービスセンターに向いているといえるでしょう。
プラン6 ネットワークプラン
近隣の駐車場同志がネットワークを作り、駐車場の月極め・時間貸しをインターネットで配信する、また、車上荒らし防止のために防犯カメラの設置若しくは警備員の巡回を共同でし、各駐車場経営者の負担を減らすプランです。
1人ではコストが大きくて採算に合いませんが、複数人が集合することにより、メリットが出てきます。
投資をせずに駐車場の入庫率を高めた例をご紹介します。
駅からやや離れているA氏の駐車場は、料金を下げても空車率が高くなっているのが悩みの種でした。
A氏は、駐車場に無料の自転車を置き、駐車場利用者に使ってもらうようにしたところ、評判となり、口コミで入庫率が上昇したということです。
こうした利用者に対する心遣いも経営には大事ですね。
図表1は、2000年から2012年までの1月初旬のデータから、大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
2008年までは、「1K−1LDK」の供給が主流だったが、2009年から大阪市、近畿圏いずれも単身者タイプの供給は縮小し始め、代わりに「2K−2LDK」タイプの供給が増加傾向にある。2012年1月の集計結果では、前年比で大阪市は「1R」「1K−1LDK」タイプの単身者向け住宅の供給割合が減少、「2K−2LDK」「3K−3LDK」のファミリータイプの割合が上昇した。
近畿圏では、対前年比で「1R」の割合はほぼ横ばいだが、「1K−1LDK」、「3K−3LDK」が減少し、「2K−2LDK」は、「大阪市」「近畿圏」いずれも2010年から毎年、3ポイントずつ増加している。
図表2〜図表5は、近畿圏全体(大阪市含む)のタイプ別総額賃料、平均専有面積、平均賃料単価、平均一時金月数をまとめたものである。
(1) 「1R」タイプ
2012年1月初旬の供給件数は、前年比で若干減少した。平均賃料は、6万2千円台で、前年比△1.9%の下落。専有面積は、29.01㎡で同0.82㎡狭くなったが、29㎡台で変わらずに推移している。賃料単価は、同△0.2%の微減、一時金月数は、2.9ヶ月で0.1ヶ月の減少。前年に比べて、賃料単価、賃料総額のいずれも下落率は縮小している。
(2) 「1K−1LDK」タイプ
2012年の供給件数は、増加傾向にある。平均賃料は、7万円台で、前年比2.6%増。専有面積は36.10㎡で同1.18㎡拡大した。賃料単価は、同△0.3%の微減。一時金月数は、2.9ヶ月で0.1ヶ月の減少。平均賃料は、専有面積の拡大により、前年に比べて上昇した。また、「1R」と同様、賃料単価の下落率も縮小している。
(3) 「2K−2LDK」タイプ
2012年の供給件数は、2011年の431件から532件へと前年比23%の増加となった。平均賃料は、同△4.0%の下落。専有面積は、58.25㎡で前年より0.31㎡縮小したが、2011年以降、58㎡台で推移している。賃料単価は、同△1.6%の下落となり、下落率は縮小している。一時金月数は、3.2ヶ月で0.4ヶ月減少だった。
(4) 「3K−3LDK」タイプ
2012年の供給件数は、2011年の132件から134件と微増。平均賃料は、前年比11.0%増の大幅な上昇となった。専有面積は、77.10㎡で前年より0.78㎡縮小した。賃料単価は、7.7%増の上昇となるも、一時金月数は、3.2ヶ月と横ばいだった。
(5) まとめ
2011年は全タイプで賃料の下落が見られた一方、2012年は賃料の下げ止まり傾向が顕著になった。
「1R」「1K−1LDK」の賃料単価の下落率は、いずれも前年比△1%未満だった。平均賃料は、「1R」は下落が続いているが、「1K−1LDK」は専有面積の拡大により、総額賃料は7万円台に回復している。
「2K−2LDK」の賃料単価と総額賃料はいずれも下落しているが、専有面積の下落幅は小振化し、賃料単価の下落率も同△2%未満と、前年の同△6.6%の下落から急速に縮小している。
「3K−3LDK」は専有面積が縮小したものの、賃料単価、平均賃料は上昇している。前述のタイプ別供給割合が示す通り、「3K−3LDK」の供給が、近畿圏では減少し、大阪市で増加したことから、平均賃料(単価、総額)が上昇したためである。
「3K−3LDK」の供給が増加し、大阪市を除く近畿圏で供給が減少しているのは、大阪市を除く近畿圏では分譲住宅市場と賃貸住宅市場が競合していることが理由に掲となっている大阪市を除く近畿圏の「3K−3LDK」の平均賃料は、専有面積76㎡台で11万9千円であるが、建売住宅3,000万円〜3,300万円台の月額ローン返済額は10万円台だ。また住宅価格が3,000万円を割ると、7万円〜8万円台になるため、定住性が高まれば高まるほど、貸家より持家を選択する需要が増加するためである。
2010年以降、顕著であるファミリータイプ、特に「2K−2LDK」タイプの供給増は、調査エリア全域でさらに顕著になりつつある。
これは、団塊世代に次いで人口の多い団塊ジュニア世代が第1子を持つ年代になったことで、ファミリータイプへ住み替える動きが出てきているためである。
この世代は、持家取得意欲も高いが、積極的に賃貸を選択するタイプも多い。
また、賃貸選択の背景には、(1) 平均年収の低下、(2) 都心志向が挙げられる。
国土交通省住宅局による「平成22年度住宅市場動向調査」では、民間賃貸住宅に住む世帯年収(税込)は、「400万円未満」が約4割と最も多く、「400万円〜600万円未満」が全体の約1/4である。
2010年度の平均世帯年収は、434万円で、2009年度の536万円に比べて、102万円も年収が低下している。さらに、勤務先からの住宅手当が出ない割合も、2009年度の56.8%から2010年度は70.2%と増加している。
「住宅を決めた理由」についても、2009年度は「住宅の立地環境」(59.1%)「住宅のデザイン・広さ・設備」(56.6%)「家賃が適切」(56.3%)の順であったが、2010年度では「家賃が適切」(52.5%)「住宅の立地環境」(45.5%)「住宅のデザイン・広さ・設備」(34.0%)となり、家賃重視に変化している。
また、都心志向については、UR都市機構による「平成22年 賃貸住宅居住者定期調査結果」の「住まいについての意向」によれば、「郊外」より「都心に住みたい」という意向が、2005年度調査の32.2%から、2010年度調査では41.6%に大幅増加している一方、「郊外に住みたい」は、2005年度の31.2%から2010年度の29.3%に下落している。
「都心」を志向すれば、不動産価格は上昇するため、必然的に「持家」より「賃貸」を選択することになろう。そのため、賃貸需要の都心化志向は、今後も拡大していくものと予測する。
以上のことから、2012年については次のような予測となろう。
(1) 単身者(高齢者含む)向けは、「1R」より「1K−1LDK」タイプで、中でも、家賃が手頃で専有面積がわりと広い「1DK」タイプ(35㎡前後)が中心となる。「1LDK」は単身者の需要もあるが、「2DK」タイプとほぼ同面積で、新婚・カップル向けの需要が多いため、ポストファミリータイプとして特に都心部での人気が高く、この傾向は続行する。
(2) 子育て世代のファミリータイプでは、「2LDK」が主流となる。
(3) 「1R」の新規供給はますます減少する。
(4) 3居室タイプは、マンションより「戸建賃貸」で増加する。
(5) 住宅賃料は、賃料下げ止まりエリアが拡大するも、一時金月数の緩やかな下落は続行する。
2011年後半から関西住宅地の一部地価は上昇または横ばいとなった。これら地域の特徴には最寄駅や商業・教育施設等の利便性の良さ、マンション需要と人口増加が見られることなどが挙げられる。
2012年は、団塊ジュニア世代(新規住宅取得)と団塊世代(住み替え)と住宅需要が中心であること、消費税増税への懸念から住宅購入の駆け込み需要があること、住宅ローンの更なる低金利化の進行などにより、住宅需要が活性化し、さらに住宅地の地価上昇または横ばい地点が増えるだろう。
住宅購入意欲が高まると、「3K−3LDK」タイプから「持家」に住み替える動きが顕著になるため、都心以外の立地では、3居室以上の賃料は緩やかに下落していくだろう。
大阪地区のオフィス・商業・住宅の土地価格と賃料相場について専門的な分析を行っている難波不動産鑑定の難波里美社長も同様の認識を持つ。
「大阪のファッション市場が強いのは、関西の若い女性が親と同居している比率が高く、自由裁量できるお金が多いからでしょう。とくに商業施設では阿倍野(天王寺)に開業したキューズモールが好調です。梅田や難波と比べれ都会性に欠けているエリアですが、人口密度が高く、文教エリアで著名な学校が集積していることもあって注目すべきエリアとなりつつあります。キューズモールにはティーンエイジャーからファミリー、中高年まで多様な客層が集まっており、マーケットの潜在力を感じさせます。テナントの109には10代ばかりか40代以上まで集客しています。渋谷とは大違いの状況で、これが大阪のおばちやんパワーなんです」(難波氏)。
レジデンシャル市場も相対的に地盤沈下しているのが実情。都心ワンルームの賃科は未だに下げ止まっていない。しかし、阿倍野・天王寺地区はキューズモールの盛り上がりに注目してか、住宅用地取得が非常に活発化しているという。「賃料はさほど高くはとれないでしょうが、安定的な利回りを志向するファミリーマンションの投資に向いた地域となりそうです」(難波氏)。
大阪は中心に向かって収斂する一極集中型マーケットヘとさらに加速していくとみられる。そのなかで、エリア的に注目されていないポテンシャルをもつ阿倍野のような地域もある。人口減少都市とはいえ、東京都区部に匹敵する人口密度を誇る大都市の可能性に着目したい。
開業時期がちょうど大阪市鶴見区の鶴見緑地で開かれた「国際花と緑の博覧会(花博)」の開催や、国土法の改正と重なったこともあり、当初から仕事は多く、順調なスタートとなった。
独立後も、不動産コンサルティング技能者、ビル経営管理士、補償業務管理士、ファイナンシャル・プランニング技能士などの資格を取得するとともに、異業種交流会などへも積極的に参加。知識や技能を蓄積するとともにネットワークを築いていった。
業務としては、不動産の鑑定評価をメーンに、不動産活用に関するコンサルタント、地域開発・都市開発・環境整備に関する調査・研究・企画、公共用地補償に関するコンサルタントなどを展開。公職としても、芦屋市固定資産評価審査委員、大阪市住宅供給公社理事、堺市国土利用計画法届出価格審査委員など多くの業務に携わっている。
開業から約20年間で7人の不動産鑑定士を育てるなど、順調な経営が続いていたが、2年ほど前から主力の鑑定業務に陰りが出てきた。これまで随意契約が多かったため、一定の価格が維持されていたが、入札制度が導入されるようになり、採算を度外視して契約を獲得する業者が増加。建設事業のように下限がないため、価格が一気に下落した上、不動産投資自体も減少している。
このため、同社は「不動産コンサルティングに軸足を移す」方針で、現在、具体的に進めている事業が「ガソリンスタンド利用再生プロジェクト」だ。これまで築いてきたネットワークを生かし、石油の卸元の企業や店舗開発事業者などの協力へ得て、大阪だけでなく、東京や名古屋でも営業を展開している。100坪から300坪程度の比較的小規模なガソリンスタンドに対して、セルフのガソリンスタンドや観光バス事業の車庫への転換などで実績を上げており、高齢者専用賃貸住宅の運営なども提案している。
20年以上にわたって蓄積してきたデータやマーケティングのノウハウを生かすことができる分野で、「人は次にどういうものを求めるかを考えることが好き」という好奇心を原動力に新分野を切り開いている。
平成23年4月26日大阪市阿倍野区にファッション専門店街「SHIBUYA109ABENO」、「イトーヨーカ堂」を核とした254店の一大ショッピングセンター「キューズモール」がオープンした。「キューズモール」は、阿倍野地区第二種市街地再開発事業の最後のAブロックに建設されたものである。北隣には、2012年度完成予定の住宅、ホテル、商業施設の複合施設「あべのnini」が建設中である。この完成を待って、阿倍野再開発事業は終結することとなる。
私事で恐縮であるが、阿倍野再開発地区内の鑑定業務に昭和52年から30年間携わってきた。大学を卒業して某鑑定機関に就職してすぐの仕事であった。施行前の金塚地区は、連棟式住宅やアーケード商店街が混在する住商混在地域で、夏の夕方ともなれば縁台を出して、ステテコ姿の老人達がうちわを片手に世間話に興じていた様子が今でも目に浮かぶ。大きなカメラを下げ、うろうろ歩き回って警官に不信がられて職務質問を受けたのも、今となってはいい思い出だ。
阿倍野地区は、JR、近鉄、阪堺軌道が集合する天王寺・阿倍野ターミナルの南西至近に位置する面積約28haを昭和51年に都市計画決定し、4ブロック(A〜D)に分け事業を進めてきた。事業年度は昭和51年度から平成24年度、今年は事業開始から35年目にあたる。35年の間には、昭和末期から平成2年までのバブル期は土地買収費が高騰し、バブル崩壊後の長らく続いた地価下落も、再開発事業の向い風となった。
「キューズモール」の南にある再開発ビル「あべのベルタ」は、昭和62年9月に完成。当初は核店舗にスーパー・百貨店が入店したものの、地下1階のスーパーを除き、核店舗は次々とテナントが入れ替わり、現在1階はパチンコ店が出店している。権利床のフロアも空室が目立ち、北隣の「キューズモール」の賑いとは対照的な様相を呈している。
「あべのベルタ」の失敗から「キューズモール」「あべのnini」は、特定建築者制度を採用した。しかしながら、「キューズモール」は、すんなり今の姿に決定したわけではない。平成6年には、百貨店が核店舗となって延べ41万㎡、地下3階地上63階の超高層店舗・事務所・ホテルプランが公告された。このプランは指定容積率800%を超える931%であったが、結局実現せず平成13年に外資が延べ29万㎡の地下3階地上31階の超高層店舗・事務所・ホテルプランを発表した(図参照)。このプランは630%の容積率で指定容積率を下回った。この計画も不調に終わり三度目の正直で平成16年、現在の「キューズモール」のプランとなったのである。
「キューズモール」は、地下2階地上6階延18万㎡の店舗・駐車場(図参照)で、容積率は486%と指定容積率の6掛となった。このことは、これからの再開発事業の計画策定に何が必要かを示唆している。計画立案は、まず高容積率ありきではなく、需要調査を第一にするべきということだ。
再開発プランナーは、ともすれば完成後の街のイメージからポテンシャルを計っているが、本来は再開発地区の需要と見合った計画でなければならない。阿倍野再開発事業は、長期の事業期間の中でようやく需要に見合ったプランが落ち着いた。今後の再開発プランには高容積率第一主義に別れをつげ、街づくりに他のキーワードを見つけるべきである。
例えば、イタリアミラノ・サンタジュリア再開発では111haの内、中心部に33haの緑地公園を設置し、27haの住宅エリアに2,000戸の住宅供給計画である(阿倍野再開発は28haに3,010戸)。公園、住宅以外では、通信金融産業地区16.27ha、商業地区3ha、幼稚園・小学校0.15ha、教会0.12ha、コングレスホール3.2ha、障害者センター0.56ha、学生・研究者寮、公団住宅等5.25ha、シビックセンター0.14haの構成である。
最後に「キューズモール」は、開業後1ヶ月で430万人が来店し賑わっているが、反対に衰退している「あべのベルタ」「あべのマルシェ」等の商業施設を活性化しなければならない課題は残っているのである。
来年、建物が全て完成し再開発事業は終了というような結末は誰も望んでいないことを、事業者は肝に命じていただきたい。
平成23年地価公示結果の近畿の府県別・用途別の年間変動率は以下の表の通りで、全ての府県で地価下落が続行しています。
大阪府の住宅地の変動率は年間▲2.6%(前年▲4.8%)で下落幅は縮小した。地域別にみると、大阪市は▲5.6%から▲2.9%、中心6区(北区、福島区、中央区、西区、天王寺区、浪速区)は▲6.3%から▲1.9%と、下落率は急速に収束しつつある。特に福島区の住宅地は±0%となりました。住宅地については、エコ住宅ポイントの創設、住宅ローンフラット35の金利優遇措置が効を奏し、需要の回復がみられたことが下落率縮小の要因となりました。
大阪府の商業地の変動率は年間▲4.6%(同▲8.9%)で住宅地と同様、下落幅が縮小した。大阪市は平均▲11.7%から▲5.9%と下落幅はほぼ半減、繁華性の高い中心6区でも平均▲5.4%(同▲12.0%)と下落幅は減少しました。しかしながら、高度商業地については下落率が大きく、中央区難波3丁目の御堂筋沿いにある積和MAST難波ビルの下落率が▲20.0%と全国商業地で最大の下落率となった他、全国商業地変動率ワースト10(下落率の大きい順)の内、6件が大阪市中央区、北区の公示地が入っており、大阪都心部への不動産投資の減退やオフィス需要の低迷が反映される結果となりました。
大阪府下の工業地は、全地域の平均変動率が▲3.8%(同▲5.4%)で下落幅がやや縮小したものの、不動産投資の減退や設備投資抑制等の影響により住宅地に比すると、その下落率は大きい結果が出ています。
◇「北浜はもともと株屋さん、証券会社の街だったのですが、いまは数えるほどしかありません。その東側の谷町筋にはマンションが目立つようになり、オフィス街とは言いがたい状況になっています。大阪は、本社の東京移転が進み、支店経済になってしまっているんです」と語るのは、難波里美・難波不動産鑑定社長。
三鬼商事株式会社によると、1月末時点で大阪ビジネス地区の平均空室率は12.02%(前月比0.14ポイント上昇)。大阪のオフィス街は、御堂筋、四ツ橋筋、堺筋、谷町筋の各筋に接する形で分布しているが、その規模は年々縮小している。
◇「調査したことがあるのですが、谷町筋にマンションが建つようになってオフィス街としての価値がどんどん下がり、これが北浜まで侵食してきています。
結局、オフィスビルの需要がないから、都心居住ということでマンションがどんどん市内中心部に集まり、加速していく。こうした現象を放置したままでいいのでしょうか」
◇ 難波社長は関西経済同友会の北ヤード委員会のメンバーでもある。
「私は同友会が提案している緑化プランに当初から賛成でした。その上で、大阪のオフィス機能を御堂筋と北ヤードに集約するぐらいの、思い切った都市改造プランをやってもいいのでは、と思っています。北ヤードにはマンション計画も入っていますが、持論としては、マンションが入ってしまうとビジネスの場ではなくなってしまう。住居とオフィスは相容れないものなんです」
ファミリー向けタイプ「2K−2LDK」は供給増
図表1は、2000年から2011年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
2000年〜2008年にかけて、「1R」「1K−1LDK」の供給が増加傾向にあり、2008年には、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市除く)全体の78.4%が単身者向けタイプであった。
ところが、2009年から大阪市、近畿圏ともに単身者向けタイプの供給は縮小し始め、「2K−2LDK」の供給が増加傾向にある。2011年は、大阪市は「1K−1LDK」の供給割合にほぼ変化はなかったものの、「1ルーム」と「3K−3LDK」のタイプの供給が減少し、「2K−2LDK」が対前年比で約3ポイント上昇した。近畿圏では、「1R」「1K−1LDK」の割合が減少し、「2K−2LDK」「3K−3LDK」のファミリー向けタイプが増加した。「2K−2LDK」は、対前年比3ポイント上昇と大阪市と同様、伸び率が最も大きい。
ただ、供給タイプの全体量からみると、「1K−1LDK」が大阪市、近畿圏とも6割を占めている。「2K−2LDK」供給増加の理由として、1 単身者向けタイプが供給過剰になっていること、2 カップル向けの2居室タイプの新規供給は、分譲マンションと競合するため、長年供給抑制が続行していたが、不況に伴う所得減少、あるいはマイホームを手離すといった事情により、ファミリー向け賃貸の需要が増加したこと、3 団塊ジュニア世代が第1子を持つ年齢層に達し、ファミリー向けタイプを選択し始めていること、4 最近の家族数の減少を受け、3居室タイプより2居室タイプを選択する需要が増加していること、5 共同生活(ルームシェアリング)、兄弟姉妹などで単身者同士が住まう需要の増加等が考えられる。
単身者向け・ファミリー向けタイプともに賃料下落
次に2009年〜2011年(1月時点)の近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別総額賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数を分析した。
1 「1R」タイプ
供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、63,000円台で、対前年比△6.0%。専有面積は、29.83㎡で2010年より0.19㎡拡大した。賃料単価では、対前年比△4.3%、一時金月数は、3.0ヵ月で変化はない。(図表2)
2 「1K−1LDK」タイプ
供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、対前年比△5.9%。専有面積は、34.92㎡で前年より0.34㎡縮小した。賃料単価は、△4.4%。一時金月数は、3ヵ月で変化はない。
3 「2K−2LDK」タイプ
2011年の供給件数は、2010年の362件から431件と対前年比19.1%増となった。総額賃料は、△13.1%の大幅下落。専有面積は、58.56㎡で前年より2.79㎡縮小した。賃料単価では、△6.6%、一時金月数は、3.6ヵ月で変化はない。(図表4)
4 「3K−3LDK」タイプ
2011年の供給件数は、2010年の120件から132件と増加した。総額賃料は、対前年比△21.7%の大幅下落。専有面積は、77.88㎡で前年より3.52㎡縮小した。賃料単価は、△15%、一時金月数は、3.2ヵ月と前年より1ヵ月分下落した。
「1R」や「1K−1LDK」といった単身者向けの供給件数は減少し、総額賃料は、「1R」「1K−1LDK」ともに△6%前後の下落、賃料単価は△4%台の下落で、下落率は似通っている。専有面積は、いずれも1㎡未満の変動であり、一時金月数は、いずれも3ヵ月と同値であった。
「2K−2LDK」や「3K−3LDK」といったファミリー向けの供給件数は増加したが、総額賃料、賃料単価、専有面積は減少し、一時金月数も「3K−3LDK」は1ヵ月減少した。「2K−2LDK」は、総額賃料は大幅下落しているが、賃料単価では△6%台にとどまっている。
「3K−3LDK」は総額賃料、賃料単価ともに2ケタ台の大幅下落となったが、この要因は主として総額賃料、賃料単価の高い大阪市の件数が激減したことや、近畿圏各都市で当該タイプの供給が増加したためと考えられる。
賃料の動きは二極化がますます鮮明に
地域別動向をみると、大阪市の単身者向け賃料単価では、賃料単価の下落が続行している。
ところが、「2K−2LDK」では、中心区と大阪市湾岸に面した区エリアは、賃料単価は下落しているものの、他の区エリアでは上昇に転じている。
大阪府下では、単身者タイプは賃料下落が続き、「2K−2LDK」は賃料単価が横ばいもしくは上昇している。(ただし、南大阪エリアと豊中市、吹田市は下落が続行。)
