2019年不動産市場の予測
中古住宅市場にみる不動産市場の変化
- 平成23年度から平成29年度間の新設住宅着工戸数(全国)は平成26年の消費税増税(5% → 8%)前の駆け込み需要のあった平成25年度の98万戸を上回る新設住宅着工戸数はない。
- 「持家」の新設住宅着工戸数は年々減少傾向にあり、反対に「貸家」の着工戸数が増加している。
「分譲住宅」では分譲マンションの新設着工が減少し、分譲戸建は増加している。 - 新築分譲マンションの供給、販売月契約戸数と中古マンションの成約件数では、首都圏では平成28年に平成2年以降初めて中古マンション成約件数が新築分譲マンションの発売戸数を上回り、平成29年も同傾向にある。
近畿圏では中古マンション成約件数は、新築分譲マンションの供給戸数を上回っていないが、新築マンションの発売月契約戸数との比較では平成26年から上回っている。 - 新築マンションの価格と中古マンションの成約価格の比較では、首都圏では平成25年の新築分譲マンション価格4,929万円から上昇傾向にあり、平成29年は5,908万円と平成25年に比し、約20%上昇している。
中古マンションの成約価格は平成25年の2,589万円から平成29年は3,198万円と約24%上昇しており、中古マンションの成約価格は新築分譲マンション価格との上昇について正比例の関係にある。
近畿圏では新築マンション価格は平成25年の3,496万円から平成28年の3,919万円まで上昇したが、平成29年は平均専有面積が60.89㎡と小振化したため3,836万円と、対前年比△2%下落した。
中古マンションの成約価格は平成25年の1,746万円から平成29年は2,075万円と約19%上昇しており、平成28年以降、新築分譲マンションとの価格比でみると、中古マンションの上昇が顕著になっている。 - 中古戸建住宅市場においては、首都圏でも近畿圏でも中古戸建住宅の成約価格、成約件数共に上昇傾向にある。
- 以上の中古マンション、中古戸建住宅市場の流通性の拡大の要因としては、① 住宅需要の意識の変化、② 経済性の2点が考えられる。① 住宅需要はかつての新築指向は低下しており、中古住宅の選択肢が拡大しており、「中古住宅にこだわらない」層が拡大している。② 近年の新築分譲マンション価格の高騰振りを年収倍率(住宅価格を平均年収で除した率)でみると、首都圏で平成28年6.8倍、近畿圏で5.5倍に達しており、マンションブームであった平成13年~平成17年の年収倍率(首都圏4.9倍~5.2倍、近畿圏4.3倍~4.5倍)を大幅に超えており、経済性の観点から中古マンションを選択する住宅需要が増加している。
建築費の高騰が続行し、都心部の地価も上昇している現在では、今後も積極的に中古住宅を選択する需要は増加していくものと予測される。
更に平成30年からは中古住宅流通において、インスペクション、瑕疵保険が徐々に周知されてきており、こうした制度が住宅需要に中古住宅の購入に安心感を与え、流通が促進していくものと考察した。
大阪市商業地の地価
三鬼商事株式会社の「MIKI OFFICE REPORT OSAKA」の発表データの内、平均賃料と空室率について、「大阪ビジネス地区」と「梅田地区」について下<図1>の如く表した(2014年~2017年は各年12月時点のデータ、2018年は11月時点のデータ)。
大阪ビジネス地区の平均賃料は2014年から2016年まで下落傾向にあったが、2017年以降、賃料は上昇傾向にあり、2018年11月時点の賃料は2014年12月の賃料に比し、+2.6%上昇している。
梅田地区では2014年以降、平均賃料は上昇が継続しており、2018年11月時点の賃料は2014年12月の賃料に比し、+6.3%上昇している。
空室率は大阪ビジネス地区も梅田地区も低下傾向にあるが、梅田地区は2014年の7.45%から2017年まで急速に低下しており、梅田地区に一極に需要が集中していたことがうかがえる。
<図1>
<図2>
(三鬼商事株式会社 オフィスマーケットデータより)
