難波不動産鑑定

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2017年不動産市場の予測

- 土地は預貯金や株式に比べて有利な資産か -

 国土交通省 土地・建設産業局による「土地問題に関する国民の意識調査」の中に「土地は預貯金や株式に比べて有利な資産か」というアンケートがある。
 平成5年度から継続的に実施されているが、平成28年6月に公表された調査結果では、平成5年度・平成6年度では「土地が有利な資産であると思う」と回答した人の割合は61%台であったが、年々減少傾向にあり、平成27年度調査結果では「土地が有利な資産であると思う」人の割合は30.1%と当該調査が始まって以来、最低となった。反対に「そうとは思わない」人の割合は41.3%に達している。
 ところが、同じ調査の中で「住宅の所有についての意識調査」では、「自己利用の住宅については土地・建物とも所有したい」人の割合が最も多く、80%前後で推移している。その理由の第1位は「子供や家族に土地・建物の形で財産を残したいから」、第2位は「土地・建物はほかの資産と比べて有利な資産だから」であった。「土地は有利な資産」かという問いかけの回答の割合の推移をみると、地価の変動にリンクしていることは読み取れることから、「資産価値」という観点で回答はなされているものと考えられるが、「土地」は「預貯金」や「株式」と比較すると、換金性の点で土地は劣る(すぐに換金できない)ため、有利な資産でないという判断も回答に含まれているかもしれない。
 「土地」「株式」「預貯金」という相対的な比較は身近でないため、客観的にみれるが、「自己利用の不動産」については、「土地・建物共所有」を望む割合が高いことは「利用」より「所有」を重視する日本人の国民性の表れとも考えられるのである。

大阪市商業地の地価

Point1

 大阪ビジネスゾーンのオフィス賃貸市場は、入居が改善し、94.6%となっているものの、賃料は対前年同月比(平成28年11月3,344円/㎡)で、ほぼ横ばいとなっている。
 ゾーン別でみると、梅田、淀屋橋、新大阪の他、南森町、船場、心斎橋・難波ゾーンにおいても、賃料は対前年同月比で微減、若しくは微増で、ほぼ横ばい傾向にある。
 しかしながら、入居率は南森町ゾーンを除いて、他は上昇しており、特に淀屋橋ゾーン、心斎橋・難波ゾーンの入居率が改善されている。 大阪ビジネスゾーンでは大型新築オフィスの竣工が少なく、供給がない中で、建替ビルからの借り換え、若しくは増床目的による需要増により、入居率は上昇している。
 大阪ビジネスオフィスゾーンの需要は新規需要が少なく、実需規模が小さいため、賃料については今後も横ばい基調が続行するものと予測した。

Point2

 大阪中心部の地価を牽引しているのはオフィス需要ではなく、都心型マンション、ホテル用不動産の他、賃貸稼働中の収益用不動産の需要である。
 特にホテルについて注目すると、価格高騰が著しい。
 下表は大阪市中央区内で平成26年~平成27年間に取引されたホテルの取引事例であるが、NOIに対する取引利回りは5.4%~7.8%で、1客室当り取引価格は1,200万円~1,300万円である。
 平成23年に取引されたホテルの1客室取引価格が850万円程度であったことから、わずか3年~4年でホテル価格は急騰している。

平成26年~平成27年間に取引されたホテルの取引事例

 ホテル価格の高騰の背景は、ホテル利用客増による高収益の期待である。
 業界専門誌「週刊ホテルレストラン」が発表している2010年度を基準とした近畿の宿泊主体型ホテルの売上と客室売上の推移は<表1><表2><図1>のとおりであり、これによっても近々6年間に著しい売上増になっていることがわかる。

<表1> 近畿宿泊主体型総売上(N=22)
近畿宿泊主体型総売上(N=22)

<表2> 近畿客室売上(N=42)
近畿客室売上(N=42)

<図1>
近畿の宿泊主体型ホテルの売上と客室売上の推移

 日本政府観光局(JNTO)による出国日本人数・訪日外客数調査結果より、平成17年から平成27年について下<表3><図2>のとおりまとめた。
 これによると訪日外客数は、平成23年の東日本大震災の影響により大幅に減少したが、その後急増しており、平成27年は平成17年に比し、訪日外客数は+193.3%増加している。訪日外客数の急増については、国土交通省が平成15年(2003年)4月から「ビジット・ジャパン」と称するキャンペーンを海外で展開していることや、平成20年(2008年)10月1日に同省のもと観光庁が発足し、海外における訪日促進や情報発信が一層強化され、ビザ取得の緩和等による成果が現れたことが一因である。特に訪日外客数のうちアジア系観光客が急増しているが、その背景としては上記ビザ免除若しくはビザ発給要件の緩和に加え、平成26年夏以降の急速な円安並びに航空路線の拡大(特にLCC)の効果が挙げられる。即ち、客室売上の上昇と訪日外客数の急増はリンクしている。
 平成28年では、ホテル客室料金が上昇したため顧客離れがおき、客室稼働率はやや低下したものの、今後、2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピック、2021年に関西ワールドマスターズゲームズと、世界大会が相次いで開催されることから、宿泊需要は堅調に推移していくことが予測され、ホテル市場も2020年頃まで売手市場が続行すると判断した。