神戸市では、単身者向けタイプの賃料単価も「2K−2LDK」の賃料単価も下落しているが、阪神エリアでは、単身者向けタイプは上昇し、「2K−2LDK」は下落している。
京都市では、単身者向けタイプは賃料単価が下落し、「2K−2LDK」は上昇している。ただし、専有面積が拡大しているため、単身者向け総額賃料は、わずかながら上昇となっている。ファンドバブルがはじけたリーマンショック以降、都心部の単身者向けタイプの賃料は下落が続行していたが、京都市ではようやく実需ベースまでの賃料水準に戻ったため、需要が回復してきたと考えられる。
いまだ賃料が高止まりの大阪市、神戸市は、賃料下落は続行し調整局面にあるが、利便性の高い住宅地のファミリー向けタイプのなかでも徳に「2K−2LDK」は、需要が回復し始めており、賃料下げ止まりのエリアが見受けられる。
以上の傾向を、更に細分化した市町単位でみていくと、いわゆる人口・世帯数が継続的に増加している地域では、賃貸市場の市況は持ち直し始めているが、反対に人口・世帯数が減少している地域では、賃貸市場は低迷している。こうした二極化は、今後も続行していくことが予測される。
なお、今回調査では、全エリアで一戸建ての新規賃貸が増加していることもわかった。転勤等のリロケーションタイプではなく、60㎡台〜70㎡台の賃貸目的の戸建てが多く、家賃は110,000円〜120,000円の設定が多い。建築費1,500万円位までであれば、120,000円の家賃だと表面利回り9.6%と悪くない。ただし戸建てという特性上、空室リスクは高くなる。
賃貸住宅は、駅近立地が需要の選択条件としてトップに挙がってくるが、戸建て賃貸は、駐車場設置を2台程度確保できて、住環境が良ければ最寄駅から多少離れているなど立地条件が悪くても需要はある。
しかしながら、修繕等については、借主・貸主との間で明確な負担区分を決めた上で、契約を結ばないと後々、トラブルになる恐れがあるに注意すべきである。
「2K−2LDK」と同様、戸建て賃貸の供給増は、ファミリー層の実需が回復してきている表われといえよう。
平成10年以降、大阪市の中心6区(北区、福島区、中央区、天王寺区、西区、浪速区)の人口は転出者数よりも転入者数が上回り増加傾向にあります。
大阪市の人口移動調査によると、移動の中心となっているのは20歳代の男女であり、リーマン・ショックで数は減ったものの、近年都心6区における分譲・賃貸住宅の供給は著しく、特に貸家は都心6区だけで大阪市全体の貸家の約1/2を供給しています。
都心部は、市営地下鉄各線が縦横に、JR大阪環状線からは放射状に鉄道網が敷設されており、自家用車がなくても不便はありません。
地元の宅地建物取引業者にヒアリングいたしますと、一般的に都心での需要対象が若年層では駐車場の必要性が低いが、ファミリー層や中年層では都心でも駐車場の必要性は高くなるということです。また市外からの転入者はマイカーを手放して都心部に移住してくる層が多いことも併せて聞きました。それでは都心の賃貸マンションで駐車場の有無ではどちらが優位でしょうか。
そこで以下の分析を行ってみました。
一つは大阪市中央区の賃貸事例の登録日(レインズへの登録)から成約日までの日数を市場滞留期間として駐車場の有無で差があるかどうか、二つ目は駐車場の有無で家賃に高低があるかどうかを調査してみました。
結論からいうと、市場滞留期間の調査では中央区についてみると駐車場がある場合の滞留期間は29.7日、駐車場がない場合の滞留期間は31.8日でどちらもほぼ1ヶ月と同程度でした。ただし、収集事例件数は、駐車場がある事例が9件、ない事例が108件と事例件数に偏りがあるため統計的にその誤差が大きくなります。そこで、都心6区について同様の調査をしてみると、駐車場がある場合の滞留期間23.0日、駐車場がない場合の滞留期間29.3日で駐車場がある場合の滞留期間の方が約1週間短い結果を得ました。
次に、中心6区における市場滞留期間と占有割合をまとめてみると(グラフ1、2参照)。
駐車場がある場合については、滞留期間「1週間以内」が27%を占め、1/4以上が「登録から1週間以内」に成約に至っています。
駐車場のない場合は、「1週間以内」は18%、「成約まで2ヶ月超え」が14%であり、駐車場のある物件が市場で優位なことがわかります。
さて次に、駐車場の有無による家賃への影響を都心6区でワンルーム等の単身者向け賃貸住宅の成約事例(223件)を重回帰分析を用いて検討してみました。
数式については省略いたしますが、結果は駐車場なしの月額賃料78,199円に対し、駐車場ありの月額賃料は79,129円、その差は930円でありました。
以上から、駐車場ありの賃貸住宅の方が駐車場のない賃貸住宅よりも市場性に優れるけれども、賃料における開差率は僅か1.2%と僅少であり駐車場がないことによる大きな市場性の減退はみられませんでした。
SI住宅は、建物のスケルトン(柱、梁、床などの構造躯体)とインフィル(住戸内の内装、設備など)を分離されている形態で、ユーザーが図1のように簡易可変間仕切りするSI住宅などで自由に間取りが変更できるなど、前回はSI型住宅の実例とそのメリットについてお話しました。
躯体を賃貸住宅オーナーが所有、インフィルは賃借人が負担するSI住宅。オーナー・賃借人の双方にとって負担が大きすぎるという理由で賃貸マンションではあまり普及していないのが現状です。
今回はSI住宅のデメリットと、今後の賃貸住宅における課題点について解説していきたいと思います。
まず、ユーザーにとっては以下のデメリットがあります。
今回は、「スケルトン・インフィル(以下、SI)型賃貸マンション」のお話をさせていただきます。
SI住宅とは、建物のスケルトン(柱、はり、床等の構造体)とインフィル(内装、設備等)を分離した工法による住宅と定義付けできます。
簡単にいうと、体はそのままで外装内装を入れ替えできる住宅です。
体賃貸住宅オーナーが所有し、内装等のインフィルは賃借人が負担します。SI住宅は賃貸マンションでは普及していません。その理由としては、賃貸住宅オーナー・賃借人(ユーザー)の双方にとって負担が大きすぎることでした。
平成12年に神戸市でSI賃貸住宅建設計画があり、収支シミュレーション等をしたのですがユーザーのインフィル投資額が当時の中古マンションを購入する額ほどになり、とても普通の居住目的のユーザーでは手が出ない状況でした。また、オーナー側にとっても金融機関にスケルトンのみを担保の対象とすることの理解が得られず、融資に苦慮いたしました。
この時の経験から、ここまで徹底したSI賃貸住宅にそもそも、オーナーにとっても、ユーザーにとってもメリットがあるのかという疑問から、住戸としての設備(風呂、台所、洗面所)はついた広めのワンルームで、ユーザーが家具間仕切り等で自由にレイアウトできる賃貸住宅の方がよいのではないかと思い、「ソフトSI賃貸住宅」とひそかに名付けておりました。
平成11年、大阪府住宅供給公社が東大阪市で建設した「フレックスコート吉田」は、こうした私の思いを体現した賃貸住宅があります。
スケルトン部分においては、床下・天井裏も自由に配管、配線、ダクトを通し、かつ、天井高は2,400を確保。スケルトン部分の計画耐用年数を100年としています。
インフィルについては、固定インフィルと簡易可変インフィルに分けられた1LDKで供給。簡易可変インフィルは、可動収納家具や可変間仕切りパネル、可変建具システムをハウスメーカー・建材メーカーによる複数メーカーが開発供給しました。可動収納家具システムは、押し入れ、洋服ダンスとして利用できる他、部屋の間仕切りとして使えます。
「フレックスコート吉田」では、ユーザーが可変間仕切りパネル、可動収納家具を購入する方法と、リースする方法を用意していました。
当時、私は家具メーカーの友人に両面を使用できる間仕切り家具の大量生産はできないのか尋ねたところ、日本の住宅は、統一企画で造られていないのでサイズがバラバラであることから、量産はできず、どうしてもオーダーメードになることから、割高になるといわれました。
次回はメリット・デメリットと課題についてお話しします。
今回は、「趣味対応型マンション」についてお話いたします。
1.男女別レジャー参加の内容「レジャー白書2010」(公益財団法人 日本生産性本部 編集・発行)によると、2010年前半は、厳しい不況や新型インフルエンザによる打撃が重なったものの、高速道路料金値下げの恩恵を受けた「ドライブ」の、参加人口が第一位となりました。調査は、全国3,000人、15〜79歳の男女を対象に実施。「動物園、植物園、水族館、博物館」など手軽な行楽系種目も人気があり、ロードレーサーなどの自転車ブームで「サイクリング・サイクルスポーツ」が参加人口が増加しました。
男女別でレジャーの参加傾向についてみていきますと、「スポーツ部門」では、男性は女性より1年間に1回以上行った人の割合を示した参加率の高い種目が多く見られます。(例、「キャッチボール・野球」「ゴルフ(コース)」「ゴルフ(練習場)」「釣り」「ジョギング・マラソン」「サイクリング・サイクルスポーツ」等)
「趣味・創作部門」は、反対に女性の参加率が高い種目が多く、「音楽会・コンサート等」「観劇」などの鑑賞系レジャー種目は、断然女性がリードしています。
一方、男性の参加率が女性を上回っているのは、「模型づくり」「日曜大工」「スポーツ観戦(テレビは除く)」「写真・ビデオの制作」「パソコン」「学習・調べもの」等が挙げられます。
「観光・行楽部門」では、男女とも参加率が高いのが、「ドライブ」と「国内観光旅行」「動物園、植物園、水族館、博物館」でした。
ただし、「ドライブ」では、男性が女性をわずかに上回りますが、「国内観光旅行」「動物園等」については、女性の参加率の方が高いようです。
以上の男女別レジャー参加の高いものの傾向をみますと、「スポーツ」よりは「趣味・創作」の参加率が高く、「ビデオ鑑賞」「音楽鑑賞」「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」「日曜大工」「園芸・庭いじり」など、自宅で楽しめるものが人気です。特に「パソコン」は、男女とも70%台とと突出して多く、賃貸住宅に「インターネット対応」は必須であるといえるでしょう。「ビデオ鑑賞」「音楽鑑賞」を、賃貸住宅の入居者が隣人に気兼ねなく楽しむために遮音性に気を配ったマンションも「趣味対応型」といえます。また、「日曜大工」や「園芸・庭いじり」を楽しめるスペースを設けたマンションもいいですね。
さて、ここで「男のホビー対応型」という、コンセプトのマンションを提案させていただきます。
男性の代表的な趣味として、「バイク」「車」「サイクリング」が挙げられますが、都心部のマンションでは、駐車場は付置義務台数を設置しても駐輪場やバイク置き場について配慮されているものは極めて少ないのが現状です。
趣味がバイクや自転車のツーリングという需要は愛車のメンテナンス、保管に注意を払っており、駐輪、バイク置き場が配慮されていないマンションを敬遠する傾向にあります。事例として、北区に住んでいた30代の単身男性が愛用するバイクをいつも目の届くところに置きたくて、西淀川区の土間のある一軒家を15万円の家賃で借りるなど、自分の趣味を優先して住居を選択しています。また、中央区南船場の賃貸マンションでは各階フロアに駐輪場を設けた事例があり好評でした。
近年のマンションは単身女性好みに合わせた商品開発は多いのですが、男性シングルのニーズをくみあげたマンションは極めて少ないようです。付加価値を高めて差別化するために、市場においてはいまだ供給の少ない「需要が気兼ねなく趣味に没頭できる環境を提供するマンション」として、「男のホビー対応型マンション」は、潜在的需要があると思います。
こうしたマンションの間取り等の工夫としては、
賃貸住宅経営をこれから考える方、また現在、賃貸住宅経営をされている方も空室問題が一番気にかかるところだと思います。
これから人口は増加しないし、住宅は余るばかり、賃貸住宅経営などもう駄目だとお考えの方もおいででしょう。
しかし、それは違います。賃貸住宅のニーズはまだまだあります。
分譲マンションも売れ残る時代なのに何をとお思いでしょうが、新聞の折り込みで入っている、分譲マンションの広告をご覧ください。どれも良く似た間取り、設備、価格帯ではありませんか?
分譲マンションは、需要の最大公約数のところに焦点をおくため、間取り、専有面積、設備は、どのデベロッパーも平均化しています。
しかしながら、ライフスタイルが多様化している現在、住に対する要望も多様化しているのが現実です。
賃貸住宅を選択している需要の中には、分譲のワンパターン供給では満足できない層がいます。
賃貸住宅は自らの住まいのあり方を体現したいニッチな需要を掘り起こすことで十分、分譲マンション大量供給エリアにおいても競争できます。
そのためには、新婚向け「2LDK」とか、「間取り」を売るのではなく、「住空間」を売る発想と、その「住空間」にコンセプトを明確にする必要があります。
コンセプト型マンションの一例として、今回はペット同居対応型賃貸マンションを取り上げたいと思います。
「ペット同居対応型」は、少子高齢化社会で、かつ、少家族化(家族数が少ないこと、単身世帯も増加している)社会においては、需要は増加します。
よく、空室を埋めるために「ペット可」マンションにしている例をみかけますが、安易に「ペット可」にすれば、家賃、管理費をアップできると考えるのは早計。ペットを飼わない(もしくは動物が苦手)入居者がいる既存物件で、いきなりペット可とすると、入居者どうしのトラブルのもとになります。
また、飼い主の不在によく鳴く犬の声は結構な騒音となり得ます。
それと、建物の傷みは管理費を2,000〜3,000円アップしただけでは対応できない場合があります。犬、猫のおしっこが床下に漏れ、においがしみついてしまうと次の借手はありません。
また、人間の入る風呂でペットを洗うと毛詰まりをおこしてしまします。
このように「ペット可」では、かえって賃貸住宅の資産価値を落としかねません。
「ペット同居対応型」は、無論、こうした問題をクリアする構造が一番なのですが、「ペット対応型」マンションをいろいろ見学させていただきますと、リードフックや、室内の犬、猫用の小さなドアや、エレベーターホールのペットおしらせランプとか、ハードな部分ばかりを強調しておられるのですが、本当に大切なのは、運営のソフトだと思います。
集合住宅のペット3大トラブルは、(1) 無駄ぼえ、(2) におい、(3) 抜け毛ですが、このトラブル対応は飼育マナーの向上で防ぐことが可能です。
ブリーダーなどに入居されないよう、飼育できる犬種、大きさ、頭数を決めておくことも大事ですし、こうしたルールを館内規制として入居者にしっかり説明することも大事です。
入居者間でペットクラブを作って意思疎通を測ることも一案です。
この他、管理側として動物病院、ペットショップ、ペットシッター等の支援サービス体制を整えておくことは、入居者の方にとって最大のサービスとなります。
ペットのしつけやアニマルセラピー向けの教育については、NPO法人も活動しており、連携をとるものいいでしょう。
ハード面では、グルーミングルーム、ペットの洗い場などがつけられますが、特に犬を飼う場合に需要があるのは以下のものです。
(1) 床材、壁材の強化。傷つきにくく、水ぶきしやすく、掃除がしやすい素材を選んで下さい。床材は、クッション性が高く、滑りにくく、遮音性が高いもの。腰壁状で上下分けているのもいいですね。犬は、平行移動ですが、猫は上下運動をしますから、遮音性に気を配ることは大事です。(2) 飛び出し防止柵の設置、(3) 室内にペット専用の洗い場を設置、(4) 汚物専用水洗の設置なども必要になるでしょう。
最後に、管理側としては、対応にも留意して下さい。
・ 共用部分の床材、壁材の強化
・ 退居時の際の臭いの浄化
・ 退居時のペットの放置など。
次回では、「趣味対応型」マンションについて、ご紹介いたします。
賃貸住宅を経営しているあるいは、これから賃貸経営をすることを考えている方にとって、付近の賃料相場が気になるところですが、周辺にどのような賃貸需要があるかを調べて、間取り、家賃を設定することが重要です。
「国勢調査」、「住宅・土地統計調査報告」の他、市町村で実施している各種統計調査を分析すると、状況が明らかになってきます。
そこで今回は、「平成20年住宅・土地統計調査報告」(総務省統計局)のデータから大阪市、神戸市、京都市の三都市の賃貸需要(借家人)を探ってみました。
まず各市の借家の種類を分析します。
例えば、「公営借家」(市営住宅等)や「都市再生機構(以下URと略する)・公社(住宅供給公社)の借家」の多い地域では、低家賃のファミリータイプの供給が多い。「公営借家」は収入による入居制限がありますが、「UR・公社の借家」は、制限がないので、競合しない間取りタイプを考える必要があります。
下<図1>〜<図3>は、大阪市、神戸市、京都市の借家種類別の借家世帯をグラフ化したものです(「不詳」を除く)。京都市では「公営借家」、「UR・公社の借家」が少なく、神戸市では「公営借家」、「UR・公社の借家」の占める割合が大きいことがわかります。
三都市とも「民営借家」のうち「非木造」の割合が高いのですが、京都市では木造の「民営借家」の割合が20%近くもあります。
民営借家が多く建築された時期を調べてみると「昭和56年〜平成2年」の間に集中しています。これは三都市とも共通で、地価バブル期に相続税対策、固定資産税対策として、賃貸住宅の建設が活発であったことがうかがえます。
ちなみに、「昭和56年〜平成2年」築の借家戸数が民営借家総数に占める割合は、大阪市約28%、京都市約25%、神戸市約24%で、神戸市は平成7年の阪神・淡路大震災の後の平成8年〜平成12年の建築の民営借家も多く、約22%を占めています。
下表は、三都市の借家に住む主な世帯の年齢層の割合です。
学生の多い「京都市」では、「25歳未満」の占める割合は21.4%と大阪市の約3倍、神戸市の約2倍となっています。
「25歳以上34歳以下」でも京都市の割合は高い。
「35歳以上44歳以下」では、神戸市、京都市は16%台でほぼ同割合ですが、大阪市が17%台とやや高めとなっています。
「45歳以上」では、「大阪市」と「神戸市」は、よく似た割合ですが、京都市では常に「大阪市」、「神戸市」より割合が低い。
すなわち、三都市の中で京都市だけが「34歳未満」で借家世帯の4割を占め、若い借家人が多いということになります。
大阪市では、「30歳以上の単身」、「30歳以上64歳の単身」、「65歳以上の単身」が支払っている最も多い家賃帯は「4万円以上6万円未満」です。
ファミリーでは、「夫婦のみ」、「夫婦と3歳未満の子供」、「夫婦と3歳以上5歳の子供」、「夫婦と6歳以上9歳の子供」世帯が最も多い家賃帯は「6万円以上8万円未満」、「夫婦と10歳以上17歳の子供」世帯では「10万円以上15万円未満」となります。
神戸市では、「30才未満の単身」、「30歳以上64歳の単身」は、大阪市と同じく「4万円以上6万円未満」ですが、「65歳以上の単身」は「2万円以上4万円未満」になっています。
子供のいる世帯では、大阪市と全く同じ家賃帯です。
京都市では、「30才未満の単身」、「30歳以上64歳未満」は「4万円以上6万円未満」、「65歳以上」は、神戸市と同じく「2万円以上4万円未満」。
子供のいる世帯は、「6歳以上9歳の子供を持つ世帯」は、「8万円以上10万円未満」の家賃帯が多いが、それ以外は大阪市、神戸市と同じ「6万円以上8万円未満」が最も多くなっています。
三都市とも大きな違いはみられず、単身者は6万円まで、ファミリーは8万円までが最多の賃貸需要の家賃支払限度であることが読みとれます。
こうした世帯別賃料の分析は、空家の家賃の設定や、新規賃貸住宅計画の事業収支のシュミレーションに活用することができます。
まだまだいろんな角度から賃貸需要を分析できますのでぜひ、「統計」をご活用ください。
三大都市圏の主要都市について、2010年4月のインターネットポータルサイトに掲載されている新築物件のみを抽出。
2010年春の賃貸住宅市場の傾向と2009年からの賃料の推移を調査・分析しました。
契機の低迷や雇用不安を受け、三大都市圏とも厳しい状況が続いています。
首都圏では、2009年に比べ平均面積が拡大している地域が増加。
20〜30㎡台の賃料は7万〜8万円台が大半ですが、人気の「自由が丘」「中目黒」は12万円台。しかし、部屋が広くなっているわりには、総額賃料は下落傾向。敷金・礼金等の一時金月数は、2009年の3〜4ヵ月台へと下落しています。
中部圏の「名古屋市」では、平均面積(27㎡前後)は前年とほぼ変わりませんが、総額賃料は3%の下落。一時金月数は1ヶ月の下落。
近畿圏の「大阪市」「神戸市」「京都市」では、いずれも平均面積が28㎡台で2008年から変化は見られません。総額賃料は「大阪市」1.4%、「神戸市」3.0%、「京都市」3.1%の下落。一時金月数は、「神戸市」は変化なしですが、「大阪市」0.2ヶ月、「京都市」は0.6ヶ月の下落。
首都圏では「40㎡未満」の物件と同様、住戸面積は拡大したのに総額賃料は下落している地域が多くなっています。
一時金月数も同じく、1〜3ヶ月台と下落。
中部圏の「名古屋市」では、平均面積が2009年より約3㎡小さくなり、総額賃料は10%下落。一時金月数は、0.7ヶ月の下落となっています。
近畿圏の3都市では、平均面積は43㎡前後。3都市とも2008年から総額賃料は下落しており、「大阪市」9.6%、「神戸市」が4.8%、「京都市」が1.2%の下落。一時金月数は、「大阪市」が0.3ヶ月、「神戸市」0.8ヶ月、「京都市」0.6ヶ月の下落。
首都圏では、超人気エリアの「自由が丘」で平均面積が約4㎡拡大し、総額賃料は34%上昇。その他のエリアでは賃料が下落し、「吉祥寺」で対前年比11%、「武蔵小杉」で25%の下落。一時金月数は2〜3ヶ月台に集中し。
中部圏の「名古屋市」では、50㎡以上の新築物件が少なく、2009年が守山区の1件のみ、2010年は昭和区・中村区の3件となっています。2010年の平均面積は54㎡台で、総額賃料は対前年比37%の上昇、一時金月数は1ヶ月の下落。
近畿圏の3都市の平均面積は55㎡前後。「大阪市」が7.2%、「神戸市」は8.1%、「京都市」は6.5%下落。一時金月数は「大阪市」が0.5ヶ月、「京都市」が0.3ヶ月上昇しましたが、「神戸市」は0.9ヶ月下落。
首都圏・中部圏・近畿圏ともに、新規賃料は2009年に引き続き、2010年の新規賃料は、下落が続いています。各圏とも、平均面積の大きい物件ほど、賃料下落率が大きい傾向があります。
また、入居時の一時金は各圏とも平均して1ヶ月分前後、下落。他のエリアに比べ一時金月数が高いといわれていた近畿圏3都市においても、首都圏・中部圏とほぼ同じ月数で、全国的に一時金月数は平準化しつつあります。
ソーラー住宅(戸建て)を販売しているハウスメーカー3社にヒアリングをした。
ソーラー住宅は、「太陽光発電設備単独」の場合と、「自家発電設備等併設」の場合に分けられる。
「自家発電設備等併設」とは、太陽光発電設備以外の自家発電設備、例えば燃料電池、ガスエンジン、蓄電池等で発電するものを指す。
A社は、ガス燃料電池を使用したソーラー住宅に取り組んでいる。ガス燃料電池の設備費用は300万円かかるが、国の補助、メーカーの値引き等で実質40万円ほどがユーザーの負担となる。戸建では、ガスで発電し、燃料電池で約6割の電力を確保し、残り4割を太陽光発電でまかなうイメージだ。
なお、余剰電力の電力会社の買い取り価格は、住宅用で10kw未満で、「太陽光発電設備単独」の場合48円/kwh(消費税込み、以下同様)。「自家発電設備併設」の場合は、39円/kwhとなる。上記のガス燃料電池では、ガス会社がその差額を負担している。
A社の購入ユーザーのプロフィールは「30〜40歳代」が多く、家族数は「3〜4人」、ソーラー住宅のメリットを、