平均賃料の上昇は空室率の低下、即ち、オフィス供給が少なくなっていることが原因であるが、今後、大型供給としては2020年の「平野町4丁目オフィスビル」(中央区)、2022年の「大阪神ビルディング・新阪急ビル建替計画」が予定されている程度であり、供給が逼迫した状況は今後も継続すると予測される。
現在、オフィス状況は貸手市場に移行しており、既存オフィスビルの賃料値上圧力が高まっている。
このため、2019年は賃料値上圧力に耐えられない企業が移転する等の動きが現れ、需要が梅田地区以外の大阪ビジネス地区に分散するか、自宅勤務、シェアデスク等、ワーキングスタイル自体を変化させ、オフィススペースを縮小させる動きが進捗していくものと予測した。
住宅地の地価
堺市で定点観測している地価は、高容積率に着目した収益用賃貸マンションの開発の活発化により、堺区の商業地(南海高野線以西・南海本線以東の範囲)の地価が上昇率を強めている。
また、Osaka Metro(地下鉄)御堂筋線により、大阪都心部に直結する北区の住宅地・商業地の地価も利便性に着目した需要増により、地価上昇率が伸長している。
しかしながら、バス便地域・旧集落で街路配置に劣る地域・南海トラフの浸水懸念のある地域では、需要は減退しており、地価は下落が続行している。
こうした地価の二極化は堺市だけでなく、近畿圏いずれの地域・市町村において起こっている現象である。
特に街開きして30年以上経過しているニュータウンでは、高齢化が進捗し、子供は成人して街を離れ、古い住宅では住み続けられず、転出することから人口・世帯数が減少し、街の活力が失われている地域が続出し、新たなる都市問題として浮上してきた。
これはニュータウンだけの問題ではなく、超高齢化社会を迎えた日本の住宅市場の問題でもある。
こうした高齢化社会に着目した二つのビジネスモデルを紹介する。
① 独立行政法人住宅金融支援機構による「リバースモーゲージ型住宅ローン」(愛称「リ・バース60」)
独立行政法人住宅金融支援機構は2016年度から「リ・バース60」を開始しているが、「リ・バース60」とは、金融機関が住宅取得で資金が必要な満60歳以上の人に対し、毎月の支払いは利息のみ、元金は利用者が亡くなった時に担保の住宅・土地を売却して、一括して返済する住宅融資保険を活用したリバースモーゲージ型の住宅融資で、住宅の購入・家の新築のみならず、リフォーム・セカンドハウス・サービス付高齢者向け賃貸住宅の入居一時金にも利用できる。
融資後、利用者が亡くなって、相続人が残債務を一括返済できない場合、担保物件の売却により返済される。
子世帯と近居するための住み替え資金や老朽化した自宅の建て替え、リフォーム資金などに使用されている。
利用実績は下表のとおりで、申請戸数、実績数共に伸長している。
平成28年度 | 平成29年度 | |
付保申請戸数(戸) | 39 | 174 |
付保実績戸数(戸) | 16 | 68 |
付保実績金額(億円) | 1.5 | 8.5 |
平成29年度に付保申請のあった申込者の属性は、平均年齢72歳、年収330万円で、年金受給者が60%を占める。
資金使途は新築マンションの購入が40%、新築戸建建設が31%、戸建リフォームが13%となっている。
所要額3,391万円に対し、融資額1,691万円なので50%の融資となる。
② セール・アンド・リースバック
セール・アンド・リースバックとは、持家を不動産会社に売却し、同時にその不動産会社と賃貸借契約を締結して、売った方が家賃を払って住み続けるという方法である。大手不動産会社において、取り組む会社が増加傾向にある。
前述の「リ・バース60」は金融機関のビジネスで、所要額の約50%しか融資は出ないが、「セール・アンド・リースバック」は不動産取引で売却代金が売主に入り、売主は家賃を払って住み続けられるので、マイホームの有効活用ともいえる。
しかしながら、当該事業者は建物賃貸借契約に定期借家契約を採用しているため(期間5年が最長のところが多い)、再契約が可能かどうかは不透明である。
また、家賃について、ある事業者では取得価格の8%を設定しており、2,000万円で売却すると、年間160万円(月間133,333円)の家賃となり、地域によっては戸建賃貸の相場より高い場合があり得る。