住宅地の地価

Point1

 近畿圏の主要中心部では、国内外の投資需要があり、地価、不動産価格は上昇を続行している。
 しかしながら、中心商業地ではインバウンドの爆買いが減少し、百貨店の売上高が対前年下落が続行し、変調の兆しがみられる。
 また、収益用不動産も高騰し、表面投資利回りが5~6%台に低下したため、2016年秋を境に取引は停滞しているにもかかわらず、高値期待の売却意思は根強く、売物件は増加している。

Point2

 人口総数が減少していくなか、利便性・住環境の良い立地に需要が集中し、地価は上昇している反面、利便性に劣る郊外型ニュータウンや旧集落では、需要離れから地価下落が続行しており、こうした地価二極化はますます鮮明になりつつある。

Point3

 新築分譲マンション価格の高騰から、需要は中古住宅・中古マンション市場に流れており、需要は価格について妥協がない。
 これは実質所得が伸び悩んでいることも原因の一つだが、将来に対する不安から手元に現金を残したい節約指向も働いている。

Point4

 2017年は下記 ① ~ ③ が進行していくものと予測した。

  • 収益用不動産の利回り低下から価格は調整局面に入る。
  • 団塊世代に次いで人口の多い団塊ジュニア世代の持家需要が一巡したことから、住宅需要が激減し、住宅数の余剰がより一層鮮明になり、売り圧力になる。
  • 二極化が一層進むものの、地価下落地域エリアが拡大する速度が速くなり、全体平均すると地価は横ばいないしは下落に向かう。

住宅賃料

 近畿圏の賃貸需要は首都圏、中京圏に比すると昨年に引き続き、芳しくない。
 国土交通省「平成27年度 住宅市場動向調査」(平成28年3月)によると、世帯主の平均年齢は、首都圏36.1歳、中京圏39.0歳、近畿圏37.9歳と中京圏が2歳多い他は首都圏と近畿圏は同年齢が近い。世帯年収は首都圏461万円、中京圏469万円、近畿圏424万円と三大都市圏内で最も低い。
 「支払家賃 + 共益費」でみると、首都圏が85,523円、中京圏68,737円、近畿圏69,945円で中京圏より支払コストは高い。
 更に勤務先からの住宅手当があるのは首都圏24.2%、中京圏33.7%、近畿圏24.8%と中京圏は手厚い。世帯主の職業では三大都市圏とも「会社員・団体職員」の占める割合が最も高い。(首都圏47.0%、中京圏53.9%、近畿圏44.4%)
 近畿圏の特徴としては、他圏より「自営業」「派遣社員・短期社員」「年金受給者」「無職」の割合が高い。
 家賃の負担感については、負担感がある(「非常に負担感がある」「少し負担感がある」の合計)割合は、首都圏64.9%、中京圏55.1%、近畿圏は70.6%で近畿圏が最も高い。前述、支払コストが年収に占める割合、即ち、家賃負担率は首都圏22.3%、中京圏17.6%、近畿圏19.8%で、首都圏に次いで高い。
 今回の弊社の賃貸市場調査結果では、建築費の高騰を吸収すべく、占有面積を小振化し、総額賃料を抑えている傾向は継続している。
 国土交通省の「住宅市場調査結果」にみるように、近畿圏の需要の所得環境は厳しいことから、2017年も建築費の高騰を賃料に転嫁することは困難で、更に占有面積の小振化が進捗していくものと予測した。
 その結果、需要の方でも「1ルーム」「1DK」「1LDK」をカップルが多く選択している。
 というのは、賃貸住宅の「利便性」を重視するものの、所得に見合う家賃の支払限度から「住宅の広さ」を犠牲にせざる得ないのである。
 こういったニーズを満足させるためにも立地の良い「空家」を積極的に活用することが今後、大きなビジネスにつながると考える。

分譲マンション価格

 都心部の地価上昇、建築費の上昇により、マンション販売価格は高騰しているが、一般エンドユーザーは高騰する新築分譲マンションの価格についてゆけず、中古マンション市場に流れている。
 下図は首都圏と近畿圏の新築分譲マンションの価格と契約率を平成22年から平成28年(1~9月)間をグラフ化したものであるが、これによると、首都圏も近畿圏も平成25年以降、新築分譲マンションの価格が地価・建築費の上昇に伴い高騰していくのに反比例して契約率は低下している。近畿圏は首都圏程、契約率は低下していないが、平成25年の契約率79.6%をピークに平成27年、平成28年は契約率71%前後に下落している。
 国税庁調べ「平成27年度 民間給与実態調査結果」の東京国税局内納税者の平均給与約532万円に対し、平成27年の新築マンションの価格は年収の10.4倍、大阪国税局内納税者の平均給与約466万円に対し、平成27年の新築マンションの価格は年収の8.1倍で、もはや実需の手の届かない価格となっている。
 また、タワーマンションの固定資産税を高層階ほど税負担を高く、低層階では低くする税改正を平成30年度から新たに課税されることとなるマンションから適用していく方針であることから、今年の新築分譲マンション市場の契約率は価格が下がらない限り、更に低下していくことが予想される。

新築分譲マンション市場の契約率

 高齢者の単身世帯、並びに晩婚化、非婚化で若年層も単身世帯が増加している現状をみると、コレクティブハウス等、新しいマンションの供給のあり方を検討すべき時期にきているものと思われる。