(1) 電気代の節約
(2) 余剰電力を売電できる
(3) 環境にやさしい
と考えておる。ソーラー住宅購入の動機は、「売電が24円/kwhから48円/kwhに高くなったのが魅力」との回答である。
B社では、「ガス発電型」と「太陽光発電設備型」を販売している。B社の顧客も「30歳代」が多く、家族数は「3〜4人」で、購入動機は、A社と同じく、「売電が高くなったのが魅力」である。
C社では、2009年10月から2010年3月で西日本で販売した住戸の70%がソーラー住宅である。
C社では、国土交通省の「建築物省CO2推進モデル事業」の認定を受けて、太陽光発電+太陽熱連携ヒートポンプ給湯器+蓄電池を設置した住宅を販売している(ただし、蓄電池の納入は、10月頃になる予定)。C社でも、光熱費のランニングコストが安くなることに対して顧客の反応がよい。顧客は、「30歳代」が最も多く、家族数は「4人」で、購入動機は「ランニングコストが低い」「売電が高くなったのが魅力」「環境にやさしい」が掲げられた。
太陽光発電システム搭載賃貸住宅については、共用部分のみ売電し、賃貸住宅オーナーにメリットを持たせるタイプと、入居者と電力会社が個別契約をし、入居者に売電メリットを持たせるタイプに大別される。
後者では、大阪府下で平成20年に、3棟24戸のうち1棟6戸を太陽光発電搭載にした賃貸住宅の事例がある。オール電化+太陽光発電で光熱費が月当り平均で11,000円程安くなる。周辺相場賃料より高い賃料設定だったが、満室となった。
だが、当初入居者の退居後、それまでの設定賃料では、入居者が見つからず、賃料を値下げしたことから、現在では近隣相場にオール電化で+3,000円、太陽光発電併設でさらに+3,000円の家賃設定をしているとのことである。
ここで、太陽光発電併設ですぐ賃料が高くとれると勘違いしてはいけない。あくまで上記の例は、入居者に余剰電力があれば電力会社に売電できるというメリットがある上での設定だ。オーナーだけにメリットがある場合は共益費をその分安くしないと入居のインセンティブに結びつかない。
また、太陽光発電搭載賃貸住宅は、立地と規模(戸数)を選ぶ。
賃貸住宅を建てる土地の方位が南向き、南東向きであるのがベストであるが、それ以外の方位であったり、周囲を高層の建物に囲まれていて計画建物の高さがそれより低ければ、期待できるほどの発電量には至らない。
戸数もある程度必要で、1棟4戸程度では4kwの太陽光発電は搭載できず、ファミリータイプ1棟6〜8戸以上の戸数がないとスケ-ルメリットがでない。
10kw未満では、電力会社の買い取り単価は、48円/kwhだが、10kw以上では買い取り単価が半額の24円/kwhになるので、設備投資の回収期間が延長することになる。買い取り単価についても現在の買い取り価格は、平成23年3月31日まで申し込みした物件にのみ10年間適用されるが、平成23年4月1日以降の買い取り価格は、改めて国が定めることになっている。
太陽光発電付賃貸住宅は立地と規模の検討が不可欠だ。だが、自治体の補助金は年々減少しつつあり、補助金設定がない所もある。安価に供給できるようメーカーの開発に期待したい。
<表>2010年度大阪府下における太陽光発電システム搭載の設置補助
前回に引き続き、占有面積・総額賃料・平均専有面積・一時金月数をまとめたものから比較結果を検討したいと思います。
3.「50㎡以上60㎡未満」首都圏では、「柏」が2008年から連続下落の68,000円。
「吉祥寺」は152千円台であり、対前年より11%の下落。
超人気エリアの「自由が丘」は、面積が約4㎡拡大し、総額賃料で34%上昇の194千円。
「武蔵小杉」は、占有面積が約3㎡縮小し、総額賃料で25%減の153千円、1㎡当たり賃料で22%減であった。「武蔵小杉」も、2008年から賃料は下落している。
なお、一時金月数は2〜3ヶ月台に集中し、2009年より減少している。
中部圏の「名古屋市」では、2009年59㎡台の広さが、2010年は54㎡台に縮小したが、総額賃料は37%に上昇している。
これは、2009年が守山区の1件だったのに対し、2010年は昭和区、中村区の3件の平均であり、件数とエリアの差によるものだ。
一時金月数は1ヶ月の下落。
近畿圏の三都市の平均面積は55㎡前後である。家賃水準は「大阪市」(116千円)「京都市」(108千円)「神戸市」(102千円)の順である。
三都市とも賃料が下落しており、「大阪市」は対前年比7.2%減、「神戸市」は8.1%減、「京都市」6.5%下落した。
一時金月数は「大阪市」が0.5ヶ月、「京都市」が0.3ヶ月上昇したが、「神戸市」は0.9ヶ月下落した。
首都圏では、対前年と比較できる駅はないので、賃料の増減は不明。
「吉祥寺」が230千円、「鎌倉」120千円、「自由が丘」166千円、「中目黒」258千円で平均面積はいずれも61〜65㎡台にある。
中部圏の「名古屋市」では、「60㎡以上」は、2009年では供給がないため比較できない。今回調査も名東区の1件のみであった。一時金月数も約1ヶ月程度下落している。
「名古屋市」の賃料下落の要因は、名古屋圏域の自動車産業を始めとする輸出型企業の業績悪化に大きく結びつく。
近畿圏の三都市の平均面積は64〜65㎡台である。
家賃水準は「大阪市」(131千円)が最も高く、「京都市」(128千円)「神戸市」(101千円)の順となる。賃料水準は、三都市とも下落しており、「大阪市」は対前年比6.4%減、「神戸市」が6.5%減であるが、「京都市」は、2008年から2ケタの下落で2010年の対前年比は17.9%減であった。
一時金月数は、「大阪市」が0.8ヶ月、「神戸市」が0.2ヶ月上昇したが、「京都市」は0.8ヶ月下落した。
首都圏の「たまプラーザ」は70㎡台で160千円で前年より4.5%の賃料上昇。「武蔵小杉」は、△0.5%の微減の216千円。
占有面積は75㎡台で前年とほぼ同じ。
近畿圏の三都市の平均面積は、73〜74㎡台。家賃水準は「大阪市」(166千円)「京都市」(122千円)「神戸市」(121千円)の順だ。
三都市とも賃料は2008年から大幅に下落し、「大阪市」は対前年比4.0%減であるが、「神戸市」は26.2%減、「京都市」は23.3%減の大幅下落である。
一時金月数は、「大阪市」が0.2ヶ月、「神戸市」が0.4ヶ月下落したが、「京都市」は0.4ヶ月上昇した。
首都圏では、「吉祥寺」は、前年から△17%減の278千円。1㎡当たりの賃料で比べると14%の下落である。
「中目黒」は、50%下落の209千円、1㎡当りの賃料では、46%減、「武蔵小杉」は15%減、1㎡当たりの賃料では、8%減であった。
2009年では、300〜400千円台の賃料もみられたが、2010年では、全て200千円台の賃料水準になっている。
近畿圏の三都市の平均面積は、87〜96㎡台。
家賃水準は、高い順に「大阪市」(223千円)「神戸市」(193千円)「京都市」(165千円)の順だが、「大阪市」「神戸市」は対前年比で賃料は上昇しているが、2009年の「大阪市」の事例は17件に対し、2010年は北区、平野区の合計2件と供給件数は激減している。
「神戸市」も同様で、2009年の6件から2件に減少した。
「京都市」も8件から2件に減少し、事例件数の差によるものと思われる。
なお、一時金月数は、「大阪市」が0.6ヶ月、「京都市」が0.3ヶ月下落したが、「神戸市」では、1事例が10ヶ月を超えたため、2事例の平均は8.5ヶ月と2009年の4.1ヶ月を大幅に上回った。
首都圏の主要市、中部圏の名古屋市、近畿圏の大阪市、神戸市、京都市について、2010年4月のインターネットポータルサイトに掲載されている新築物件のみを抽出し、2009年からの賃料推移と2010年三都市圏の賃貸住宅市場の傾向についてまとめてみました。
2010年三大都市圏賃貸住宅市場の共通点は、以下の3点です。
Point1各都市圏の占有面積別、総額賃料、平均占有面積、一時金月数を下表の如く、まとめ、2009年と比較した。その結果、以下のような特徴がみられました。
1.「40㎡未満」40㎡未満は「1ルーム」「1K」「1DK」タイプの占有面積に該当する。
首都圏では、2009年に比べると、2010年は「柏」「西永福」「中目黒」が30㎡台で、その他の駅は、20㎡台であるが、平均面積が拡大している地域が増加している。
ただし、面積が広がっているのにもかかわらず、総額賃料が下落した地域が多く、平均総額賃料が上昇した「横浜市」「吉祥寺」「自由が丘」「武蔵小杉」でも、賃料単価は全て下落している。「武蔵小杉」の10%減以外は1〜2%台の下落である。
20〜30㎡台の賃料は7万〜8万円台が大半であるが、「自由が丘」「中目黒」は12万円台である。一時金月数は2009年の3〜4ヶ月台から1〜2ヶ月台に下落している。
中部圏の「名古屋市」では、「40㎡未満」は、平均面積は27㎡前後でほぼ変わりがないが、総額賃料は6万4000円から6万1000円へ3%下落している。1㎡当りの賃料では1.7%の下落。
一時金月数は1ヶ月の下落。
近畿圏の三都市では、平均面積は三都市とも28㎡台で、2008年から変化はない。
家賃水準は高い順に「大阪市」「神戸市」「京都市」の順であるが、すべて6万円台である。この順番も2008年から同じであるが、三都市とも、対前年比で賃料は下落している。(大阪市1.4%減、神戸市3.0%減、京都△3.1%減)
一時金月数は、「神戸市」は変化がないが、「大阪市」0.2ヶ月、「京都市」は0.6ヶ月の下落。
首都圏では、「40㎡未満」と同様、2010年の占有面積は拡大したのに総額賃料は下落している地域が多い。
2009年に比し、平均面積にほぼ変わりがないのに賃料が下落したのは、「横浜市」(16%減)の11万7000円、「柏」(3%減)の6万3000円、「鎌倉」(13%減)の12万円である。
一時金月数は、2009年は2〜4ヶ月台であったが、2010年は1〜3ヶ月台と下落傾向にある。
中部圏の「名古屋市」では、「40㎡以上50㎡未満」では、平均面積42㎡台で2009年より約3㎡小さくなり、総額賃料は10%下落。1㎡当り賃料は3.7%減。
一時金月数は、0.7ヶ月の下落。
近畿圏の三都市では、平均面積は三都市とも43㎡前後であるが、家賃水準は高い順に「大阪市」「京都市」「神戸市」の順で、「大阪市」9万4000円、「京都市」8万5000円、「神戸市」8万円である。
三都市とも2008年から賃料は下落しており「大阪市」が最も大きく9.6%減、「神戸市」が4.8%減、「京都市」が1.2%減であった。
一時金月数は、「大阪市」が0.3ヶ月、「神戸市」0.8ヶ月、「京都市」0.6ヶ月の下落となった。
「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」が平成21年5月20日に一部改正され、高齢者円滑入居賃貸住宅の制度改善として、(1) 登録基準の設定と、(2) 指導監督の強化が、平成22年5月19日から施行(登録申請受け付けは平成21年11月19日施行)されます。
登録基準の対象となるのは、高齢者円滑入居賃貸住宅並びに高齢者専用賃貸住宅で、登録基準の主な内容は下表のとおりです。
(1) 規 模 | 各戸の床面積(原則) | 各戸の床面積(例外) |
---|---|---|
25㎡以上 (共用部分除く) |
居間、食堂、台所、その他の住宅の部分が、高齢者が共同して利用するため十分な面積を有する場合、18㎡以上 | |
(2) 構造及び設備 | 原 則 | 例 外 |
台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室(以下「台所等」という)を備えたものであること | 共用部分に適切な台所、収納設備、又は浴室を備えることにより、各戸に備える場合と同等以上の居住環境が確保される場合は、各戸が台所、収納設備、又は浴室を備えたものであることを要しない | |
(3) 賃貸の条件 | (イ) 前払家賃、サービス対価前払金、又は一時金(敷金)を受領する場合、算定の基礎は書面で明示し、返還義務を負うこととなる場合に備えて保全措置を講ずること | |
(ロ)サービスを提供する契約は、賃貸住宅に係る賃貸借契約とは別に、サービスの内容及びその対価として受領する金銭の概算額を書面で明示した契約を締結すること |
規定の要件を満たして、再度登録手続きを行わない限り、高齢者円滑入居賃貸住宅登録はすべて抹消されます。
なお、高齢者円滑入居賃貸住宅とは、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅をいい、賃貸住宅の貸主が、都道府県知事、または各都道府県の指定登録機関に賃貸住宅を登録します。
高齢者専用賃貸住宅は、高齢者円滑入居賃貸住宅の内、専ら高齢者に賃貸する住宅で、上記の登録手続きは無論、高齢者専用賃貸住宅も必要となります。
さて、高齢者円滑入居賃貸住宅は、平成21年3月末現在で153,745戸、(平成13年8月より)高齢者専用賃貸住宅は29,766戸(平成17年12月より)の登録実績がありますが、財団法人高齢者住宅財団のホームページによりますと、高齢者円滑入居賃貸住宅の平成22年3月1日現在の総登録戸数は180,308戸、高齢者専用賃貸住宅は42,256戸あり、ほぼ1年弱で前者で17%増、後者は42%増と急激に件数が増えています。
高齢化社会を迎え、ニーズが高まっている表れと言えるでしょう。
しかし、その立地についてはどうでしょう。
最近、一般向け賃貸住宅立地としては、駅から遠いけれど高齢者専用賃貸住宅であればこうした立地でも問題ないといった話をよく耳にします。
しかし、弊社が需要者に対し、ヒアリング調査したところ、やはり一般の賃貸住宅と同様、立地、特に駅、買い物施設への接近性に優れている立地を第一位の条件とされます。
弊社独自調査による大阪市在住の高齢者の住まい観は、下記のとおりであり、高齢者の方は地域に密着し、地域コミュニティに参加できる住まいを望んでおられ、高齢者専用住宅にもハードもさることながらソフトの充実が求められます。
2008年秋のリーマンショックによる金融市場の低迷は実体経済にまで及び、日本では2008年末から企業の大規模な雇用調整が始まった。
その結果、自動車産業の集積する中部圏、北九州圏域内の主として単身者向けの空室率が急上昇し、近畿圏においても積極的に工場誘致を行っていた工場団地周辺での賃貸住宅の空室率の上昇が観測された。
特に、空室率の上昇が顕著なのは、JREITやファンドによる単身者向け賃貸マンションが大量供給された大阪、神戸の都心部である。
同エリアで、20歳台の若年単身者と、30歳台女性単身者の需要が増加していたが、景気後退により企業の家賃補助の廃止や減額、ボーナスカットなどにより収入そのものが減額したため、需要が都心部から流出したのだ。
また、ファミリー需要の動きも顕著となった。この層は子供の教育環境等の関係から単身者と比べると動きが鈍いのが特徴であるが、2009年1〜3月のシーズンは、家賃7〜8万円台のファミリー向けタイプの退居が相次ぐ一方、市営住宅等の低家賃の公的賃貸住宅の入居率が上昇した。
このように2009年は実収入の低下から転居を余儀なくされる「生活防衛型転居」による空室率の上昇が見られた。
【POINT1】単身向けタイプは減少、ファミリー向けは需要増
下<図1>は、2000年から2010年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
これによると「1R」や「1K−1LDK」といった単身者向け供給が年々増加しており、2008年には、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市除く)では、全体の78.4%が単身者向けであった。
しかし、2009年には、大阪市82.0%、近畿圏75.2%に、2010年では、大阪市77.8%、近畿圏70.3%まで減少した。その反面、大阪市、近畿圏ともに「2K−2LDK」が増加している。この理由としては、単身者向けタイプが供給過剰になっていることが挙げられる。カップル向けの「2K−2LDK」は、分譲マンションと競合するため、また長い間新規供給が控えられてきたが、不況に伴う所得減少、あるいはマイホームを手離すといった事情により、ファミリー向け賃貸の需要が増加したことも一因といえる。
さらに、最近の家族数の減少を受け、「3K−3LDK」より「2K−2LDK」を選択するケースが増加していること、ルームシェアリングや兄弟姉妹などで単身者同士が住まうケースの増加なども背景にある。
【POINT2】単身者・ファミリーともに賃料下落。後半には回復も
次に2008年から2010年(1月時点)の近畿圏全体(大阪市も含む)のタイプ別の総額賃料、専有面積、賃料単価、一時金月数の動向を分析した。
(1) 「1R」タイプ
供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、67千円台で、対前年比△1.3%。占有面積は、29.64㎡で2009年より0.54㎡広くなった。賃料単価では、対前年比△3.7%、一時金月数も0.2ヶ月分減少して3.0ヶ月となった。
(2) 「1K−1LDK」タイプ
供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、対前年比△1.4%。専有面積は、35.26㎡で前年より1.03㎡拡大した。賃料単価は、△4.2%。一時金月数も0.2ヶ月減少し、3.0ヶ月となった。
(3) 「2K−2LDK」タイプ
2010年の供給件数は、2009年の268件から362件と対前年比35%増となった。総額賃料は、△11.4%の大幅下落。専有面積は、61.35㎡で前年より1.3㎡縮小した。賃料単価は、△6.2%、一時金月数は、3.6ヶ月と0.2ヶ月前年より上昇している。
(4) 「3K−3LDK」タイプ
2010年の供給件数は、2009年の113件から120件と7件増加。総額賃料は、対前年比△8.7%。専有面積は、81.40㎡で前年より1.63㎡縮小した。賃料単価は、△7.5%で、一時金月数は、4.2ヶ月と0.6ヶ月前年より上昇した。
ここからも「1R」や「1K−1LDK」といった単身者向けの供給件数が減少し、総額賃料、賃料単価、一時金月数共に下落していることがわかる。
それに対し、「2K−2LDK」「3K−3LDK」といったファミリー向けでは、供給件数は増加したが、総額賃料、賃料単価、専有面積は減少し、一時金月数のみ増加した。
供給件数増加の要因は供給タイプに変化があったためだが、勤労者世帯の所得減少は、賃料単価のみならず、専有面積を小振りにし、総額賃料を抑える結果となった。
一時金月数について見ると、「2K−2LDK」は対前年比で上昇したものの、総額では昨年を下回る結果となった。一方「3K−3LDK」は総額で2008年を上回ったが、賃料大幅減を担保にするために一時金が上昇したことによるものと推測される。
三、近畿圏賃貸住宅市場での一時金等の取引慣行の変化
ここ5年で近畿圏を中心とした一時金の是非を問う裁判が続出し、賃貸業界の注目を集めている。
賃貸借契約時に支払われる一時金としては、大阪府、兵庫県が保証金もしくは敷金として徴収し、賃貸借終了時に敷引き、もしくは“引き”と称する金額を控除した額を返還する慣行が昭和40年代から始まったといわれる。また、京都府、滋賀県では敷金・礼金を徴収し、賃貸借契約継続時に更新料を徴収することが多く、「敷金」、「礼金」、「更新料」が慣行として定着し出したのは昭和50年代以降のようである。
しかしながら、こうした取引慣行も近年、その慣行をくつがえす判例が次々と出ている。
例えば、自然損耗および通常使用による損耗について、借主が原状回復義務を負担する内容の特約を含んだ賃貸借契約について、契約終了後に貸主が原状回復費用として要したと、敷金返還を拒み、借主が提訴した案件では、京都地裁は同特約を消費者契約法10条2項(消費者の利益を一方的に害する条項は無効)違反として、貸主に敷金返還を求めた(その後、大阪高裁にて貸主の控訴は棄却)。
また、契約更新の際の更新料について、借主がすでに支払済みの更新料の返還を求めた提訴では、京都地裁において棄却されたものの、その後の大阪高裁では「目的や性質が明確でなく、賃料の補充などの合理的な根拠を見出すことは困難」とし、消費者契約法第10条を根拠に更新料の徴収を無効にした。
以上の判決例からみるように、一時金の一部について、次々と取引慣行が否定されており、賃貸経営に当たって、一時金を収入の見込として計上できなくなることも考えられる。
こうした状況を踏まえると、賃料や共益費のなかで原状回復費用を捻出する経営姿勢が必要となる可能性があるといえる。
2009年の賃貸住宅市場を総括すると単身者向け、ファミリー向けを問わず、空室率が上昇し、賃料、一時金は下落した
単身者向けは、Jリート、ファンドによる賃貸マンションが大量供給された大阪、神戸の都心部での空室率の上昇が顕著である。
工場団地周辺では、大規模な企業の雇用調整であり、都心部では企業の家賃補助の廃止・減額、あるいはボーナスカットや給料そのものの減額により、需要の家賃負担力がなくなったため、高い家賃帯から流出した。
また、2009年では、ファミリー需要の動きも早かった。単身者に比較すると、子供の教育環境もあり鈍いのが例年であるが、2009年1〜3月のシーズンは、家賃7〜8万円台のファミリー層の退居が相次ぎ、その半面、市営住宅等の低家賃の公的賃貸住宅の入居率は上昇した。
2009年はシングルもファミリーも実収入の低下から転居を余儀なくされる「生活防衛型」転居で空室率が上昇した。
それでは2010年賃貸住宅市場はどうなるか。
まず、2010年の市場で大きな変動要因は新築供給タイプが変化していることである。
下<図1>は、2000年から2010年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
「1ルーム」「1K−1LDK」の単身者向け供給が年々増加し、2008年では、大阪市全体の87.7%、近畿圏(大阪市を除く)では、全体の78.4%が単身者向けであった。
しかし、2009年には大阪市82.0%、近畿圏75.2%に、2010年では大阪市77.8%、近畿圏70.3%まで単身者向けタイプの割合が減少した。反対に、大阪市、近畿圏ともに「2K−2LDK」のタイプが増加している。
この理由として3点を挙げることができる。
(1) 単身者向けタイプが供給過剰になっていること。
(2) 長年、カップル向けの2居室タイプの新規供給は、分譲マンションとの競合を避け、供給控えが続行していたが、不況に伴う所得減少、あるいはマイホームを手放すといった事情により需要が増加したこと等が掲げられる。
(3) ファミリー向けタイプは最近の家族数の減少を受け、3部屋より2部屋を選択する需要が増加していること、並びにルームシェアリング、兄弟姉妹などで単身者同士が住まう需要の増加も背景にある。
<表1>〜<表4>、<図1>〜<図4>は、近畿圏全体(大阪市も含む)間取り別の総額賃料、占有面積、賃料単価、一時金月数をまとめたものである。
【1】 「ワンルーム」供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、67千円台で、対前年比△1.3%の下落。占有面積は、29.64㎡で2009年より0.54㎡広くなった。賃料単価では、対前年比△3.7%の下落、一時金月数も0.2ヶ月分減少して3.0ヶ月である。
【2】 「1K−1LDK」供給件数は、減少傾向にある。総額賃料は、対前年比△1.4%の下落。占有面積は35.26㎡で、前年より1.03㎡拡大した。賃料単価は、△4.2%の下落。一時金月数も0.2ヶ月減少し、3.0ヶ月となった。