こうした問題点を有するものの、住み慣れた街に住み続けられるということは、街のコミュニティが維持されるというメリットもあり、高齢者の住まい方の選択肢が広がる点では評価できるシステムであると考える。
以上、超高齢化社会を迎えたとしても、まだまだ切り口によっては不動産ビジネスの拡大は考えられ、2019年は「高齢者の住まい」をターゲットにした不動産ビジネスの開発が進むものと予測した。
住宅賃料
近畿圏の賃貸需要は首都圏、中京圏に比すると昨年に引き続き、芳しくない。
国土交通省「平成29年度 住宅市場動向調査」(平成30年3月)によると、世帯主の平均年齢は、首都圏40.1歳、中京圏35.8歳、近畿圏42.0歳と中京圏に比すると首都圏・近畿圏は40歳台になっている。
世帯年収は首都圏487万円、中京圏481万円、近畿圏393万円と近畿圏は三大都市圏内で最も低い。この傾向は平成20年度調査から変わらない。
「支払家賃 + 共益費」でみると、首都圏が86,602円、中京圏66,172円、近畿圏68,894円で中京圏より支払コストは高い。
更に勤務先からの住宅手当があるのは首都圏18.8%、中京圏30.7%、近畿圏18.9%と中京圏は手厚い。世帯主の職業では三大都市圏とも「会社員・団体職員」の占める割合が最も高い(首都圏46.6%、中京圏43.6%、近畿圏35.1%)。
近畿圏の特徴としては、他圏より「自営業」「派遣社員・短期社員」「無職」の割合が高い。
家賃の負担感については、負担感がある(「非常に負担感がある」「少し負担感がある」の合計)割合は、首都圏64.4%、中京圏52.4%、近畿圏は68.9%で近畿圏が最も高い。支払コストが年収に占める割合、即ち、家賃負担率は首都圏21.3%、中京圏16.5%、近畿圏21.0%で、中京圏が最も低い。
需要の賃貸住宅を選ぶ理由としては、三圏とも「家賃が適切だったから」と家賃重視が最も高い割合を占め、次に「住宅の立地環境が良かったから」「住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから」と続くが、賃貸ユーザーの重視ポイントは「家賃」と「立地」に集約されている。
なお、近畿圏は「昔から住んでいる地域だったから」「親・子供と同居した、近くに住んでいたから」が他圏より大きく、地縁的選好性が高い。
設備等に関する賃貸住宅の選択理由として、首都圏・中京圏は62%前後が「住宅の広さが十分だから」を選んでいるのに対し、近畿圏では48.4%となっている。
各圏とも過半数が重視しているのは「間取り・部屋数が適当だから」であるが、首都圏・中京圏が70%台であるのに対し、近畿圏は59.4%と低い。
こうした需要動向調査をみると、近畿圏は「住宅の広さ」への選択理由の割合が低い。
近畿圏の家賃負担間の割合が高いことからも、予算重視を第一義にし、「広さ」については第二義になっているものと推測できる。
弊社の2018年度の新築民間賃貸住宅賃料調査では、建築費・地価上昇を家賃に転嫁すると需要が離れることから、ここ3年~4年、占有面積の小振化が進行していたが、2018年では占有面積の小振化にもストップがかかり、賃料単価の上昇が顕著になっている。
最多の供給の「1K-1LDK」タイプの新築家賃は、「大阪市エリア」76,600円、「北大阪エリア」77,100円、「南大阪エリア」66,400円、「阪神エリア」79,000円であるため、シングルのみならず、カップル需要が「1K-1LDK」の型式を多く選択しており、2019年も「広さ」を犠牲にして「立地」と「家賃帯」で賃貸住宅を選択する需要に支えられて「1K-1LDK」の型式の供給が増加していくものと予測した。
分譲マンション価格
下<表1>は大阪市都心6区の2018年1~10月間に販売された新築分譲マンションの供給戸数・初月契約率・平均専有面積・平均価格・専有面積1㎡当り価格をまとめたものである。
北区の新規供給戸数(2018年1月~10月末日)は1,076戸である。
大阪市の同期間の供給戸数は6,657戸であるため、北区で大阪市全体の1/6を供給していることになる。