【3】 「2K−2LDK」2010年の供給件数は、2009年の268件から362件と対前年比35%増となった。総額賃料は、△11.4%の大幅下落。占有面積は、61.35㎡で前年より1.3㎡縮小した。賃料単価は、△6.2%の下落で、一時金月数は、3.6ヶ月と0.2ヶ月前年より上昇している。
【4】 「3K−3LDK」2010年の供給件数は、2009年の113件から120件と7件増加。総額賃料は、対前年比△8.7%の下落。占有面積は、81.40㎡で前年より1.63㎡縮小した。賃料単価は、△7.5%の下落で、一時金月数は、4.2ヶ月と0.6ヶ月前年より上昇した。
【5】 まとめ以上から、単身者向け(「ワンルーム」、「1K−1LDK」)の供給件数は減少し、総額賃料、賃料単価、一時金月数共に下落した。 ファミリー向け(「2K−2LDK」「3K−3LDK」)は、供給件数は増加したが、総額賃料、賃料単価、占有面積は減少し、一時金月数は増加した。 「2K−2LDK」のような2部屋を備えている物件の一時金月数は、対前年で増加してるものの、一時金額では、下落は続行している。「3K−3LDK」のような3部屋を備えている物件のみ一時金月数も一時金額も前年を若干上回った。
以上から、2010年の新築賃貸市場は、「生活防衛」のために単身者どおしが「共住み」し、ファミリーは子供数の減少から3部屋タイプから2部屋タイプに「ダウンサウジング」し、「総額賃料も下落」が続行すると予測する。
なお、人口が継続的に流入するエリアでは、2010年の年初めの賃料大幅下落に好感し、需要移動量が増加することも予測され、こうした地域は2010年末には、賃料下落にストップがかかってくると思われる。
ここ10年で1ルーム、1居室タイプ(1K、1DK、1LDK)の占有面積は、格段に広くなっているが、この理由としては、以下の点が掲げられる。
1) 風呂、トイレ、洗面の一ユニットタイプが消費者に嫌われ、セパレートタイプになってきた。また、風呂サイズも1216等、ゆとりのある設計になっている。
2) 居室部分も6帖から8帖以上へと広くなっている。バブル期では、部屋は寝るだけの場であったが、平成シングルは、住まいをできるだけ居心地のいい空間にするため、居室の広さにもこだわりをもつためである。
そこで、2000年から2009年の10年間で、1ルームと1居室タイプの広さがどう変化したか、また大阪市、神戸市、京都市の三都市で広さに違いがあるにかどうか調査した。なお、各市ともその年の1月に供給された新築住宅を収集し、平均をとっている。
◆「1ルーム」タイプ
2000年の1ルームの広さは、大阪市が22.58㎡、神戸市23.10㎡、京都市21.92㎡で、近似した広さとなっている。
大阪市はその後、広狭をくり返していたが、2007年以降、2009年までは28㎡台で推移している。
神戸市は、2008年まで28㎡台で推移していたが、2009年では28㎡を割り込み、27.59㎡となった。
京都市は、2009年で29㎡台に拡大した。
三都市とも、広さは違えども、2006年を機に占有面積が拡大し、27〜29㎡で推移している。2000年と2009年を比較すると、大阪市は25%、神戸市は19%、京都市は34%、面積は広くなっている。(<図1>参照)
◆「1K−1LDK」タイプ
大阪市では、年々拡大傾向にあり、2008年は34㎡台にまで拡大したが、2009年は33㎡台とやや小ぶり化した。
神戸市は、2003年までは24〜27㎡台の内を大きくなったり小さくなったりしていたが、2009年では35㎡台まで拡大した。
京都市は、拡大、縮小をくり返していたが、2007年以降は30㎡台、31㎡台、32㎡台と毎年、拡大傾向にある。
2000年と2009年を比較すると、大阪市、神戸市は34%、京都市は21%、面積は広くなった。(<図2>参照)
◆ まとめ
ここ10年で、1ルーム、1居室タイプは20〜34%も面積が拡大している。2009年は不況の影響を受け、総額賃料をおさえるため小ぶり化した賃貸住宅の供給が増え始めている。しかし、賃貸住宅は30年〜40年間にわたって経営するものである。単身世帯の年齢層が高くなりつつあり、広目指向は今後も変わらないと推測される。安易に面積を小ぶり化することは、危険である。
以上
1.リフォームの定義
最近、新聞やテレビで賃貸マンションの「リフォーム」とか「リノベーション」とかご覧になりませんか。
「改良すること。特につくり直すこと。」(広辞苑)を意味します。
もともとは、服飾関係で古くなった服に手を加えて新しい形に仕立て直すことを意味していましたが、エクステリア関係の増改築の意味や、間取の変更、部屋の模様替もリフォームというようになりました。
2.リフォームの類型化
リフォームを類型化すると、以下の3つのタイプになります。
1. 機能回復型 ・・・ | 設備の劣化や破損、故障したところを修繕、修理するもの。 |
2. 機能向上型 ・・・ | 台所、便所、浴室の設備の機能性をアップするもの。 例えば、和式便所をウォシュレット付洋式便座に取り換えるとか。 |
3. リノベーション型 ・・・ | 間取の変更(例えば2DKを1LDKに)、壁、床、天井の断熱性・遮断性をアップしたり、仕上げをグレードアップするもの。 |
3.賃貸住宅におけるリフォームの必要性
前述の「機能回復型リフォーム」については、どの賃貸住宅オーナー様もされておられると思います。
しかしながら、機能回復だけでは賃貸住宅の商品価値は取り戻せないのが現状です。
その理由としては、
1. 「住」に対してこだわりをもつ賃貸需要が増加し、妥協しないこと。
2. 住宅設備の新商品の開発により、従来の設備の陳腐化の速度が早いこと。
があげられます。
そして建物の老朽化、間取り、設備の陳腐化により空室率が上昇していくのです。
従って、空室率の上昇をくいとめ、長く入居者の方々にお住まいいただくためには、リフォームが必要になってくるのです。
4.リフォームのポイント
「リフォーム」したのに空室率がうまらない、家賃が上げられない、というオーナー様の声を良く聞きます。
リフォームの内容をお尋ねしますと、
1. 流し台や給湯器が古くなったので、新品に変えた。
2. クローゼットが人気と聞いたので、ふすまの押入れを中身はそのままでふすまだけクローゼット風の扉に変えた。
3. 建物外観は塗装塗り替えしたが、中身は古いアパートのまま。
等の回答を得ました。
1. では、機能回復しただけなので、それだけでは他の賃貸住宅との競争力は低いままです。
2. は、クローゼットの機能を外観だけと取違われたケースです。
3. も外観は塗装を塗り替えしてきれいになりましたが、これも機能を回復しただけなのです。
家賃や入居率をあげるためには、「機能向上型」リフォームと「リノベーション型」リフォームを検討する必要があります。
次回はより実践的なチェックポイントについてお話したいと思います。
<大阪市>
2009年の大阪市の「1ルーム」「1K−1LDK」の賃料は対前年比△6.3%の下落、「2K−2LDK」は△25.7%、「3K−3LDK」は△32.9%の大幅下落となりました。
2居室以上の賃料下落が著しいのは、都心部に集中していた主としてファンドによる高額賃貸物件の供給が減少したためです。
2009年の「1ルーム」の平均占有面積は29.04㎡で総額賃料69,600円、「1K−1LDK」の平均占有面積34.81㎡で総額賃料は83,900円、「2K−2LDK」の平均占有面積60.77㎡で総額賃料123,000円、「3K−3LDK」の平均占有面積73.95㎡で総額賃料166,200円です。
<北大阪>
2009年の「1ルーム」の賃料は対前年比+0.3%、「1K−1LDK」は同+6.1%で上昇、「2K−2LDK」は同△2.2%、「3K−3LDK」は同△1.1%の下落となりました。
「1ルーム」「1K−1LDK」の支払賃料の上昇は、豊中市の供給が減少し吹田市の「江坂」駅前における供給が増加したこと、「江坂」駅前の内でも2009年は徒歩5分圏内での供給が増加したこと、更に吹田市の占有面積が2008年より小振りになっていることが平均賃料を上昇せしめたものと思料されます。
「1ルーム」の平均占有面積は30.79㎡で総額賃料74,900円、「1K−1LDK」の平均占有面積33.29㎡で総額賃料81,900円、「2K−2LDK」の平均占有面積72.09㎡で総額賃料136,300円、「3K−3LDK」の平均占有面積83.14㎡で総額賃料166,000円です。
<阪神>
2009年の「1ルーム」の賃料は対前年比+0.4%、「1K−1LDK」は同+0.2%でほぼ横ばいです。
「2K−2LDK」は同△2.3%、「3K−3LDK」は同△7.8%の下落でした。
「1ルーム」の平均占有面積は27.06㎡で総額賃料63,200円、「1K−1LDK」の平均占有面積32.65㎡で総額賃料68,900円、「2K−2LDK」の平均占有面積64.18㎡で総額賃料110,100円、「3K−3LDK」の平均占有面積82.71㎡で総額賃料128,300円です。
<南大阪>
南大阪全体では、支払賃料は対前年で各タイプとも微増していますが、これは堺市の平均賃料が上昇したことに帰因します。
堺市では「1ルーム」賃料はほぼ横ばいであるが、平均占有面積は約1.2㎡小振りとなった31㎡台で、総額賃料は2008年の58,800円から57,000円に下落しています。
しかし、「1K−1LDK」は平均占有面積36㎡台で変わらず、賃料単価が上昇し、総額賃料は2008年の62,800円から67,000円に上昇しました。
これは、堺市で大規模製造業が進出したことから「1K−1LDK」の供給が増加し、賃料も強気に設定されたものと推測されます。
「2K−2LDK」賃料は賃料単価は上昇したものの、占有面積は2009年は54㎡台と6㎡も小振りになったため、総額賃料は2008年の83,500円から83,400円と微減です。
「3K−3LDK」も賃料単価は上昇しましたが、占有面積が約3.3㎡小振りとなった75㎡台で、総額賃料は110,000円から106,700円に下落しています。
これから12回にわたり近畿圏の地価、賃料、市場の動きについてご紹介させていただきます。
第1回目は、弊社が過去25年にわたって定点観測しております毎年7月第1週時点での住宅賃料の調査結果をご紹介いたします。
調査地域は大阪市、南大阪(堺市、松原市、泉佐野市、貝塚市、岸和田市)、北大阪(豊中市、池田市、吹田市、箕面市)、阪神(伊丹市、川西市、尼崎市、西宮市)で、新築、築後1年のマンションの賃貸物件をインターネットから収集し、間取別に分析しました。
「1K−1LDK」の供給増加
新規供給件数は、2007年をピークに減少傾向にあり、2009年は479件でした。1998年以降、供給の主流はファミリータイプから「1K−1LDK」の単身者向けに変化し、「1K−1LDK」は2004年以降、新規供給件数の約60%台を占めています。(<図1>参照)
エリア別でも「1K−1LDK」の供給が最も多く、「2K−2LDK」が続くが供給量は「1K−1LDK」の1/4です。(<図2>参照)
全タイプで賃料単価は下落
全体の傾向としては、全タイプで賃料単価は下落しました。
「1ルーム」「1K−1LDK」は2008年では微増の動きでしたが、2009年では「1ルーム」で△3.2%、「1K−1LDK」で△3.6%と△3%台の下落でした。
「2K−2LDK」は2008年で+5.2%の上昇がみられましたが、2009年は△10.8%の大幅下落となりました。
「3K−3LDK」は2008年の△3.4%から更に下落率が拡大し、△8.7%でした。
一時金は下落が継続
2009年の一時金月数は、シングルタイプもファミリータイプも一時金月数は3ヶ月台でした。
1988年との比較では、特にファミリータイプの「2K−2LDK」「3K−3LDK」の下落が著しいです。(<表1>参照)
<表1> 一時金月数と(敷)引月数 (1988年、2008年と2009年の比較)
上昇気運にあった新築賃料ですが、景気後退とともに一転して下落地点が続出しています。しかし、エリアによっては賃貸需要が増加し、稼働率が上昇している地域も見られます。今後の賃貸経営計画では、よりきめ細やかなエリアマーケティングが勝負を分けるポイントとなるでしょう。
三大都市圏における新築賃貸市場調査のまとめ
2009年4月にインターネットで入居募集された三大都市圏の新築賃貸住宅について、占有面積別の「総額賃料」「平均面積」「一時金月数」を調査したところ、以下の点が指摘されます。
●首都圏では、「ワンルーム」「1K」「1DK」タイプに30㎡台が増え、1戸あたりの平均面積が広くなっている。面積の拡大に伴い40㎡未満の物件は総額賃料が上昇した地域が多いが、平均面積に変化のない「横浜市」や「吉祥寺」では賃料が下落している。「横浜市」は50㎡未満での賃料下落が目立つが、60㎡以上では上昇。反対に「柏」は40㎡未満で賃料が上昇し、40㎡以上で下落するなど、地域によって賃料動向の差が著しい。
●「名古屋市」では、平均面積が広くなるにつれ、賃料の下落率が拡大。自動車産業を始めとする輸出型企業の業績悪化が、賃貸市場に大きな影響を与えている。また、2008年調査では60㎡以上の新規供給が見られたが、2009年調査では供給が見られなかった。
●関西の「大阪市」「神戸市」「京都市」の三都市では、40㎡未満では賃料水準に大きな変化はないが、40㎡以上になると三都市とも賃料が下落。
平均面積が広くなるにつれ賃料の下落率が拡大していくのは、名古屋市と同じ傾向にある。
2009年の賃貸住宅市場の傾向と対策
2008年後半からの急激な景気後退に伴い、勤労者の家賃負担力は低下し始めています。これを受け、2009年は高い家貸から低い家貸へ、また持家マンションから賃貸住宅等への住み替えが顕著になると考えられます。
都心部でのシングルタイプの高家賃は、企業の人材確保のための社宅需要や家賃補助が支えていましたが、景気後退に伴う雇用の見直し、経費の見直しにより、借上社宅の廃止・家賃補助額の減額等が増加し、需要が減退することから、都心部の賃料のみならず全般的な地域・タイプで賃料の下落、空室率の上昇が予測されます。
ただし、不動産価格の下落も続行しているので、資産価値の下落を嫌い「所有」よ「賃貸」を選ぶ層が増えることが予測され、賃貸住宅オーナーさまは必ずしも悲観的に見る必要はないと考えます。新規賃料の下落は、需要の支払能力に応じた賃料に近づいているということであり、賃料が下落した結果、賃貸需要が増加して稼働率が上昇している地域も見られます。市場全体の供給が減少し、建築費が下落している時期だけに、「きめ細かい立地マーケティング」と「保守的な事業収支計画」を守れば、賃貸経営計画は立てやすいと言えるでしょう。
一例を挙げると、京都市では同志社大学・同志社女子大学の学部移転により、2013年までに9,100戸の学生向け賃貸住宅の新規需要が見込まれています。このように、ひと口に賃貸市場と言っても、エリアによって事情はまったく異なります。これから賃貸経営を検討される方は、エリアマーケティングの重要性をぜひ認識していただきたいと思います。
※家賃データ出典:2009年4月現在のインターネット上での新築募集賃料を収集し、分析した。
下<図1>は、2000年から2009年までの大阪市と関西主要市(大阪市を除く大阪府の全市、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしたものである。
(1)大阪市
2000年の大阪市で最も供給量の多いタイプは「1K−1LDK」で、全体の約65%を占める。
次に「2K−2LDK」(約24%)、「3K−3LDK」(約6%)、「ワンルーム」(約5%)の順であった。
2000年以降は「1K−1LDK」タイプの供給量が増加傾向にあり、2009年では70%台を占める。
また、ワンルームも11%台に増加し、シングル向けの供給が82%台になっている。
反対に2居室、3居室のファミリータイプは、2000年の30%台から2009年の18%台と1/2近くまで減少している。
(2)関西主要市(大阪市除く)
2000年の関西は「1K−1LDK」タイプが最も多く、44%台であった。次に「2K−2LDK」の30%台、「3K−3LDK」の20%台、「1ルーム」は5%弱で供給の主流は「1K−1LDK」、「2K−2LDK」であった。
しかしながら、2009年では「1K−1LDK」が67%台まで増加し、「2K−2LDK」は15%台「1ルーム」が10%台、「3K−3LDK」が6%台と、近畿圏においても2居室、3居室タイプの供給が激減していることがわかる。
2008年、2009年のタイプ別新築賃料の動向を分析した。
(1)「ワンルーム」タイプ
2009年の総額賃料は、対前年比+0.6%と微増で68,000円台、賃料単価は対前年比+1.4%増の2,372円/㎡(7,840円/坪)である。 占有面積は29㎡台で変化はないが、一時金月数は0.3ヶ月減少の3.2ヶ月で、一時金月数は調査開始年の2000年以降下落が続行している。
(2)「1K−1LDK」タイプ
2009年の総額賃料は、対前年比△3.4%下落の74,000円台である。
賃料単価も2.8%下落し、2,208円/㎡(7,300円/坪)である。
占有面積は34㎡台で変化はないが、一時金月数は0.5ヶ月減の3.2ヶ月で、実質賃料単価では3%の下落となっている。
(3)「2K−2LDK」タイプ
2009年の総額賃料は、対前年比+7.3%の125,000円台であるが、これは占有面積が2008年の60㎡台から2009年は62㎡台に広がったためで、賃料単価はほぼ同額の1,884円/㎡(6,230円/坪)である。
一時金月数は0.4ヶ月減の3.4ヶ月であり、実質賃料では0.2%減となる。
(4)「3K−3LDK」タイプ
2009年の総額賃料は171,000円台で、対前年比1.0%の減少である。
占有面積は、83㎡台で変わらない。
賃料単価は、対前年比1.7%減の1,989円/㎡(6,580円/坪)であるが、一時金月数は0.6ヶ月減の3.6ヶ月で、実質賃料単価では1.9%減。
なお、「3K−3LDK」の賃料単価が「2K−2LDK」を上回っているのは、「3K−3LDK」タイプの新規供給は都心エリア(大阪市、神戸市、京都市の中心区、並びに阪神間)に集中しているため。2006年以降、Jリート、ファンドマネーが地方に流れ、都心部での賃貸マンションの供給の担い手となったが、その主たる供給タイプは、「1K−1LDK」の単身者向けと「3K−3LDK」以上の家賃20万円〜30万円の高額物件であった。
ちなみに、関西では家賃15万円を超えると高額賃料といわれ、一般サラリーマン等の需要はなく、主として自営業、企業等が主たる借手となる。
(5)入居一時金月数の下落
2ヶ年続けて各タイプとも一時金月数は下落している。 下表は1988年と2009年の関西の平均一時金月数を比較したものであるが、2009年の一時金月数は「ワンルーム」、「1K−1LDK」は、1988年の1/2以下、「2K-2LDK」、「3K−3LDK」は同年のほぼ1/3になっており、継続的に一時金月数は下落の傾向にある。
新築「1K−1LDK」の賃料値崩れが顕著
前編で述べたとおり、「1ルーム」タイプを除いて「1K−1LDK」、「2K−2LDK」、「3K−3LDK」タイプの賃料単価は下落に転じている。
特に供給の中心タイプである「1K−1LDK」タイプの賃料の下落が顕著となった。
「1K−1LDK」タイプの賃料の傾向をエリア別でみると、大阪市は横ばいであるが、北大阪エリアは△6%台、南大阪エリアも△7%台の大幅下落となった。
神戸エリアが△1%台、阪神エリアは+0.8%の微増、京都市は△2.1%と「1K−1LDK」タイプの供給が集中していたエリアで新築賃料の下落傾向が鮮明になっている。
占有面積は拡大・縮小エリアにより二極化
近畿圏の平均占有面積は2008年、2009年ともほぼ近似した面積で推移しているが、「1K−1LDK」についてエリア別にみると賃料単価の高い大阪市、阪神間は占有面積が1㎡前後小さくなり、いずれも33㎡台である。
反対に神戸エリアは約2㎡拡大し35㎡台、京都エリアは1㎡未満の拡大で32㎡台、大阪府下はどのエリアも占有面積は縮小傾向にある。
なお、賃料単価下落の顕著な地域ほど占有面積の縮小が目立つ。
一時金月数は下落が続行
1991年から1993年にピークアウトした住宅賃料は下落が続行していたが、2006年で上昇に転じた。
2009年ではタイプによるが下落が顕著になっている。このように賃料は上昇、下落をくり返しているが一時金月数は弊社調査開始の1988年以降、下落が続行している。
Jリート、ファンド賃料の下落
Jリート、ファンドマネーは都心の賃貸マンションの大量供給の担い手となっていたが、2007年のアメリカ発サブプライム問題に端を発した世界的金融収縮により、Jリート、ファンドの新規賃貸住宅の供給は急速に減退している。
既に稼働中の賃貸マンションでは、募集賃料の下落はみられないが、一時金0円、フリーレント2−3ヶ月という条件で空室の募集をしており、実質賃料自体は下落している。
しかし、2008年後半から空室率が上昇しているため、2009年はJリート、ファンド物件の募集賃料も下落すると思われる。
需要の変化による賃料の下落
2008年後半からの急激な景気後退に伴い、勤労者の家賃負担力は低下し始めている。これを受け、2009年は高い家賃から低い家賃へ、また持家マンションから賃貸マンション等への住み替えが顕著になる。これを裏付けるように2009年賃貸市場は2LDK以上のファミリータイプの動きが活発化している。
都心部でのシングルタイプの高家賃は企業の人材確保のための社宅需要並びに企業による家賃補助が支えていたが、景気後退に伴う雇用の見直し、経費の見直しにより借上社宅の廃止、家賃補助額の減額等が増加し、都心部賃料のみならず全般的な地域、タイプで賃料の下落、空室率の上昇が予測される。特に都心を指向する需要動向を分析すると「20歳〜24歳」台の若年シングルの割合が増加しており、賃料負担力が低くなっていることからもシングルタイプの賃料下落は続行する。
「所有」より「賃貸」の層の拡大
不動産価格の下落も続行しているので資産価値の下落を嫌い、「所有」より「賃貸」を選ぶ層が増えることが予測される。事実、マイホーム購入については収入の見通し、不動産価格の見通しがつかないため手控えた層が賃貸に流れている。
ファミリータイプの需要増エリア
近年、単身者向けマンション(「ワンルーム」「1K」「1DK」「1LDK」)に新規供給が集中していたため、核家族世帯向けファミリータイプ(主として「2LDK」タイプ)が不足している地域が表れている。
求められるきめ細かい立地マーケティング
以上を総括すると新規賃料の下落は需要の支払能力に応じた賃料に近づいているということであり、悲観的にみる必要はない。自動車産業の集中する中部圏、北九州圏域内の賃貸住宅の空室率は2008年末から急上昇している。関西圏は景気悪化の影響は深刻ながら、多くの異業種が集合する中小企業の街であるため一部の地域に集中して空室率が上昇することは考えにくい。エリア別では賃料が下落して、賃貸需要が増加し、稼働率が上昇している地域もみられることから「きめ細かい立地マーケティング」と「保守的な事業収支計画」を守れば、供給が減少し、建築費が下落している時期だけに賃貸経営計画は立てやすいといえよう。
「立地マーケティング」では誰向けの賃貸住宅かという需要分析も必須である。例えば京都市内では、同志社大学が文系、社会学部系学部を今出川キャンパスに集約、同志社女子大学も文系学部の一部を今出川に移転したことから、2013年までに9,100戸の学生マンション新規需要が見込まれているようにそのエリアでどういう需要があるのか長期的な展望も踏まえて調査が必要となる。
このように、エリアマーケティングの重要性を、ぜひ認識していただきたい。
以 上
図表1は、2000年から2009年までの大阪市と近畿圏主要市(大阪市を除く大阪府、神戸市、明石市、阪神間6市、京都市、奈良市、大津市、和歌山市)の新築賃貸マンションの供給割合をタイプ別に表わしている。
(1)大阪市
これによると、2000年の大阪市で最も供給量の多いタイプは「1K−1LDK」で、全体の約65%を占めた。
次いで「2K−2LDK」(約24%)、「3K−3LDK」(約6%)、「1R」(約5%)と続いた。
「1K−1LDK」タイプの供給はその後も増加傾向にあり、2009年では70%台を占める。
また、「1R」も11%台に増加、「1K−1LDK」タイプと合わせると、シングル向けの供給が82%台になっている。
反対に2居室、3居室のファミリータイプは、2000年の30%台から2009年の18%台と1/2近くまで減少している。
(3)単独世帯の増加
図表2は、平成17年(2005年)国勢調査結果の近畿圏主要市の世帯内訳を表わしたものである。
単独世帯の割合は大阪市が最も高く、約43%、ついで京都市(約40%台)、神戸市(33%台)である。
大津市、和歌山市、奈良市は25%台前後で4世帯に1世帯の割合で単独世帯となっている。平成12年(2000年)の国勢調査結果と比較して単独世帯の増加率を求めると、大阪市が最も高く、ついで京都市、大津市、神戸市、和歌山市、奈良市(和歌山市、奈良市は同率)の順となっており、単独世帯の増加が賃貸マンションの供給タイプに影響を与えていることがうかがえる。
次に、2008年、2009年(1月時点)のタイプ別新築賃料の動向を分析した。
(1)「1R」タイプ
2009年は、対前年比+0.6%と微増で68千円台、賃料単価は対前年比+1.4%増の2,372円/㎡(7,840円/坪)である。
占有面積は29㎡台で変化はないが、一時金月数は0.3ヶ月減少の3.2ヶ月で、一時金月数は調査年の2000年以降下落が続行している。
(2)「1K−1LDK」タイプ
2009年は、対前年比△3.4%下落の74千円台である。
賃料単価も△2.8%下落し、2,208円/㎡(7,300円/坪)である。
占有面積は34㎡台で変化はないが、一時金月数は0.5ヶ月減の3.2ヶ月で、実質賃料単価では△3%の下落となっている。
(3)「2K−2LDK」タイプ
2009年は、対前年比+7.3%の125千円台であるが、これは占有面積が2008年の60㎡台から2009年は62㎡台に広がったためで、賃料単価はほぼ同額の1,884円/㎡(6,230円/坪)である。
一時金月数は0.4ヶ月減の3.4ヶ月であり、実質賃料では△0.2%減となる。
(4)「3K−3LDK」タイプ
2009年は、171千円台で、対前年比△1.0%の減少である。
占有面積は、83㎡台でかわらない。
賃料単価は、対前年比△1.7%減の1.989円/㎡(6,580円/坪)であるが、一時金月数は0.6ヶ月減の3.6ヶ月で、実質賃料単価では△1.9%減となる。
なお、「3K−3LDK」の賃料単価が「2K−2LDK」を上回っているのは、「3K−3LDK」タイプの新規供給は都心エリア(大阪市、神戸市、京都市の中心区、並びに阪神間)に集中しているため、賃料、賃料単価とも高水準にある。
ちなみに、近畿圏では家賃15万円を超えると高額な賃料といわれており、そうした物件は、一般サラリーマン等の需要はあまりなく、主に自営業や企業経営者等が借手であることが多い。
Point1 主要供給タイプ「1K−1LDK」の新築賃料の下落が顕著
「1K−1LDK」タイプの賃料の傾向をエリア別でみると、大阪市は横ばいであるが、北大阪エリアは△6%台、南大阪エリアも△7%台の大幅下落となった。神戸エリアが△1%台、阪神エリアは+0.8%の微増、京都市は△2.1%と「1K−1LDK」タイプの供給が集中していたエリアで新築賃料の下落傾向が鮮明になっている。
Point2 占有面積は拡大地域と縮小地域の二極化
近畿圏の平均占有面積は2008年、2009年ともほぼ近似した面積で推移している。「1K−1LDK」についてエリア別にみると賃料単価の高い大阪市、阪神間は占有面積が1㎡前後小さくなり、いずれも33㎡台である。
反対に神戸エリアは約2㎡拡大し35㎡台、京都エリアは1㎡未満の拡大で32㎡台、大阪府下はどのエリアも占有面積は縮小傾向にある。
なお、賃料単価下落の顕著な地域ほど占有面積の縮小が目立つ。
Point3 一時金月数は下落が続行
1991年から1993年にピークアウトした住宅賃料は下落が続行していたが、2006年で上昇に転じ、2009年ではタイプによるが下落が顕著になっている。
このように賃料は上昇、下落を繰り返しているが一時金月数は弊社調査開始の88年以降、下落が続行している。
88年の「1R」、「1K−1LDK」の一時金月数は7ヶ月台、「2K−2LDK」、「3K−3LDK」は10ヶ月台であったが、2009年では全てのタイプが3ヶ月台となった。
Point4 JREIT、ファンド賃料の下落
近畿圏では、2004年後半から東京圏から地方に拡大したJREIT、ファンドマネーが、都心の賃貸マンションの大量供給の担い手となっていた。しかし、2007年のアメリカ発サブプライム問題に端を発した世界的金融収縮により、現在では新規賃貸住宅の供給は急速に減退している。
すでに稼働中の賃貸マンションでは、募集賃料の下落はみられないが、一時金0円、フリーレント2〜3ヶ月という条件で空室の募集をしており、実質賃料自体は下落している。しかし、2008年後半から空室率が上昇しているため、2009年はREIT、ファンド物件の募集賃料も下落すると思われる。
Point5 需要の変化による賃料の下落
2008年後半からの急激な景気後退に伴い、勤労者の家賃負担力は低下し始めている。これを受け、2009年は高い家賃から低い家賃へ、また持家マンションから賃貸マンション等への住み替えが顕著になるであろう。
都心部でのシングル向けの高家賃料物件は企業の人材確保のための社宅需要、家賃補助が支えていたが、景気後退に伴う雇用や経費の見直しにより借上社宅の廃止、家賃補助額の減額等が増加し、需要が減退。都心部賃料のみならず全般的な地域、タイプで賃料の下落、空室率の上昇が予測される。
ただし、都心部を除く周辺部の賃料はここ2〜3年大きな上昇はみられなかったことから、底打ちが来年末くらいから観測される地域が出てくるものと予測している。
「賃料下落は継続傾向へ」
近畿圏は景気悪化の影響は深刻ながら、多くの異業種が集合する中小企業のまちであるため、一部の地域に集中して空室率が上昇することは考えにくい。むしろ、REIT、ファンドによる賃貸マンションの大量供給エリア(主として都心部)にて空室率が拡大していくことが予測される。
都心を指向する需要動向を分析すると、近年30歳台シングルより20〜24歳台の若年シングルの割合が増加していることから、現在高止まりしている賃料は必然的に下落し、2011年までは賃料下落が続行するものと予測している。
平成19年夏、アメリカ発のサブ・プライム問題に端を発した世界的金融収縮の波はファンドバブルを一瞬して消し去り、平成20年に入ってからは全世界的株価下落に加え、日本では円高と実体経済に深刻な影響を与え始めている。
特に、日本国内特有の問題としては、平成19年の建築基準法改正後の確認業務の長期化によるコストアップ、資材高騰による建築費アップが不動産価格に反映された結果、需要側は購入意欲が低下し不動産の売行は落ちている。
簡単に図示すると下図のとおりとなり、いずれの要因もが地価を下押ししている。
こうした状況下の中で、不動産業者は販売促進すべく色々な知恵を絞っている。
とあるマンションディベロッパーでは、売れ残りマンション住戸に若者に人気のある北欧家具をつけて分譲する等、色々な恩典、サービスをつけているが、これらは平成初期バブル崩壊後にも使った手で、真新しいものではない。
ところが、こういう逆風下の時期でも住宅購入の顧客がウェイティングしているという北摂のS社がある。
S社では、シックハウス対策のため自然素材により従来工法で家造りをしているが、何故ウェイティングが出るほどユーザーの人気を呼ぶのか、私なりに検証してみた。
S社のホームページでは、
1. 定期的に家づくりの勉強会を開いていること、現場説明会も頻繁に行っていること
2. 施行中の工事過程をホームページで公開していること
施主は、現場にいかなくても工事状況が把握できること
3. 顧客アンケート結果を加工せずそのままアップ
4. 施主一家、S社スタッフが一緒になって刈入れを行うイベントがあること
等がみられる。
「こんなことならウチもしている」という声が聞こえそうだが、まずこの会社を見ると、
(1) 情報を受信する力
(2) 受信した情報を処理する力
(3) 情報を蓄える力
(4) 情報を発信する力
の4つの力が備わっているようにみえる。
(1) 情報を受信する力とは、顧客とのコミュニケーション力に優れているということ。顧客にとっては、家造りに自分の要望がどこまで反映されるかが一番の重要ポイントであるが、この点の満足度が高いということは顧客と造り手側に十分な意思疎通があり、顧客の望みをいかに引き出す力に長けているかということである。
(2) 顧客から得た情報を処理し、情報を蓄える。やり方はいろいろあるが、ホームページをみる限り情報処理と情報貯蓄がうまくいっている。スタッフ全員が情報を共有しているようにうかがえる。
(3) 情報発信力とは、簡単にいうと上記で処理した「情報を他人に伝達する力」であるが、単なる情報伝達だけでなく相手方への理解力と説得力があって、はじめて活きてくる力である。
需要側からみると、需要の要望としては工事施工者が自分のための家づくりをどこまでかなえてくれるかという点に集約されるが、十分なコミュニケーションがあって、自分ではよくわからない家づくりの工程の詳しい説明がなされ、かつその工程が逐次わかるという安心感と、自分も家づくりに参加しているという一体感が顧客満足度を高いものにしていると思われる。
このように、モノの売れない時代にモノを売るのは
・モノを売る側の姿勢を明確にし
・顧客にそれを正しく伝え、また顧客に要望を隈なく吸収し、
・誠実に実践し
・結果を発信する
というプロセスが大事である。
これは何もモノの売れない時代に限ったことではないが、平成17年以降のミニバブルに不動産業界はモノづくりの本質をやや見失っていた観がある。
今こそ、顧客のためにチエを活かす時代ではないだろうか。
株式会社 難波不動産鑑定 では、多くのデータから分析した「2008年関西不動産市場の予測」レポートをメールで配信しています。(無料です)
ご希望の方は、こちらからお申し込み下さい。
そのときには、「KTS通信を見て」と一言お書き添え下さい。
平成19年6月1日に自由民主党政務調査会から「200年住宅ビジョン」が発表されました。
これは、住生活基本法に基づき、住宅の「量」から「質」の向上を目指し住宅のロングライフ化を計ることにより、ストック型社会へ転換していくための理念であり、12からなる施策を掲げています。
「200年住宅」とは「200年もつ住宅」という意味ではなく、超長期にわたって循環利用できる質の高い住宅を象徴的に表わすために、「200年」という言葉を使っています。
日本の「滅失住宅の平均築後年数」は約30年で、アメリカ(約55年)、イギリス(約77年)と比べるととても短くなっています。
これは日本では、土地が一番の資産で更地が一番価値が高いという考え方が根強くあるためですが、「スクラップ&ビルト」(壊してはつくる)は資源の無駄遣いですし、産業廃棄物を出すことは環境に対してもやさしくありませんね。
これからは耐久性、耐震性に優れた良質な住宅を造って、その価値を長期に亘って維持することが結果として資産価値をアップする、そういう市場が望まれるのです。
さて、「200年住宅ビジョン」が掲げる12からなる政策提言とは、以下のようなものです。
(1) 超長期住宅ガイドラインの策定
構造躯体(スケルトン)と内装、設備(インフィル)の分離、普遍的な住戸プラン、耐震性、耐久性、省エネルギー、バリアフリー性能等を確保して、個人的財産として長期にわたる価値を維持する住宅を整備し、社会的資産を形成。
また建設、管理の履歴情報がバトンタッチされる整備システムの構築と活用をガイドラインにて表わす。
(2) 住宅履歴書の整備
新築時の設計図書、施工内容のみならずリフォームや点検時の履歴を蓄積し、「住宅履歴書」として整備する。
(3) 分譲マンションの適切な維持管理のための新たな管理方式、権利設定方式の構築。
居住者の高齢化や賃貸化が進むことにより、区分所有者間の合意形成が困難になりつつあることから、新たに専門的な知識、経験を有する者が責任をもって適切な維持管理を行う仕組みの構築を目指す。
(4) リフォーム支援体制の整備、長期修繕計画等の策定、リフォームローンの充実。
インターネットによるリフォーム事業者の情報や、工事費の見積り等の情報提供とともに、リフォームなど住まいに関する相談を受ける支援体制の整備。
既存住宅の購入に際して、リフォームを実施する場合の融資額の引き上げ等のローンの充実を計る。
(5) 既存住宅の評価の充実。
「既存住宅の評価ガイドライン」を策定し、住宅の現状把握と既存住宅の性能評価を一体化させる。
(6) 既存住宅の取引に関する情報提供の充実。
土地総合情報システムにて不動産取引価格情報が提供されているが、取引の目安となるこうした情報量を増加していくこと。
(7) 住替え、二地域住宅の支援体制の整備、住替えを支援する住宅ローンの枠組み整備。
住替えを円滑にするための住宅情報や生活環境、就労に関する情報の提供のみならず、住宅を維持する際に売主の住宅ローンが買主に承継されるアシューマブルローンの枠組みの整備。
(8) 200年住宅の建設、取得を支援する住宅ローン等の枠組み整備。
土地及び構造躯体(スケルトン)を対象とする買主に債務が承継される(アシューマブル)超長期ローンと、内装・設備(インフィル)を対象とする中期ローンを組み合わせるような仕組みの整備。
(9) 200年住宅の資産評価を活用した新たなローン(リバース・モーゲージ、住宅資産活用ローン)が提供される仕組みの構築。
高齢者が住宅を担保として生活資金等の融資を受け、死亡時に住宅を処分して一括返済するリバース・モーゲージや、住宅の純資産価値(資産価値−住宅ローン残高)を担保として生活資金等の融資を受ける住宅資金活用ローン(ホーム・エクィティ・ローン)の仕組みの構築。
(10) 200年住宅に係る税負担の軽減。
消費税、所得税、贈与税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税について、税負担軽減措置を計ることにより200年住宅取得のインセンティブとする。
(11) 200年住宅の実現、普及に向けた先導的モデル事業の実施。
超長期住宅ガイドラインを具体化した住宅の建設プロジェクトを行い、モデル事業を実施。
(12) 良好なまちなみの形成、維持。
地区計画制度や建築協定制度をはじめとする規制、誘導措置の活用を促進する等、良好なまちなみや環境を維持、形成するための枠組みをつくる。
「200年住宅ビジョン」が発表されてから、住宅メーカー等はこぞって応援エールを送っていますが、ハード面を多く強調されているようです。
確かにスケルトン・インフィルや耐震性、間取りの可変性は重要なポイントとなりますが、ストック型社会では住宅を建てたあと、どうメンテナンスをして住宅の資産価値を保ち続けるかということが大事なのです。
政策でも、(1) 長期修繕計画とそれを支援するためのシステム、(2)住宅の建設時の設計図書、施工内容、リフォーム、点検時の履歴を明らかにする「住宅履歴書」の整備が掲げられています。
実は、この点がこれからの不動産ビジネスの大きなポイントになるのです。
「長期修繕計画」を単なる修繕サイクルプランと捉えてはいけません。
住宅を建てられた方々のライフステージによる家族構成の変化やライフスタイルの変化に対応して、その時々に最も適切なアドバイスができる、いわば住生活プランナーとして修繕計画を提案できることが大切なのです。
そのためには税理士、FP(ファイナンシャルプランナー)、不動産専門職業家との連携も重要となりますが、何よりもお客様と末長いおつきあいができる組織づくりが必要となります。
これからの不動産ビジネスは、住宅の資産価値を高めるノウハウを蓄積し、次世代へ承継できる住宅づくりをサポートするコンサルティングがますます重要になると思われます。
株式会社 難波不動産鑑定 では、多くのデータから分析した「2008年関西不動産市場の予測」レポートをメールで配信しています。(無料です)
ご希望の方は、こちらからお申し込み下さい。
そのときには、「KTS通信を見て」と一言お書き添え下さい。
三大都市圏における今年1〜3月の新築賃貸住宅の供給傾向と賃料を調査。
それを基に、2008年度の賃貸市場の動向を分析しました。
人気エリアの共通のキーワードは、「利便性」と「環境」。今年度は、需要集中地域と需要離れ地域の二極化傾向に拍車がかかると予想されます。
三大都市圏の主要都市について2008年1〜3月の新規賃料住宅の傾向を調査したところ、以下の点が指摘される(各都市の賃料水準は後添表を参照)。
(1) いずれの都市においても、人気エリアの共通のキーワードは「利便性」と「環境」。
特に首都圏では、東急東横線沿線の自由が丘に代表されるように、街の「ブランド」が定着しつつある。
(2) 名古屋市および近畿三大都市(大阪市・神戸市・京都市)は、都心回帰の影響から需要・供給ともに都心に集中。「住環境」より「利便性」を優先。
(3) 三大都市圏とも、供給の主流は「40㎡未満」のシングルタイプ。
ファミリー向けの「50㎡以上」のタイプは、供給が激減する。
不動産市場の予測
2007年後半は、以下の景気後退要因により不動産市況は悪化している。
(1) 米国住宅バブル崩壊に端を発したサブプライム問題で、全世界的に金融不安を生じせしめ、クレジット市場、株式市場、為替市場に影響を及ぼしたこと。
(2) 原油高により製品価格、サービス価格が上昇したこと。
(3) 建築基準法の改正による建築確認許可の長期化に伴い、新設住宅着工戸数は4ヶ月連続でマイナスを記録したこと。
(4) 建設業界から始まった「偽装」が食品業界にも及び、消費者の信頼を損ねて購買意欲が減退していること。
以上の景気後退要因は、住宅地には以下の影響を与えている。
(1) 先行不安から、住宅取得の手控え。
(2) 勤労者世帯可処分所得が伸び悩んでいるにもかかわらず、地価、建築費の上昇により、住宅価格が上昇していること。
このため、2007年後半から住宅取得意欲は著しく減退し、地価が上昇していた地域にもストップ感が出始めている。
2008年前期までは、地価上昇に転じていた住宅地の価格は、おおむね横ばい傾向となるものと予測した。
賃貸住宅市場の予測
2005年、2006年は、都心部でのレジデンシャルファンドによる1棟70〜100戸で最も賃料単価が高く設定できる、占有面積25㎡前後の「1K」タイプの賃貸マンションの供給が相次いだ。
また、都心での分譲マンションも投資家向けに25㎡〜30㎡のワンルームマンションの分譲が急増しており、都心でのシングルタイプは賃貸、分譲とも競争が激化している。
しかしながら、都心部に移り住む需要層の年齢は「20〜25才」が最も多く、賃料負担力は低い。
にもかかわらず、シングルタイプは総額賃料が上昇しており、需給ミスマッチがおきている。
また、2006年後半から建築費の上昇が顕著になっているが、建築費の上昇を賃料に転嫁できる程、需要は回復していない。
賃貸供給は、建築基準法改正の影響のみならずその大量供給の担い手であったJリート、ファンドの手控えから供給調整が進んでおり、2008年の新規賃貸供給量は減少するものと予測される。
2008年の新規賃料については、賃料ピーク観が出始めている地域が数多く観察され、特に都心部の賃料が頭打ちとなっているが、今年後半にかけては新規賃料調整(下方修正)エリアが増加するものと予測した。
●首都圏人気エリアの魅力を探る
賃料水準のトップを走る東急東横線「自由が丘」「中目黒」「武蔵小杉」は、いずれも人気度の高いエリアである。
特に「自由が丘」は広い世代から支持される超人気エリアであるが、その魅力について「メジャーセブンのマンショントレンド調査 Vol.7 」のユーザー向け「住んでみたい街アンケート」結果から探ってみると、「おしゃれ」「交通の便がよい」「好きな沿線」「洗練されている」「高級感がある」「街並みがきれい」等々の回答があり、街としてブランド力がある。
反対にJR中央線「吉祥寺」は、「商業施設が充実」「交通の便がよい」「公園が多い」と「利便性」に着目した回答が多く、「横浜市」では「交通の便がよい」「海に近い」「通勤に便利」と自然的環境が高く評価されている。
「38歳既婚で子供2人の家族世帯だったら住んでみたい街ベスト6」は、「吉祥寺」「自由が丘」「二子玉川」「横浜」「たまプラーザ」「新浦安」であり、いずれも「利便性」「住環境」が高い評価を得ている。
(1) 人口流出に歯止め、需要増が期待できる近畿圏
三大都市圏の内、東京圏、名古屋圏は転入増加による人口増が続くのに対し、関西圏は1974年以降転出超過による人口減が続行していたが、転出超過数は年々減少しつつある。
その原因としては2002年に工場等制限法が廃止されて以来、関西の工場立地件数が増加していることに関連していると推測される。
最近では尼崎市に松下PDP工場、堺市にシャープ工場の大型設備投資が相次いでおり就業者数の増加、即ち住宅需要増が期待できる。
(2) シングルの都心居住指向は続く
大阪市で調査すると1人世帯の割合は浪速区、中央区が64%台、北区が54%台で、他区は50%を割っている。
間借り、下宿、独身寮の単身者も含めると福島区、天王寺区を除いた区は単身者の割合が50%を超えている。
区人口に対する単身者の割合は、中央区がトップで39%台、次いで浪速区38%台、北区29%台でその他の区は22%台であることからも都心部にシングル需要が集中しており、この傾向は今後も続行する
(3) ファミリー需要は「利便性」プラス「住環境」
住宅需要のキーワードは「利便性」即ち「時間の短縮」であるが、ファミリー需要は「利便性」の他、教育施設、利便施設、公益施設の充実に着目した「住環境」も重要視している。
近年、この2つのキーワードを実現できる立地に需要は集中している。
(4) 賃貸住宅市場の二極化が進む
以上の需要行動と少子高齢化による人口減少が相俟って、需要集中地域と需要離れ地域(二次交通を利用する、若しくは都心へのアクセスが悪い地域)の二極化傾向に拍車がかかる。
名古屋市・近畿三都市の家賃水準
●名古屋市の新規賃貸供給動向
新規賃料物件をみると、市の中核に位置する「中区」や名古屋駅のある「中村区」に40㎡未満のシングル向けの供給が多い。占有面積が広くなると、名古屋大学のある文教区の「千種区」や丘陵地帯に広がる「名東区」での供給が増加。
名古屋市も、「利便性」と「住環境」が需要選好の大きなキーワードになっている。
●近畿三都市の新規賃貸供給動向
大阪市では、大阪市の都心6区(北区、西区、中央区、福島区、天王寺区、浪速区)が最も人気エリア。
シングル向けファミリー向けを問わず、大阪市の中で最も供給が多いエリアとなっている。
神戸市でも都心の「中央区」また、阪神間に近く高級住宅地でもある「東灘区」「灘区」の人気が高い。
「40㎡以上70㎡未満」の占有面積帯は、神戸市の上記3区以外での供給が多くなり、「70㎡以上」になるとまた、上記3区に供給が集中する傾向にある。
京都市でも、都心回帰の傾向から「下京区」「中京区」の中心区と当該2区に隣接する「上京区」「東山区」「右京区」「左京区」での供給が多い。
シングル向け物件も、家賃が200千円を超える高額物件も上記のエリアで供給が集中している。
平成20年3月25日、地価公示結果が新聞紙上で発表されました。主要都道府県と主要市の地価変動率の結果を下<表1>のようにまとめてみました。
これをみますと、地価の傾向が微妙に転換期を迎えたことがわかります。
まず近畿を見てみると以下の点が指摘できます。
(1) 大阪府住宅地の地価は上昇しているが、大阪府商業地の地価は上昇率が鈍化している。
(2) 大阪市住宅地の地価は+0.2ポイントだけ対前年比で上昇したが、商業地の地価はその上昇率が15.0%から11.7%に鈍化している。
(3) 京都府では住宅地の地価は対前年比で0.2ポイント上昇しているが商業地の地価上昇率は、平成19年のほぼ1/2にまで鈍化している。
(4) 京都市は住宅地も商業地も地価上昇率が顕著に減速している。
(5) ところが、兵庫県、神戸市、奈良県、奈良市、滋賀県、大津市は住宅地も商業地も、地価上昇率が拡大している。
(6) 和歌山県、和歌山市は未だ地価は下落しているが、その下落率は縮小している。
以上の傾向をみると、地価上昇の著しかった大阪市、京都市の商業地の地価は著しくその上昇率が減退しているのに対し、他府県の(都心部でない)上昇率が伸長するという地価の波状的な動きがみてとれます。
まず都心部の地価が上昇し、沈静化する頃に地方が上昇する構図で昭和末期から平成初期のバブル期も同じような地価傾向にありました。
では近畿以外ではどうなのでしょうか。
関東をみてみると以下のような点が判明しました。
(1) 東京都の住宅地、商業地の地価上昇率は伸長しているが、東京都区部では、商業地の地価は伸長しているものの、住宅地の地価上昇率は減速し始めている。
これを区部都心部でみるともっと顕著に表われており、平成19年+18.0%が平成20年+15.3%と上昇率が減速している。
(2) 神奈川県、埼玉県、千葉県では地価上昇率は住宅地、商業地ともに拡大しており、近畿ほど顕著でないが、都心部の減速徴候がみてとれる。
そこで、トヨタ本社が移転した名古屋市のある中部圏をみると静岡県が地価下落から地価上昇に転じ、三重県では地価下落率が縮小、若しくは反転上昇している中で、名古屋市の住宅地は上昇しているものの商業地は平成19年+16.1%から平成20年+15.8%とやはり上昇率の減速徴候がみてとれます。
その他の地域の政令指定都市をみますと、仙台市、広島市、福岡市、北九州市が地価上昇拡大、若しくは下落率の緩和がみてとれるのに、札幌市のみ、住宅地も商業地も地価上昇率が減速し始めています。
このように平成20年地価公示結果(平成19年1年間の地価の動向)は、都心部の地価上昇のピークが平成18年であったことを指し示す徴候が多く表われています。
都心部の地価上昇率減速の原因としては以下のものがあげられます
(1) 平成19年夏以降のサブプライム問題に端を発した金融収縮。
(2) 甘めの収益見通しによる投機的売買の結果の高家賃設定に需要がついてこれず収益悪化。
(3) 原油高によるコストアップが製品価格に転嫁できない中小企業の設備投資意欲の減退。
(4) 地価・建築費の高騰に伴うマンション価格の急上昇による需要離れ。
今後の地価動向としては残念ながら日本経済自体が踊り場にかかり株安、円高という厳しい局面にあることから地価の上昇率にストップがかかり、地価が反転、下落する地域の拡大が予測されます。
シングルマンション過剰供給の背景を、大阪の不動産鑑定士が分析
—(株)難波不動産鑑定代表取締役 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
木造2階建て住宅の真横に、30階の超高層マンションが建つ。そこは大阪市内のオフィス街。マンションの建設ラッシュが、都心の景観をますます混乱させている。しかも2006年度の市内6区(北、福島、中央、西、天王寺、浪速)におけるシングルマンション(単身者向け共同住宅)が、需要に対し3,600戸ほど供給過多となっいる。その実態を調査した市内の不動産鑑定士に、マンションの供給側と需要側のニーズを分析し、都心マンションの将来に潜む危うさを指摘した。
「大阪市内のシングルマンション(賃貸)は、供給過多だが需要は確かに高い。1Kタイプが主流で、若い単身者層が増えている」と分析する難波不動産鑑定代表(大阪市西区)の難波里美さん。中心6区の人口の社会動態(転入−転出)表を指でたどりつつ説明する。
「増加層は、18歳以上の学生や20代層、また女性30代のシングルなど」。一方で表は、人口の激増をすでに8年前から示している。1999年時点で前年の3倍である6,000人以上増となっている。以降毎年8,000人前後以上、2005年では10,000人増を突破。実はマンション供給は、2003年まで需要に追いついておらず、供給過多が顕著になりだしたのは2004年以降であるという。
家賃収入を投資家に配当
マンションの都心への集中化傾向も高まり、2005年には地価が上昇。それに伴い供給側の背景も変化した。とくに賃貸マンションは、投資家向けの「金融商品」となった。
従来の賃貸マンションの所有者は、相続税や固定資産税対策で建物を建設した土地所有者が多い。また、「利益圧縮」するためにマンションという不動産に投資する企業もあった。そして2005年頃から新たな所有者が出現した。東京発で全国の地方都市に一気に広がった不動産投資信託(J-REIA/アメリカ発祥のREIAの「日本版」)会社である。ここが保有マンションの家賃収入を投資家に配当する。賃料単価が高く、利回りのよい1Kマンションを投資の対象とすることが多いという。
スラム化する可能性あり
もう一つは、個人が分譲マンションの数室を購入してエンドユーザーに貸し出し、家賃収入を得るという形態も現れた。年金制度に不安を持った資産家が「マイ年金」として安定した収入を確保する。
こうした潮流に難波さんは一抹の不安を抱く。「シングルマンションの供給過多は、家賃設定も含め供給側が、需要者側のニーズを分析しきれていないことにある。
さら問題なのは、マンションが投資の対象にされすぎていること。バブル崩壊時、高額賃貸マンションが破綻したのは、事業主や投資家が一斉に手を引いたからだ。今後、景気が悪くなれば同様のことが起こり得る。将来、スラム化するマンションも出てくるだろう。」
大阪の建築行政への疑問もある。「大阪都心で、マンションが乱立してオフィス街としてのポテンシャルが下ってしまった地区もある。市は、働く場と住む場のゾーニングをしっかり行うべき。
今の大阪のまちは、『景観』とはいえないぐらい美しくない」。
—(株)難波不動産鑑定代表取締役 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
シングルマンション(単身者向け共同住宅)は供給過剰気味—。
(株)難波不動産鑑定(大阪市西区)がまとめた大阪市内中心部のシングルマンションに関するレポートの中で、同市内の6区では需要に対し、3,000戸以上供給量が上回っている実態が明らかになった。以前から供給過多と指摘されていた大阪市内のシングルマンションの、実態を数字的に裏付けた格好だ。
大阪市内の北・福島・中央・西・天王寺・浪速の6区を対象に、2006年度内のシングルマンション(分譲・賃貸)の供給量と、人口移動の社会増から求めた需要増を比較して需給状態を分析した。
06年度に調査対象区に転入した単身者の推定数のうち、借家に住む割合(借家率)を乗じて賃貸需要を予測した。
ヒアリング調査で集計した賃貸供給戸数を比較すると、浪速区を除く5区で需要が供給を上回り、その数は合計3,150戸に上ることが分かった。分譲マンションや持ち家購入の需要を考慮した場合、6区全体で3,600戸ほど過剰供給されているとも説明している。
同社の難波里美社長は、供給過剰の背景を「需要と供給のミスマッチ」だと指摘する。「供給される部屋は『1Kタイプ』が主流となっているが、30歳台以上の単身者が増えるなど、シングルマンションをめぐる環境は大きく変わってきている。家賃設定も含め、供給する側がニーズにこたえきれていない現状があるのでは」と話している。
—(株)難波不動産鑑定代表取締役 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
関西地区において今年の基準地価から浮かび上がるのは、都心部の商業地の地価高騰が周辺の郊外に波及し始めた姿だ。不動産ファンドなどの投資マネーが、商業施設においては手ごろな価格の郊外で物件取得に乗り出した影響もある。(佐藤安津)
大阪府堺市のJR鳳駅から約800メートルに位置する大規模ショッピングセンター(SC)「アリオ鳳」(仮称)。
商業施設に特化して投資する日本リテールファンド投資法人(東京都千代田区)が今年1月、191億円で取得契約を締結した物件だ。総合スーパーを核にシネマコンプレックス、雑貨など約150の専門店で構成し、来春にオープンする。
鳳駅には関西国際空港や天王寺と直結するJRの快速電車が停車し、堺市が「西の玄関口」として整備に力を注ぐ。SCの近くでは長谷工コーポレーションなどが南大阪で最大級のマンション(791戸)を建設するなど、数年以内に風景が一変する公算が大きい。
「アリオ鳳」に限らず、不動産ファンドなどが関西圏の郊外で取得した商業施設には「駅から徒歩圏内」といった一定条件をクリアした物件が多い。郊外とはいえ利便性の高さで厳選されるわけで、「地域全体の魅力の高さが不動産ファンドの資金流入の呼び水になっている」(日本不動産研究所大阪支所の福山雄次参事)という。
郊外や地方都市での商業施設は「中核テナントが撤退した場合が大変」といったリスクを伴うものの、関西圏の商業施設を中心に8物件を組み入れている阪急リート投資法人(大阪市)も、「地方都市での優良物件の取得を検討したい」と意欲をみせている。
都心部商業地の地価上昇を狙った投資マネーは東京だけでなく平成17年以降、大阪や名古屋などに流入するようになった。しかし、難波不動産鑑定(大阪市)の難波里美社長は「昨年後半から鈍化気味だ」と分析。地価上昇の結果、それに見合う賃料が取れないなど、投資家側にとって「想定外のことが起き出した」からだ。
大阪の代表的なオフィス街である御堂筋。周辺の不動産取引価格は3.3平方メートル当たり4,000万円程度が相場とされるが、さいと不動産投資顧問(大阪市)の足立良夫社長は「3.3平方メートルあたりに4,000万円台という高額物件の取引は今年春以降、あまり聞かない」と話す。地元の不動産業者も「3.3平方メートル当り5,000万円台で売り出されているが、買い手がつかないらしい」と指摘するほどだ。
もっとも、郊外の商業地に熱い視線が注がれるのは「今のうち」との見方も少なくない。今年11月末に施行される改正都市計画法によって、駅前商店街などの活性化のため、床面積で1万平方メートル超の大規模な集客施設の郊外への出店は大幅に規制されるからだ。
地価動向を左右する投資マネーはどこに流れるのか行方が注目される。
—(株)難波不動産鑑定代表取締役 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
・大阪・日本橋
東京・中央区の「にほんばし」に対して「にっぽんばし」と呼ぶ。古本屋街として知られたが、戦後にラジオの自作用パーツを扱う店などが現れたことがきっかけで電気街に発展。
家電小売店が除々に増え、大型店に成長する企業も目立つようになった。2001年に大型店の「ヨドバシカメラ」や「ビックカメラ」が梅田となんばに相次いで進出するなどして客足を奪われ、家電店の閉鎖や業種変更が相次いだ。
西日本を代表する電気街の大阪・日本橋(大阪市浪速区)で、閉鎖した電気店の跡地などにマンションの建設計画が相次ぎ、街の風景が変わろうとしている。街を貫く堺筋の路線価は16年ぶりに上昇したが、不動産専門家は「マンション用地として注目され、地価が上がった」と分析。「電気街からマンション街に変わる」という関係者もいる。東京・秋葉原と並ぶ「伝統の電気街を守りたい」と地元商店会は振興策に躍起だ。
「これから日本橋は大きく姿を変えていきますよ」。南北に貫く堺筋沿いにある電器店跡地2ヶ所に、15階建てと14階建てのマンション建設を進める大阪市内の不動産開発会社の幹部はこう指摘する。
同社は堺市筋近くにも12階建てのマンション建設を計画。三棟とも単身者向けのワンルームマンションで、賃料収入を投資家に分配する「投資ファンド」などに売却を予定している。幹部は「マンションが続々とできれば、入居者を当て込んだ飲食店などもできる。近い将来、街は変貌(へんぼう)する」と言い切る。
電器店の閉鎖が相次ぎ、地元電器店で組織する「でんでんタウン協栄会」の加盟店は1999年の92社164店から、今年7月には72社90店まで激減した。
日本橋に詳しい不動産関係者によると、昨年3月から約1年間に、堺筋沿いだけで10ヵ所で計3,700平方メートルを超える土地売買があった。こうした場所の多くでマンションの建設計画が浮上しており、建設中の敷地ではクレーンが伸びる場所も見られる。
国税庁が今月1日に公表した路線価も"町の変化"を物語る。堺筋の路線価は91年をピークに06年まで下落を続けたが、今年は16年ぶりに前年比9〜16%余り上昇に転じた。多くの地点で上昇率は十数%を示し、マンション建設中の地点が最高の16.6%となった。
大阪の賃貸マンション事情に詳しい「難波不動産鑑定」(大阪市)の難波里美社長も「大阪で過去にマンションが相次いで建設された場所は、商業地としては衰退していった」と指摘。「日本橋は利便性が高いため住宅ゾーンに変わっていく可能性が高い」と話している。
—(株)難波不動産鑑定代表取締役 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
2005年夏以降から大阪の都心部は急激な地価上昇となりましたが、その最たる要因としては東京都と関東圏に集中していたJリート並びに不動産ファンドマネーが一気に地方都市へ流れたことによります。関西では、大阪、神戸、京都の3都市、その他は、札幌、仙台、福岡、北九州市といった政令指定都市の中心商業地の地価が高騰しました。
不動産ファンドの中では都心回帰による人口増に着目して都心部での単身者向け賃貸マンションの開発を専門にするいわゆるレジデンシャルファンドが活発化しました。
<図1>は大阪市の貸家の新設住宅着工戸数をエリア別にまとめたものですが、大阪中心部(北区、中央区、福島区、西区、浪速区、天王寺区の6区)で大阪市全体の56%を占めていることからもいかに都心部での貸家供給に拍車がかかっているかおわかりになると思います。
確かに大阪都心部では社会増(転入が転出を上回ること)により人口が増加しています。
*本資料掲載の図、文章等を許可なく無断で複写、転載することを禁じます。
<図2>は平成10年から平成18年の都心6区の社会増の増加人数を表したものですが、6区合計での社会増は、平成10年の2,211人から平成11年は6,005人と約3倍に増え、その後平成13年から平成16年間は7,000人〜8,000人台、平成17年には1万1千人台と大幅に増加しましたが、平成18年では8,008人となり、対前年比では△28%の減少となりました。
さて、そこで各区にどれだけ一人世帯がいるのか調べて<表1>のとおりまとめてみました。一人世帯の割合は、浪速区、中央区が64%台、北区が54%で、他区は50%台を割り込んでいます。
また、間借、下宿、寮に住む単身者も含めると福島区と天王寺区を除いて、全ての区で単身者の割合が50%を超えています。
区人口に対する単身者の割合は、中央区がトップで39%台、浪速区38%台、北区29%台で、その他の区は全て22%台です。
*本資料掲載の図、文章等を許可なく無断で複写、転載することを禁じます。
平成18年度に供給された単身者向けの賃貸住宅の戸数(分譲貸しを除く。但し弊社が建設業者並びに不動産業者にヒアリングしたもので全てが網羅されている訳ではない。)と予測される賃貸需要を<表2>のように比較したところ、全ての区で供給が予測需要を上回りました。
「天王寺区」「福島区」は社会増加が200人弱と社会増加が少ないのにもかかわらず単身者向け賃貸住宅の供給戸数が社会増加数の約2倍から3.7倍となっており、供給過剰となっています。 他区でも、ヒアリング賃貸供給戸数は予測賃貸需要を上回っています。 新規供給されている賃貸住宅の賃料も「25〜29歳」男性の平均年収(377万円)からみた家賃負担率(30〜35%)を超えており、今後は都心の家賃の上昇も、賃貸住宅の供給も頭打ちとなることが予測されます。
以 上
—(株)難波不動産鑑定代表 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
近畿で分譲マンションや、家賃が高めの賃貸マンションの売れ行きが昨年秋から鈍り始めた。地価上昇に伴う物件の販売単価引き上げや供給過剰が影響した。景気拡大や金利先高観でバブル期並みに成約できた昨夏までの好環境は一変した。不動産業者は土地仕入れに慎重になり、「地価上昇は長くは続かない」「すでにピークアウトした」と弱気な見方も出ている。
分譲マンションの大幅値引きが表われ出した。奈良県生駒市の近鉄生駒駅から徒歩8分の閑静な住宅地。大手商社が昨秋に完工したマンションの売れ残り住戸(専有面積82平方メートル)は今年に入り、当初の3,350万円から2,990万円に11%値引きして再募集した。
「こんなに堂々とマンションの値引き広告を出した例はこの4、5年では覚えがない」と不動産経済研究所の石丸敏之・大阪事務所長は驚く。ベットタウンの生駒市は分譲マンション激戦地の1つ。同市の住宅地の今年の公示価格は平均1.6%上昇したが、石丸氏は「地価上昇に反してマンションの値下げが相次ぐ可能性がある」と指摘する。「マンション供給ラッシュの大阪・北摂や枚方市も要注意」という。
大阪市中心部で急増した家賃が高めの賃貸マンションも供給過剰感が強まっている。大阪の賃貸マンション相場を定期調査している難波不動産鑑定(大阪市)の難波里美社長は「需給にミスマッチが生じている」と指摘。「保証金を大幅に安くして顧客の負担を軽くする例が相次いでいる。上昇してきた家賃にも天井感が出ている」と話す。賃貸マンションが増える大阪・心斎橋の商業地の今年の公示価格の最高地点は、昨年比41%上昇の1平方メートル当たり675万円。だが周辺では昨年、同1,000万円−1,200万円台と2倍の取引が相次いだ。「土地から上げられる期待収益で判定する公示価格に比べ、実際の相場は過熱している」とある不動産鑑定士は語る。マンションの売れ残りや空室の増加が鮮明になれば、地価上昇ピッチは急速に弱まる可能性がある。
(なんば・さとみ)
1977年関西学院大学法学部法律学科卒業、90年難波不動産鑑定設立、業務内容は不動産の鑑定評価、不動産に関するコンサルタント、需要調査、賃貸住宅立地診断など。各種委員など公職のほか、講演会などで幅広く活躍。
—(株)難波不動産鑑定代表 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
大阪市中心部でオフィス・商用ビルの高値売買が相次いでいる。日銀のゼロ金利解除後も長期金利が低位安定し、運用先を求めるファンドの資金が流入、価格を押し上げている。過熱する不動産取引の最新事情を探る。
不動産最新事情
「再開発で上昇余地」地元業者は過熱ぶり警鐘
「ツイン21」 680億円・心斎橋「OPA」 310億円
MID都市開発(旧松下興産)系の不動産投資信託(REIT)、MIDリート投資法人は八月末、大阪市内のオフィスビル・商業施設の六物件の信託受益権(所有権)をまとめて千百三十五億円で取得した。バブル経済崩壊後、近畿で最大の不動産取引となった。代表的な物件で、松下電器産業の営業部門が入居する「ツイン21」ビル(中央区城見)の取得額は六百八十七億円に上る。
同投資法人は八月二十九日に東証に上場、投資家から九百四十億円を調達し、不動産購入に充てた。REITの一投資口(五十万円)当たりの予想分配金は六ヶ月で一万二千八百九円。約一万の投資家の大半は一般個人だ。資産運用担当の神尾賢司・MIDリートマネジメント社長は「個人の資産運用に不動産投信が定着した」と指摘する。
公示地価の2倍
二〇〇一年に初上場したREITは市場が急拡大。東京が中心だった投資対象も、相対的に割安感のある大阪市の中心部に広がってきた。一方でファンド資金の流入は不動産物件の取得競争を起こし、物件の相場や周辺地価の高騰を招いている。
不動産ファンドのパシフィックマネジメント系のREIT投資法人は九月下旬、大阪・御堂筋沿いの若者の拠点ビル「心斎橋OPA本館」の所有権を三百十八億円で取得する。土地の取引価格は計算上、今年一月の付近の公示地価の二倍超。
梅田の阪急梅田駅東側では八月末、海外有力ブランド「ZARA」が入店する茶屋町グランデビルの所有権を、東京建物系REIT投資法人が六十億円で取得した。土地部分の取引価格は付近の公示地価の三・五倍だ。運用担当者は「北ヤード再開発などで商業地としての魅力が高まり、梅田は不動産価格の上昇が見込める」と話す。
東京都心はバブル期並みの不動産取引価格が出ているが、大阪市中心部はバブル期の三分の一程度。東京資本の不動産各社は「大阪のビルは老朽化した物件が多く、再開発で価値を高める余地は大きい」(野村不動産)と強気の見方が多い。
「東京並み困難」
しかし、さいとう不動産投資顧問(大阪市)の足立良夫社長は「とても『適正である』との鑑定評価は出せない高値取引が相次いでいる」と過熱ぶりに警鐘を鳴らす。「御堂筋から一つ奥の通りに入ればビルの空室が多く、実需は弱い」からだ。
取引価格の上昇は投資利回り低下につながる。テナント賃料から得られる純収益を不動産取得価格で割った「NOI利回り」は心斎橋OPA本館が四・〇%、茶屋町グランデビルが三・七%と、これまで大阪で標準レベルだったツイン21ビルの五・四%に比べ低い。
難波不動産鑑定(大阪市)の難波里美社長は「怖いのは金利上昇時に利回りと借入金利の差がなくなったり、逆ざやになったりして投資家の信頼が失われることだ」と指摘。「大阪のテナント需要や賃料は東京ほどには望めない。需要分析や賃料設定はより慎重に判断すべきだ」と話している。
(なんば・さとみ)
1977年関西学院大学法学部法律学科卒業、90年難波不動産鑑定設立、業務内容は不動産の鑑定評価、不動産に関するコンサルタント、需要調査、賃貸住宅立地診断など。各種委員など公職のほか、講演会などで幅広く活躍。
—(株)難波不動産鑑定代表 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
中心商業地では短期転売でキャピタルゲインを求める動きが出始め、地価は高騰している。ただ、バブルの時は商業地から住宅地まで地域差なく地価が上昇したが、今回は都心部でも限られたところで動いている。では周辺部はどうかというと、地価は強めに動いており、住宅地でも大半がプラスに転じているが、土地転がしをするほどは上がっていない。鉄道便のない市町村とか、バス便しかないニュータウンといったところは人口が流出している。例えば豊能町などは人口が減少していっているし、南大坂の阪南市、岬町も減少している。働き盛りの若い人はみんな都心部に出て行っている。
こうした地域は地価はなかなか安定しない。住宅地の地価が強めなのは、30代半ばのいわゆる団塊ジュニア層という、人口層の厚いところが持ち家取得の時期にあるためであり、マンションも戸建住宅も売れている。彼等がマイホームを探すところは「交通便が良い」、「環境が良い」、「学校区が良い」という3つのキーワードに当てはまるところであり、そうした「立地」は地価が上昇している。
堺市を例にとると、地下鉄御堂筋線で都心に直結している「中百舌鳥」エリア、関空快速が停車することで「大阪」までノンストップでいけるJR「三国ヶ丘」「鳳」の人気が高い。
これまではファミリー層は動かない層で、動いても同じ学校区内だった。それが2000年ころから学校区外へ飛び出し始めた。都心部の家賃、地価が下がったこともあるが、例えばニュータウンに住んでいた場合、ご主人の通勤先、奥さんのパート先、子供の通う進学塾も都心部に集中している。そうすると交通費などの家計費面から都心部に直結する環境の良いところを選択するようになった。
飛び出すエリアも従来は、地縁がらみの沿線が多かったが、そういうこだわりも変わってきて、通勤、買物など利便性の良いところが選ばれている。そして短縮した時間を勉強や趣味や睡眠といった自分のために使うというようにライフスタイルも変わってきている。
マンション保有後5年で手放す人も
最近の傾向としては、マンションの保有期間が短くなっている。5年くらいで手放す人も多く、中古流通も活発化している。バブル期の価格が高い時に買った人は価格が下がって売るに売れない状況だが、若い人たちは耐久消費材を買う感覚でマンションを購入している。そのポイントは立地の次はデザインなどのこだわりで選んでいる。不動産を所有するという感覚が希薄になって、「所有」から「賃貸」に住まいを替える抵抗感がない。
都心部のマンションは、投資向けのシングル系マンションが相当出ている。また一般分譲マンションの購入者層は、投資家とSOHO(自宅兼オフィス)的な使われかたと、エンドユーザーとで3分の1づつくらいだ。そのエンドユーザーとしてはDINKS・都心リターンの高齢者世帯がいる。大阪市内の超高層マンションでは住んでいるのは3分の2弱とも半分とも言われている。
阪神大震災以降社宅需要が増加
都心の住宅はセカンドハウス、サードハウスという使われ方もあるが、社宅需要も増加している。阪神淡路大震災以降は、企業のリスクマネジメントとして、役員住宅を本社や支店まで歩いてこれるという点で都心でに設けているところも多い。一般社宅も従来からの郊外の社宅を処分し、都心部での借り上げ賃貸が増えている。
このように都心に人口・世帯数が集中する反面、周辺区・市では人口減少がみられるように需要が「時間」をキーワードに動いている以上、街は選別されていく。今後、人口減少期に入れば、ますますこの傾向が進んでいくと思われる。
(なんば・さとみ)
1977年関西学院大学法学部法律学科卒業、90年難波不動産鑑定設立、業務内容は不動産の鑑定評価、不動産に関するコンサルタント、需要調査、賃貸住宅立地診断など。各種委員など公職のほか、講演会などで幅広く活躍。
—(株)難波不動産鑑定代表 不動産鑑定士、不動産カウンセラー 難波里美—
賃貸マンションのセキュリティ対策といえば、オートロックや防犯カメラの導入が一般的ですが、分譲マンションではセキュリティ対策にバイオメトリクスがもうすでに使用されています。
バイオメトリクスとは「生物個体の持つ特性」により人物を認識する技術で、「生体認証」とも呼ばれています。
正式には、「バイオメトリクス・マシンビジョン技術」(Biometrics Machine Vision Techniques)といいます。
実は、この技術の開発は1980年台に遡るのですが、目的は主として犯罪捜査のためでした。
1995年頃からコンピューターネットワークの発達により、急速に需要が高まりました。
ではどんなバイオメトリクス技術がどんな所で使われているのでしょうか。
下表はそれを簡単にまとめてみました。
バイオメトリクス | 特 徴 | コスト | 長 所 | 短 所 | 主として利用されている所 |
---|---|---|---|---|---|
指紋 | 手の指の紋様 | 低 | 技術開発の歴史が古く普及度が高い。 認証精度が高い。 小型化低価格化されている。 |
心理的抵抗感がある。接触型なので汚れ、外傷、湿気に左右される。 | 入退室管理。 居住用(マンション、戸建て) パソコンのセキュリティ |
掌形 | 手の大きさ、長さ、厚さ、あるいは比率 | 中 | 認証精度が高い。 | 手のけが、経年変化に対応できない。 | 空港の入国審査 入退室管理 |
顔< | 顔の輪郭、目や鼻の形および配置 | 中 | 心理的な抵抗感が少ない。 距離が離されいても認識できる。 |
眼がね、化粧等の認識に劣る。 双子など似た顔も認識に劣る。 |
空港の入国審査 |
虹彩 | 目の虹彩(アイリス)の放射状の模様 | 高 | 認証精度が高い。 偽造が困難。 生涯変化しない。 |
設置は高価で大型。 | 高セキュリティ施設への入退出管理 |
網膜 | 眼の網膜内の毛細血管の模様 | 高 | 精度が高い。 偽造が困難。 生涯変化しない。 |
装置が高価。 | 高セキュリティ施設への入退出管理 刑務所 |
声紋 | 音声の特徴 | 中 | 心理的な抵抗感が少ない。 電話も使えるので遠隔地での認証可。 |
虹彩に比べると精度は劣る。 | パソコン認証、電話での本人確認 |
署名 | 署名の字体や署名時の書き順、筆圧 | 低 | 認証精度は高い。 心理的抵抗感が少ない。 |
本人拒否率が高い。 | パソコン認証 |
静脈 | 手のひら、手の甲の静脈 | 中 | 非接触型なので汚れによる認識率の低下がない。 精度が高い。 |
最近の技術なので認知度が低い。 | 入退出管理 |
その他 | 耳介(耳の形)、DNA | 多くは研究中。 |
バイオメトリクスは身体的な特徴と、行動的な特徴の2種類に分かれますが、下表で身体的な特徴としては指紋、掌形、顔、虹彩、網膜、静脈等が該当し、行動的な特徴としては、声紋、署名が挙げられます。
バイオメトリクスの中で最も利用者が多く、また普及台数も多いのは指紋照合で、国内のバイオメトリクスの85%が指紋照合だそうです。
バイオメトリクスは鍵やICカードのように紛失、盗難、再発行のコストが掛からないという点でメリットがあるのですが、プライバシーの侵害や、機械に接触して認証するタイプは不衛生であるとか、主として心理的な抵抗感が強いみたいです。
先だって、賃貸住宅の女性オーナーから、「他の入居者に迷惑行為を行った入居者に退居してもらったが、住人の話では今も空室になっている元の部屋に時々戻っているようだ。気持ちが悪い。」との相談がありました。その時はセキュリティ(主としてカメラ)ネットワークの方をご紹介しましたが、カメラで監視出来ても侵入の阻止は出来ません。本人を確認するバイオメトリクスをマンションの共用玄関だけでなく、各住戸のドアにつけることは、もう製品もあり可能なのですが、ネックは高コストなこと。
しかし、需要が高まれば量産化されコストは下がっていくでしょうから将来は賃貸住宅のセキュリティ対策として普及していくことが予測されます。
「あなたの家は指紋?手型?それとも目かしら?」なんて会話がはずむ日は近いかもしれません。
—(株)難波不動産鑑定代表 難波里美—
近年、大阪都心では、不景気にかかわらず超高層マンションがどんどんと建つ。景観が激変するほどだが、周囲はオフィスビルゆえ、住民による建設反対運動も少ない。だが需要は本当にあるのだろうか。また林立する背景、ニーズはどのようなものか。不動産鑑定士に分析してもらった。
超高層マンションの平均単価は、各区平均単価より高いのか。表は、大阪市都心6区(北区、中央区、浪速区、西区、福島区、天王寺区)における20階以上の超高層マンションの販売戸数を示している。各区全体の総供給に対する割合と、専有面積1㎡当りの平均単価が区全体の専有面積1㎡当りの平均単価を上回るか否かを調査した。
超高層マンションの価格は供給量が多いほど「平均」に接近
北区の販売戸数ベースでは、2002年には12%台に落ちたものの、他年は30%台を超えている。特に2004年では35.5%とそのシェアを拡大。ところが専有面積あたりの平均単価でみると、2001年、2002年は区全体の平均単価を14%から26%と上回っていたのにもかかわらず、供給シェアが増加するに反比例して超高層マンションの平均単価は区全体平均単価と接近し始めている。
中央区では、販売戸数ベースで2002年の47.2%から年々下落している。平均単価も2002年、2003年は、区全体を9%から14%上回ったのに、2004年では0.99%と区平均を下回る結果となった。
西区は、販売戸数ベースの超高層のシェアが2002年以降25%〜33.8%の間にある。同区の超高層の平均単価は2003年に落ち込んだが、2004年は区平均を14%上回っている。
福島区では2002年の販売戸数ベースの超高層のシェア29.8%から2004年は78.7%と急伸したが、平均単価は区平均を下回った。
天王寺区では販売シェアは減少傾向にあるが平均単価は年々上昇している。
浪速区は、2003年、2004年とも同じ棟の供給のみである。従って区平均と同価格となっている。
都心6区の内、超高層マンションの供給が多いのは北区(4ヵ年販売戸数合計1,413戸)、中央区(4ヵ年販売戸数合計1,152戸)で、他区は天王寺区が299戸、それ以外は500戸台〜600戸台であった。
以上から超高層マンションの平均単価は区内での供給量が多い区ほど、区平均単価に接近している。しかし、供給の少ない区では区平均より高く設定されている傾向が読み取れる。
大阪都心6区における超高層マンションの販売状況と価格
「超高層」だから売れているわけではない
では、需要は超高層マンションを選好しているのか。超高層マンション販売戸数の多い北区、中央区で販売状況を見るため初月契約率を調べると、30%から50%の低調なマンションもある。決して「超高層」だから売れているわけではない。
それでは、なせディベロッパーは超高層マンションを建てるのか。建設する理由として以下の3つが考えられる。
一つ目は、超高層化することで敷地のゆとり空間を創出し、緑地空間を整備するほか、タワーの高層階にスカイラウンジ、シアタールーム、フィットネスルームなどを設け、マンションの付加価値を高めることができること。
二つ目は、超高層のマンションは、低層階、中層階、高層階とランクが分かれており、低価格帯から高額物件までそろえることにより、需要層(ターゲット)を広げることができること。
三つ目は、密集し、かつ高度利用化された中心市街地においては、高層化しないと住宅としての商品価値(日照、通風、眺望)を高めることができないこと。
「職住近接」を求める若者層の増加が需要を支える
大阪都心部の需要増加と需要の実態はどうなっているのか。大阪市が調査した2004年中の人口の動きの特徴は3つ。
①2004年中の人口移動は5年連続の増加であること。②自然動態(出生—死亡)は減少しているが社会動態(転入—転出)による増加が上昇していること。③社会増加となっている区は16区であること。その増加数の最も多い区は、「中央区」「西区」「天王寺区」「北区」であり、中心6区の内3区が上位を占めている。また、社会増加率では「中央区」がトップ。ついで「天王寺区」「西区」「福島区」「北区」となり、中心6区の内5区が占め、都心中心区に人口が集まっていることがあげられる。
上記の人口増加の中心となっている年齢層は「20〜24才」「30〜34才」が多く、15〜39才の年齢層で転入総数の7割を超えている。最も移動の多い「20〜24才」「30〜34才」の移動の理由は、「仕事」を一番に挙げる人が最も多く「職住近接」を求めていることが分かる。彼らが都心に住むメリットとして実感しているのは「職住近接」。それによって「家族、友人と過ごす時間が増える」「睡眠時間が増える」「遅くまで仕事ができる」ことが可能となる。また「都心だから買物、外食に便利」「最新の情報を手に入れることができる」などがあげられる。
また、50才以上の年齢層も都心Uターン現象が見られ、こうした層も都心に住むメリットとして「公共交通機関があり便利」「病院へ通うのが便利」「買物に便利」「独立した子どもたちも(都心なら)寄りやすい」など、利便性に注目した回答が多い。
多機能なニーズに応えるためマンションは大規模化
人口増加時代には郊外に移動するドーナツ化現象が見られた。しかし人口減少時代には、反対に都心に集中するアンパン化現象になっている。こうした需要集中を背景として、都心部のマンション供給が急増している。
特に都心部の分譲マンション購入者の動機としては、「SOHO的な使い方をするために購入」「賃貸用不動産として投資する目的」「都心居住」の3つに大きく分けられる。
こうした需要は従来の「住むために快適なマンション」だけではない。「仕事の場として快適かどうか」といった多機能性を要求しており、多種多様なニーズに応えるためにもマンションの大規模化(超高層化)の傾向は、今後も続行するものと考察した。
—(株)難波不動産鑑定代表 難波里美—
ことしの賃貸市場の動向について、どういう特徴があるか−。大阪市の新規賃料の動向を大阪市の新築.築後1年の「1ルーム」「1K〜1LDK」「2K〜2LDK」「3K〜3LDK」の市場動向を調べた。
大阪市を
▽大阪東部=都島区、東成区、生野区、城東区、鶴見区
▽大阪南部=住吉区、東住吉区、平野区
▽大阪西部=住之江区、此花区、港区、大正区、西淀川、西成区
▽大阪北部=東淀川区、淀川区
▽大阪中心部=福島区、北区、中央区、西区、天王寺区、浪速区、阿倍野区
に分けて、ことしの新規物件の賃料をまとめた。
「1ルーム」タイプの傾向
まず「1ルーム」タイプの傾向は、大阪市内といえども新規の供給量は減っている。供給量が集中しているのは中心部で、大阪市全体27件中15件は中心型で供給されている。占有面積は平均25平方メートルで、年々広くなっているが、西部、北部では26平方メートル、東部、南部は1件ずつしか集まらなかった。18平方メートル、16平方メートルと、これはバブル期かバブル期以前の占有面積だが、中にはこういうものも出ている。賃料の方は大阪市全体では3%の下落、東部、南部、西部は上昇、北部は下落しているが、いずれもデータ件数が少ないため傾向を表しているとはいい難い。一番多い中心部だけで対前年比マイナス7.5%だから、1ルームマンションまで落ちた形になる。これは占有面積が拡大したことによるものと思われ、総額賃料を抑える方向にある。過去4年間、2002年から2005年のそれぞれのエリア別の1ルームの新規賃料の動きは、中心セクターは2003年から2004年には上がって、2005年にはまた下がるという形になっているが、この中には占有面積が広くなって、総額を抑えるため単価が落ちてきたということである。
次に「1K〜1LDK」タイプの傾向は、大阪市全体の支払い賃料は2000年以降、対前年比1%未満の微減傾向にある。件数は262件と、大阪市内で供給されているのは圧倒的に1K〜1LDKタイプが多い。中心部は153件(58%)データが集まっており半分を超えている。次に多いのは北部エリアで61件、西部エリアは11件と少ない。
占有面積増え賃料総額抑える傾向に
この占有面積は、大阪市29.27平方メートル、中心部29.42平方メートル、南部が30.49平方メートル、北部30.14平方メートルで、拡大傾向がみられる。
賃料の方は大阪市がマイナス0.7%と大体横バイだが中心部はマイナス2.8%と少し落ちている。これは1ルームの傾向と同じで、占有面積が広がってきて、総額を抑えて、単価が弱含みという形になっている。
件数の多い中心セクターは2500円から2650円の間を這うように、まあ安定しているといってもよいと思う。その他のエリアについては件数が少ないのでバラつきが大きく、傾向性がとりにくい。
「2K〜2LDK」タイプの傾向
次に「2K〜2LDK」タイプで注目したいのは中心部の件数10件の平均占有面積が76.39平方メートルと、3LDKとあまり変わらないこと。大阪市の占有面積は69.09平方メートルで支払い賃料は平方当たり2286円。これは中心部の占有面積、支払い賃料が上がったので大阪市全体が上がった。
この中心部は、去年のデータのときは、占有面積が40から50平方メートルぐらいと、小ぶりなタイプが多かった。ところが2005年は大型化された。普通、占有面積が広がると、総額賃料が上がるので、なるだけ借りやすい賃料にもっていく。面積が広がると単価は下がるが、中心部は面積が広がったのに賃料も上がっている。いわゆる都心部で、また高額物件が出てきているということだ。
高額物件も供給
実際に北区では平均占有面和が82平方メートル台で総額家賃が19万円台だった。西区の占有面積70平方メートル台で総額36万円の高額物件が供給されている。こういう傾向は2、3年前から天王寺区とか中央区、西区、北区という中心部でその傾向が出てきていたが、数は少ない。高額物件が出始めているというのが今の市場の特徴である。
また、この中でも2極化が進んでいる。
3K〜3LDKタイプの傾向
次に「3K〜3LDK」タイプの傾向だが、大阪市で5件しかデータが取れていない。占有平均積は70.67平方メートルで支払賃料は1874円(平米当たり)で対前年比はマイナス18%。それでは3LDKはそれだけ下がっているのかといえば、それはちょっといえないところがある。
中心部で2件あったが、これも占有面積は77.69平方メートルと、先程の2LDKと1平方メートル余しか変わりない。支払賃料は2083円で対前年比マイナス9.9%である。
中心部は2001年から2003年までは、平均占有面積68平方メートルで推移していたが、2004年では78平方メートル台と一気に拡大し、2005年も78平方メートル台で推移している。
2005年で供給があったのは天王寺区と阿倍野区の2件で、天王寺区では総額19万円台の高額物件だった。阿倍野区は占有面積72平方メートル台の総額13万5000円である。
ここで着目すべきことは2居室タイプも3居室タイプも面積はあまり変わらないが、3居室タイプは減って2居室タイプが中心になっているということである。
成約事例からみた変化
次に成約事例にみる賃料市場の変化を分析してみた。
調査エリアは
▽大阪都心部(浪速区、淀川区、天王寺区)
▽北大阪エリア(吹田市、池田市)
▽京阪エリア(枚方市)
▽阪神エリア(西宮市)
で、調査内容はタイプ別の2003年と2004年成約事例を比較してみた。
この結果、傾向がはっきり出てきた。
1ルーム減り「1K」増加
それによると、大阪都心部のシングル向けは「1ルーム」の成約が減少し、賃料は下落。「1K」「1DK」「1LDK」の契約が増加し、賃料は横バイ基調。これは新築だけでなく既存の分も含む。
ファミリー向けは64〜65平方メートルの「3LDK」の成約が増加。平米当たりの賃料は横パイ基調。「2LDK」の賃料は下落傾向にある。
中心部は広い「1LDK」ふえる
その他の特徴としては、新築では占有面積77〜78平方メートル台の「1LDK」(家17万5000円〜18万円)、占有面積52平方メートル台の「1LDK」(家賃10万1000円〜10万8000円)といった供給が増加しつつある。
今まで占有面積と居室タイプは大体平均化されたイメージがあった。1ルームだったら20平万メートル前後、2DKだったら45平方メートル前後とか、3DKなら53〜55平方メートルと、大体このようなイメージがあったが、今は占有面積と間取りタイプの相関性がなくなってきているというのが特徴である。ということはお客さんのニーズが変わってきているということである。
北大阪エリアのシングル向けは吹田市、池田市には学生需要があるので「1ルーム」「1K」「1DK」「1LDK」の各タイプの賃料は横バイ、もしくは微増傾向にある。
DKタイプ減りLDKが主流
ファミリー向けは「2LDK」「3LDK」に需要が集中している。「2DK」は成約が減少傾向にある。これもいろんな地域を調査していると傾向としてつかまえられるのはDKタイプは昔多かったが、いま成約件数は減っている。LDKが人気の主流になっている。また2DKは最近はシングルが借りるのが非常に増えている。
京阪エリアのシングル向けは「1K」の需要が伸長しており、平米当たりの賃料は横バイでる。「1ルーム」の賃料は下落傾向にある。「1DK」の新規供給が増加しつつある。
ファミリー向けは「2LDK」「3LDK」が中心であり、賃料は弱めの横ばい基調にある。ところが、ファミリー需要が集中する占有面積が60〜70平方メートル台になると落ちが目立っている。つまり50平方メートル台が堅調である。
「1K」に人気
阪神エリアのシングル向けは「1ルーム」「1K」の成約が多く、最近は特に「1K」の成約が伸びている。「1DK」「1LDK」の成約も伸長している。
ファミリー向けは「2LDK」「3LDK」が中心で、「2DK」「2LDK」「3LDK」の平方当たりの賃料はいずれも横ばい傾向にある。
—定性分析と定量分析—
不動産鑑定にとって定性分析と定量分析は自転車の両輪のようなものだ。
前輪、後輪どちらの1つ欠けてもうまく運転はできないように定性分析、定量分析のいずれが欠けても正しい評価にたどりつけない。どのように分析しているか1つ例を挙げよう。
平成10年以降大阪市の中心6区(北区、福島区、中央区、天王寺区、西区、浪速区)の人口は転出者数を転入者数が上回り増加傾向にある。
大阪市の人口移動調査によると移動の中心となっているのは20歳代の男女であり、近年都心6区における分譲・賃貸住宅の供給が著しい。
「平成10年住宅・土地統計調査報告」によると、大阪市内の借家世帯が駅から499m以内に居住する割合は約50%、大阪市中央区ではその割合が約68%であり、都心部中央区の借家の大部分が駅至近立地であることが分かる。
また中央区内は市営地下鉄各線が縦横に、JR大阪環状線からは放射状に鉄道網が敷設されており自家用車の必要性は低くなっている。
地元の宅地建物取引業者に対するヒアリングによると、一般的に都心での需要対象は、若年層では駐車場の必要性が低いが、ファミリー層や中年層では都心でも駐車場の必要性は高くなるということである。
また市外からの転入者はマイカーを手放して都心部に移住してくる層が多いことも併せて聞いた。
それでは都心の賃貸マンションで駐車場のありなしではどちらが優位であろうか。
そこで以下の定量分析を行ってみた。
1つは賃貸事例の登録日から成約日までの日数を市場滞留期間として駐車場の有無で差があるか否か、2つ目は駐車場の有無で家賃に高低があるかどうか調査した。
結論から言うと、市場滞留期間の調査では、中央区について見ると、駐車場がある場合の滞留期間は29.7日、駐車場がない場合の滞留期間は31.8日でほぼ1ヶ月と同程度である。ただしサンプル数が、駐車場がある事例が9件、ない事例が108件と事例件数に偏りがあるため統計的にその誤差が大きい(95%の区間推定でその範囲は17.0〜42.4日)。
従って都心6区について同様の調査をしてみると、駐車場がある場合の滞留期間23.0日、駐車場がない場合の滞留期間29.3日で駐車場がある場合の滞留期間の方が約1週間短い結果を得た。
(事例件数はそれぞれ100件および462件、95%の区間推定でその範囲は19.5〜26.5日、27.3〜31.3日)。
次に中心6区における市場滞留期間と占有割合をまとめてみる(図1,2参照)。
駐車場がある場合については滞留期間1週間以内が27%を占め、1/4以上が登録から1週間以内に成約に至っている。
駐車場のない場合は1週間以内は18%、成約まで2ヶ月超が14%であり、駐車場のある物件が市場で優位なことが分かる。
さて次に駐車場の有無による家賃への影響であるが、都心6区でワンルーム等の単身者向け賃貸住宅の成約事例(223件)を重回帰分析を用いて検討してみた。
この検証を行うに当たっては、対数線形モデルを採用することとし、これに駐車場の有無というダミー変数(0または1)を加味して駐車場有無の効用を検討する。
:占有面積(㎡) | :最寄駅までの距離(分) | :所在階(階) | :建築年数(年) |
建築年数についてはその建築年について下記のようなカテゴリーを用いた。
1970年代築 | 1980年代築 | 1990〜95年代築 | 1996〜98年代築 | 1999〜2000年代築 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
:バルコニーの方位(北から効用の低い順にカテゴリーとして1〜7までの数値を置く)
:駐車場の有無(なし:0、 あり:1のダミー変数)
および:パラメータ
下式は収集事例を用いて上記のモデル式につき、それぞれパラメータを求めた結果である。
上記の式につき住戸の想定をし、駐車場がある場合と駐車場がない場合の家賃の変化を検証する。(図3)
想定住戸 | 占有面積 | 30㎡ |
---|---|---|
最寄駅までの距離 | 5分 | |
所在階 | 4階 | |
建築年数 | 新築 | |
バルコニーの方位 | 南 | |
駐車場の有無 | なし | |
月額賃料 | 78,199円 |
占有面積 | 30㎡ |
---|---|
最寄駅までの距離 | 5分 |
所在階 | 4階 |
建築年数 | 新築 |
バルコニーの方位 | 南 |
駐車場の有無 | あり |
月額賃料 | 79,129円 |
結果は駐車場なしの月額賃料78,199円に対し、駐車場ありの月額賃料は79,129円、その差は930円であった。
以上から駐車場ありの賃貸住宅の方が駐車場なしの賃貸住宅よりも市場性に優れるが、賃料における開差率は僅か1.2%と僅少であり駐車場がないことによる大きな市場性の減退は見られないという結論を得た次第である。
大阪市内のマンション建設活況の背景
大阪市内に、超高層マンションが相次いで計画され、建設が進められている。
関西経済は相変わらず不振だ。しかし、マンション建設事業は活況を呈している。居住者の都心回帰は本当なのか。その現状と背景を、大阪市内の不動産市場を調査する難波里美氏(難波不動産鑑定)に分析してもらった。
大阪市内の景観を変化させていく高層マンション郡。計画は目白押し、建設棟数も日々増しているように思える。
西日本最大の高層マンションを目指すのは、阪神住建の「キングマンション」。西区本町の旧大阪銀行(現在近畿大阪銀行)跡地に建設予定だ。敷地面積は2,690㎡。50階建て以上、500戸以上となる。2007年に着工。
再開発ビルでは、北区天神橋に「ぷららてんま」が建設中。SRC造地下1階地上28階建て、延床面積47,500㎡のマンションとなる。地下1階から2階までに「天満市場」など60店舗を入れる。6階から28階までが都市再生機構の賃貸住宅。2006年3月竣工、4月にオープン予定。設計・監理は東畑建築事務所だ。
人口が増加した大阪市内6区
マンションは実際に増加している。難波氏は「2004年関西不動産市場の予測」の中で報告する。「大阪市内のマンションは、1994年から供給量が伸びた。1999年から年間6,000戸より増加、2001年以降9,000戸台となった。2003年は1月から10月で、すでに7,431戸。その時点で神戸の2倍、京都の7倍になった。」
特にマンション需要の多いのは市内6区(北区、中央区、福島区、西区、天王寺区、浪速区)。1995年から2000年、6区合わせて人口は、35万人から37万人に増えている。一方、大阪市全体は260万人前後でほぼ一定だ。
晩婚化でシングルタイプが主流
「変化の境目は1997年」と難波氏は指摘する。「賃貸マンションでは、1LDKの供給が倍増。広めのシングルタイプが、3LDKなどのファミリータイプを抜いて、市場の主流となった」。この頃より、市内に転入する若年層が急増。10代20代の学生、30代前半までの社会人が都心への通学、通勤のために移住した。10年後、単身者の晩婚化と、夫婦のみの層の増加より、シングル需要が定着。「住」に対するこだわりから、マンション設計へのニーズも多様化した。
地域による特色もある。西区では、学校施設が充実しているのでファミリー層が多いが、それ以外の区では少なく、子供の数は減少している。
企業による需要も多い。社宅、事務所などに使用する。幹部が暮らす場合もある。阪神・淡路大震災の教訓からで、非常事態の際、会社のある都心で指示を出すことが出来る。
こうした事情で、入居率は100%だが、数割ほどしか住まい手がいないマンションも多い。マンション建設は、人口を増加させたが、コミュニティーが稀薄な地域を拡大させている。
「不動産鑑定」という言葉で思い浮かぶのは土地の鑑定評価だが、最近は不動産鑑定士の守備範囲も広がり市場調査やコンサルティングなどを積極的に手がけるようになってきた。そこで、難波不動産鑑定(大阪市西区)の難波里美社長に同社の多彩な取り組の一端を聞いてみた。
携帯ウェブと看板
賃貸マンションには、たいてい「入居者募集」の看板が掛けてある。普通は「空き室あり ○×不動産 電話番号」という内容だ。この看板にURLナンバーを記載し、関心を持った人が、間取り、家賃、保証金などの詳細情報をケータイで入手できるのが「不動産携帯システム」だ。一定の予備知識があれば不動産業者に電話してみる気になる。「空き室あり」だけではそうはいかない。開発したのはサポートベーシックという会社だが、システムに載せる情報をセレクトするなど監修を担当したのが難波さんだ。長年、賃貸住宅の市場調査を続けていると、若い人が何を求めているかが見えてきて、このアイディアに結び付いたという。従来の看板は制作費がかかったが、同システムでは異業種の広告を載せることで、不動産業者は制作費も利用料も無料となる。看板というアナログ広告と、ケータイウェブのデジタル広告の組み合わせだ。
取引適合性を調査
高利回りを期待して収益ビルを購入したものの、数年経つと空き室が増えたり、設備の更新や修繕費などでビル経営に行き詰まるケース が見られる。バブル期に購入したケースに多い。こうしたリスクを回避するために、同社では阪急東宝グループのエイチアンドエムコンサルタントと提携して、「取引適合性調査報告書」(MRCレポート)を購入計画者に提供している。鑑定評価・マーケティング・不動産の有効活用のノウハウと、建設投資・建物維持管理のノウハウとをワンパックにして、投資家の意思決定に役立てようというものだ。前者のノウハウは難波不動産鑑定が担当し、後者のノウハウはH&Mが担当する。内容は、対象不動産の物理的状況から、適性用途、経常費用、修繕費用に加えて、将来性、さらには賃貸市場の動向までを網羅している。市場にマッチしているかどうかが分かる仕組みだ。
SI賃貸をコンサル
賃貸住宅の退去時における原状回復のトラブルが目立つが、その対策に役立つとして同社が取り組んでいるのが、スケルトン・インフィル賃貸に関するコンサルティングだ。オーナーは建物の躯体(スケルトン)をつくり、これを所有する。ただし、風呂、洗面、炊事場などの水回りはきちんとしつらえる。入居者は自分の費用で内部空間(インフル)、例えば内装を思うように仕上げる。間仕切りも自由自在だ。退去時には自分が取り付けたものを外せばよく、問題は起きない。同社の調査では、都心部に住む人で”家を購入しなくても良い。賃貸で時間を掛けて好きなように作りたい。でも、合う物件がないと考えている層が現れているという。好きな壁の色を選びたい、自由がきく賃貸へのニーズが生まれている。賃貸はニッチ市場でコンセプトが作りやすいと難波さんは指摘する。
大阪都心部の不動産状況は流動化に向けて最終局面を迎えている
大阪都心部では、居住人口の増加地区が顕在化し、2極化の潮流が見え始めている。膠着状態の不良債権処理もいよいよ動き出し、不動産の流動化も本番を迎えようとしているようだ。本稿は大阪の難波不動産鑑定の調査資料と、同社社長難波里美氏へのインタビューに基づき、編集部が整理、再構成したものである。
編集部
大阪都心部の実勢地価はピーク時の20分の1以下に下落
平成2年以降、関西地区の地価およびオフィス・住宅の市場状況をウォッチしている難波不動産鑑定のデータをみると、大阪都心部の地価の下落のすさまじさがよく理解できる。
同社が調査した土地取引の実態を示す「土地価格」は、「梅田」ゾーンにおいて、平成2年(1990年)を100とすると、平成14年(2002年)は、何と8.4ということになる。つまり10分の1以下に下落したわけである。この数値は平成2年、14年ともに7件の取引事例の平均価格であるが、平成14年の事例が仮に不良債権の処分案件だとしても、その下落の激しさにはいまさらながら驚きを禁じえない。
ところが、隣接ゾーン、オフィス街のメッカである御堂筋を中心とするゾーンである「淀屋橋」の同年の土地価格は、平成2年に対する指数値で4.2というレベル、何と20分の1以上の下落ということになる。ただし、平成2年の「淀屋橋」の「土地価格」が「梅田」と比べて異常に高いことを考慮して、平成3年との比較でみても5.3。まさに20分の1の価格なのである。
この「土地価格」は、「公示価格」を大きく下回るもので、平成14年の「梅田」では1.5倍の開きが生じている。「淀屋橋」で1.6倍、「肥後橋」だとほぼ2倍となる。逆に「新大阪」は「土地価格」のほうが「公示価格」より1.3倍高くなっている。この10年、「新大阪」を除いて、「土地価格」は常に「公示価格」を下回る動きを示している。とくにこの数年の「淀屋橋」「肥後橋」での乖離が目に付く。その点からみれば「梅田」も平成14年になって、周辺ゾーン並みになったといえなくもない。
いずれにしても、大阪都心部の地価は、バブル時代は論外としても、平成9年、10年ころと比べても、「土地価格」「公示価格」ともに半値のレベルにまで下落している。
成約賃料は、公表データの6掛けレベル
もっとも、不動産投資の観点から見れば、地価下落という事態は必ずしも問題とばかりはいえない。問題は地価の下落が今後、いつまで続くのかということと、地価と賃料相場および空室率との関連で、不動産の収益性がどう変化するかということである。
この点からみると、バブル崩壊後、この10年の大阪都心部の「平均賃料」の動向は、極端な下落を示していない。というよりも、「淀屋橋」では平成2年より2.8%アップしている。
この平均賃料のデータソースは、「IKOMA Office Market Report」であるが、この点について、難波不動産鑑定の難波里美社長は、「この平均賃料は、限定されたエリアにおける物件の公表された募集ベースの賃料ですから実態とはかけ離れている面がある」と指摘する。
難波社長によれば、たとえば船場地区の場合、幹線道路に接する物件を除くと、募集賃料で坪当たり8,000円〜1万円の物件が、成約賃料は5,000円〜6,000円のレベルまで下落しているという。成約実態は、募集賃料の60%程度ということになるわけだ。
「当社が最近調査した谷町ゾーンでは、大半のビルで空室率が35%以上になっているんです。ですから市場の公表データに依存した投資判断には大きなリスクがあります」(難波社長)。
したがって、大阪での投資対象となるオフィスビルは、「グレードと立地で物件を徹底的に選別することが必要となります。特に立地が重要で、2ウェイ、3ウェイの交通結節点となる駅から徒歩5分程度の範囲に絞らなければならないでしょう。歩いて10分となると、利用ニーズは激減します」(難波社長)ということになる。
こうしてみるかぎり、大阪の不動産不況は、バブル崩壊による地価下落に端を発し、現在は経済基盤の弱体化そのものの反映とみなければならないだろう。言うまでもなく、東京一極集中による関西経済圏の「1割経済圏化」という事態と直結する。その反映としてのオフィス街の空洞化である。
日本経済新聞(関西版・02年9月10日付)によると、関西経済(2府4県)のGDPシェアは、2001年の15.1%から2030年には10.8%に凋落する。その最大の要因は人口の流出にあることは間違いない。
日本総合研究所の試算では、関西の生産年齢人口は、01年の17.3%から30年には16.7%へと0.6ポイント減少するとの予測だ。すでに95年から2000年の間で大阪府内の「一般事務従業者」9万4,800人、「会社・団体等の役員」5万4,200人、合計14万9,000人減少したという。
1人当たり床面積を約7坪(全国ビルヂング協会・床面積ベース)とすると、約60万坪分が不要になったことになる。1,000坪クラスの中規模ビルにして600棟分がすべて空室化したことになるわけだ。
公示地価に現れない地価上昇地帯
こうしてみると、大阪の不動産市場には将来的にも厳しい環境が待ち受けているとしか言いようがないが、実際は都心部がすべて空洞化するわけではない。逆説的にいえば、都心部での2極化、優勝劣敗が歴然とするなかで、新陳代謝が進むとみることもできる。先のデータにみるように、大阪の都心部の地価は毎年下落を続けており、「好立地の御堂筋やナビオ阪急のあたりの公示地価が前年対比で0%といった状況」(難波社長)という。ところが、公示価格では依然として値下がりしているが、実際は地価が上昇している地域があると、難波社長は指摘する。南船場(中央区南船場4丁目周辺)と呼ばれる地域である。
「このエリアの地価は平成12年時点が底バイ状態で、坪あたり220万円前後でしたが、いまは反転上昇して300万円程度にまで上昇しています。店舗賃料のほうはもっと早くから上昇していて、現在、角地で坪5万円という成約もでています。一般的水準で2〜3万円前後になっています」(難波社長)。
この南船場は、御堂筋と長堀通りの交差する心斎橋交差点の北西側、長堀通りを挟んでアメリカ村と向き合う地域である。顧客の低年齢化したアメリカ村に飽き足らない小資本のファッションメーカーによる店舗やレストランなどが自然発生的に集積してきた街である。すでに女性誌やタウン誌でも頻繁に紹介され、アメリカ村卒業組といったふうの20代から30代の女性が客層の中心。店舗の収益力もよい。
この地域は、元来、御堂筋のバックヤード的存在で、倉庫や銘木問屋の作業所などが集積していたという。時代の変化のなかで、衰退 空洞化が進んだ地区だったわけだが、手づくり感覚の店舗が中古ビルに新たな息吹を与え、そのコンバージョンの連なりが街を再生させたともいえる。
しかし、このエリアも東京資本の進出もあって、アントレプレナーには、もはや“家賃が高すぎる”そうで、いまや高感度エリアの潮流は、その西側、四ツ橋筋と浪速筋に挟まれた西区の南堀江・北堀江・新町といった地域へと滲みだしているという。
都心部へと移動する居住ニーズ
その滲み現象が起きつつあるエリアでは、新たな商業エリアの可能性とともに、都心型住宅地として集積が進みつつある。「そのなかでも、四ツ橋筋となにわ筋に挟まれたエリアは、店舗と住機能が混在する、単身者向き賃貸マンションエリア、一方、なにわ筋の西側はファミリー向き分譲マンションのエリアに識別されます」(難波社長)。
大阪の都心部も、昨今は東京と同様に住宅ニーズが高まっており、大阪市の人口も20年来減少を続けてきたが(平成7年は阪神・淡路大震災の影響で一時的に人口増になった)、平成12年に増加に転じている。
とりわけ都心6区のうち、浪速区を除く、北区、中央区、西区、天王寺区、福島区の5区では社会増が顕著になっている。都心帰りの主体は学生・会社員など、10代後半から20代の単身者たちである。こうした若年層の都心帰りは、JR東西線の開通および私鉄(特に阪急各線)との相互乗入れによって、都心と大学のある郊外エリアとの交通利便性が高まったことに一因があるという。
従来は、学校とアルバイト先の中間点にあった居住地が、都心に住むことで時間給の高い深夜のアルバイトに就けるメリットがあり、「遊び」と「情報の入手」において効率性が高いことが、都心居住の魅力なのである。一般の勤め人も仕事や家族との生活面での時間の効率性を追求するなかで、都心居住を選択する意向が強まっている。 また高齢者の都心帰りも進んでいる。「病院通いや家族との連絡の取りやすさといった利便性もありますが、昔住んでいた土地へのノスタルジーといった側面もあるようです」(難波社長)。実際、数十年開かれなかった同窓会が復活するなど、失われた地域コミュニティが復活する兆しさえ見え始めているのだそうだ。
こうした背景から、大阪都心部の賃貸住宅市場は好転している。ここ3年、シングル向けの賃貸マンションは増加をつづけているが、稼動率も高く、賃料も横バイ状況にある。
難波社長によれば、こうした大阪都心区およびその周辺区の住機能の特徴は、エリアごとに以下のように整理できるという。
①北区 社会人のシングル層の比重が高いが、学生層の流入も目立ってきており、入居率95%以上のところが多い。
②中央区 社会人の需要が多くなっており、シングルの会社員ばかりでなく、企業の役員社宅需要も多い。かつて役員社宅が集中していた阪神間より連絡がとりやすく、緊急時の意思決定がスピーディに行える点が評価されている。
③天王寺区 もともと高額賃貸マンションの需要がある地区で、この傾向は変わっていない。学校区の評判がよいなど、教育環境が整っていることから、シングル、ファミリーともの需要が見込める。
④阿倍野区 都心6区外に位置づけられるが、教育環境や住環境がよいとされ、シングル、ファミリーともに需要が高い。近鉄南大阪線のターミナル・あべの橋付近に、阪南大学など沿線の大学に通う学生が集まる傾向もある。
⑤西区 前述したように、なにわ筋より東はシングル、西はファミリーの需要が多い。
⑥浪速区 都心部の中では住宅としては厳しい地区である。もともとミナミの繁華街で働く従業員の需要が多いが、不況の影響で需要は減少しており、一方、学校の問題もあってファミリーには不向きとされている。ただし、地下鉄千日前線の桜川駅周辺では新婚やシングル需要がある。
⑦福島区 北区に隣接する東側はシングルのニーズがあり、さらにキタの繁華街で働く従業員のニーズも多い。
⑧都島区 福島区とは逆に西側が大川を挟んで北区と接していることから、キタで働く人の受け皿地区になっており、新婚、ファミリーの需要がある。
以上、難波不動産鑑定の資料と難波社長の分析をもとに、大阪の都心部における不動産実態を俯瞰してみた。
マクロの状況を追えば、20年以上の人口流出がつづき、地価・賃料の下落、空室率の上昇という数字ばかりが目につくが、260万人に及ぶ巨大都市の生命力は常に新たな変化を生み出している。その意味では、大阪の不動産状況は、すでに新たな局面を迎えているようだ。難波不動産鑑定の調査によれば、2000㎡以上の大規模画地の取引が、前年比で20%増とのことであり、そうした状況の変化を捉えて、難波社長は「不良債権処理で膠着していた市場が流動化に向けて最終局面に向かっており、需要分析と立地分析を間違えないかぎり、大阪都心部への不動産投資はたいへん面白い時期を迎えている」との判断を示している。
関西経済の地盤沈下に歯止めがかからない。これまで経済団体や有識者が数多くの改革プランを提案した。しかし、実効は上がらず時間だけが流れた。二十一世紀に関西が直面する危機はどれほど深刻なのか、関西の再生はどこまで可能か。大胆な仮定に基づくシミュレーションで検証する。三十年後の関西経済はどんな姿か。日本経済新聞社が大和総研に委託した分析によると、二〇〇三年度以降、日本の国内総生産(GDP)が実質一.五%成長を続けるとすれば、二府四県の域内総生産が日本のGDPに占める割合は、二〇三〇年には〇一年の一五.一%から一〇.八%に下がる。ほぼ現在の九州・沖縄八県の水準だ。
中部圏が猛追
「関東大震災直後の一九二四年、大阪市とその周辺だけの総生産でも全国の約二三%を占めた」(宮本又郎大阪大学教授)が、戦後は首都圏の復興で関西のウエートは下落。特にここ十年はじり貧で、首都圏との差は広がり、逆に中部圏の猛追を許した。三十年後の関西経済を試算した大和総研アメリカの岡野進・主席エコノミストは「人口減少が予測より進むことも考えられ、関西の比率の下振れ懸念がある。関西経済の危機は一層深刻になる」と指摘する。
中心部賃料下落
関西経済のシェアが一ケタ近くに落ち込む兆しはすでに表れている。「これでは東京・八王子並みだ」。不動産コンサルタントのアイディーユー(大阪市)の池添吉則社長は驚いた。今年八月、御堂筋沿いのオフィスビルの賃料交渉で、ビル所有者が三.三平方メートル当り月一万円を提示したとのうわさが流れた。このビル周辺の相場はバブル時には三万円台後半だった。一万円となると首都圏では都心から西に約一時間離れた八王子の水準。大阪から東京への本社移転が進む一方、外資企業の流入は東京に比べ圧倒的に少ない。「大阪のオフィス街の空洞化は予想以上に速い」(池添社長)という。大阪の違法駐車も減っている。毎年四月の平日午後に大阪府警が調査する「瞬間路上駐車台数」によると、今年の大阪市内の違法駐車台数は九万千五百三十七台。実にバブル経済全盛の八九年の約半分の水準だ。
駐車対策課の前田秀和警視は「都心のビルの跡地に、時間貸しの駐車場が増えたことが大きい」と分析する。時間貸し駐車場大手のパーク24の佐々木賢一経営企画室長は「遊休地の活用を事業とする当社にとって大阪は事業機会に富む」と語る。
関西の人口の全国シェアは七〇年から二〇〇一年の間はほぼ横ばいだが、生産年齢人口(十五−六十四歳)の全国シェアは一八.〇%から一七.三%に低下した。
消える働き手
日本経済新聞社の依頼で日本総合研究所が実施した試算では、二〇三〇年の関西の生産年齢人口シェアは一六.七%と現在より〇.六ポイント減る。日本総研は「生産年齢人口の減少が地域経済の衰退を加速する」と指摘する。
役員や一般サラリーマンら働き手が除々に大阪から姿を消している。大阪府内の「一般事務従事者」は九五年から二〇〇〇年の間で九万四千八百人減少し、「会社・団体等の役員」も五万四千二百人減った。
「家族を伴う転勤者向け賃貸マンションの需要は関西では大幅に減少している」。関西の住宅事情に詳しい難波不動産鑑定(大阪市)の難波里美社長は自社の調査結果をもとにこう指摘する。今年七月初め時点での大阪市、阪神間、北大阪の新築賃貸マンションのうち、間取りが「2K」以上は七十九カ所で全体の四一%。九六年の七〇%に比べ大幅に下がった。学生や独身者が入居するワンルーム型の増加もあるが、家族を伴い関西に移り住む転勤族の減少を示している。
オフィス街の空洞化に歯止めをかけ、生産年齢人口を増やす。この命題に答えられなければ関西の「一割経済圏化」いや、「一ケタ経済圏化」の日は確実に来る。
サポート(大阪市天王寺区大道1の7の13、高橋和孝社長、06・6776・4848)の 携帯電話を活用した空き室検索・看板事業が急成長している。
2001年10月にホームページアドレスを記載した不動産看板(写真)の事業を開始、 12月末までに約1万枚設置した。 今年2月末には10万枚に達する見込み。
04年には同事業などで売上高を100億円とし、早ければ同年中の上場を目指す。
事業名は「サポート携帯不動産システム」で、ビジネスモデル特許を出願済み。 携帯電話で看板に記載された物件アドレスを入力すると、最新の入居(空き)状況や賃料・保証金、間取り図を表示する。 不動産会社へも画面上からワンタッチで連絡可能。 空き室がない場合は入居希望を登録することもできる。
難波里美・難波不動産鑑定社長が監修し、実用的なシステムとした。
同社は不動産看板に広告枠を設け、引っ越し会社などから広告収入を受け取る。 10万枚達成時には同事業で売り上げ22億円を見込む。現在は近畿圏が中心だが、近く、東京に支店を開設、その後全国の主要都市で フランチャイズチェーンなどによる多店舗化を進め、全国展開する方針。
同社は2000年設立のベンチャー企業。不動産の総合運営管理、介護、 店舗コーディネート、ライフカウンセリング事業など、コーディネート機能を生かしてノーリスクで、短期創立を目指した共同参画型事業を手がけている。
各業界・分野でトップかトップクラスの会社と対等の立場で共同事業を行うことで 新事業の開発に専念し、高い利益率を確保してきた。 01年2月期の売上高は約1億5000万円。資本金7700万円で、従業員は45人。