更に大阪都心6区(北区、中央区、西区、福島区、天王寺区、浪速区)での同期間供給戸数は4,187戸で、都心6区で大阪市全体の6割強を占めており、大阪市のマンション供給は都心に集中している。
<表1> 2018年(1~10月)の新築分譲マンション
北区 | 中央区 | 西区 | 福島区 | 天王寺区 | 浪速区 | |
新規供給戸数 (戸) | 1,076 | 957 | 813 | 649 | 451 | 241 |
初月契約率 (%) | 69.5 | 87.8 | 81.8 | 69.5 | 64.7 | 95.9 |
平均専有面積 (㎡) | 41.2 | 55.4 | 29.7 | 54.2 | 62.0 | 25.0 |
平均価格 (万円) | 3,752.5 | 5,179.1 | 2,347.2 | 3,966.4 | 4,497.0 | 1,964.0 |
専有面積 1㎡当り価格 (円/㎡) | 911,268 | 934,507 | 789,922 | 732,023 | 725,597 | 785,044 |
(㈱不動産経済研究所のデータを弊社にて区別に集計)
平均専有面積では西区・浪速区が25㎡~29㎡台と1ルームの広さであり、投資用分譲マンションが多く供給されていることがわかる。
北区・中央区・福島区でも平均専有面積25㎡前後の投資用1ルーム分譲マンションの供給が多い。
専有面積あたりの価格では北区・中央区は910,000円/㎡を超え、即ち、坪当たり300万円を超えている。
他の4区は720,000円/㎡~789,000円/㎡、坪当たり230万円~260万円で、マンションバブル末期(1994年・平成6年)の価格水準を超えている(<表2>参照)。
<表2> 1994年の新築分譲マンション
北区 | 中央区 | 西区 | 福島区 | 天王寺区 | 浪速区 | |
新規供給戸数 (戸) | 41 | 112 | 116 | 188 | 153 | 46 |
初月契約率 (%) | 87.8 | 67.0 | 98.3 | 98.9 | 96.1 | 67.4 |
平均専有面積 (㎡) | 58.8 | 63.8 | 64.1 | 68.1 | 68.3 | 62.5 |
平均価格 (万円) | 4,132.4 | 4,476.0 | 4,203.0 | 4,296.0 | 4,990.3 | 3,896.0 |
専有面積 1㎡当り価格 (円/㎡) | 702,554 | 701,907 | 655,814 | 631,082 | 730,266 | 623,360 |
<表1><表2>の専有面積1㎡当り価格を比較すると、1994年の価格が上回っているのは天王寺区のみで、他区は過去のバブル期を上回る価格となっている。
次に投資利回りについて比較する。
弊社調査による2018年新築賃貸マンションの区別の1ルームの1㎡当り賃料を採用して投資利回りを算出したところ、下式のとおり4%前後である。
西 区 | (2,670円/㎡×29.70㎡)×12ヶ月 | ≒ 4.05% |
2,347.2万円 |
浪速区 | (2,563円/㎡×25.00㎡)×12ヶ月 | ≒ 3.90% |
1,964.0万円 |
平成バブル期には投資用1ルームマンションの分譲事例は極めて少なく、大半は1棟の収益用賃貸マンションが投資対象となっていた。
弊社調査による1994年の大阪市北区の1ルームの賃料単価は4,139円/㎡で占有面積は14.19㎡である。当時の1ルームは風呂・トイレ・洗面所が一ユニットで13㎡~18㎡の広さが供給の主流であった。1994年では1ルームの分譲がないため、平均価格に規模格差を乗じて価格を査定し、投資利回りを下式のとおり試算したところ6.6%を得た。
4,139円/㎡×14.19㎡×12ヶ月 | ≒ 6.60% |
655,814円×1.15×14.19㎡ |
即ち、バブル期の方が投資利回りは高くなる。
但し、1994年の長期プライムレートは3.8%~4.9%であるのに対し、現時点では1.0%であるので、単純比較はできないが、現時点の大阪市の新築分譲マンション価格はバブル期を超えていることは確かである。
現在の大阪市中心部のマンション需要を支えているのは投資家であり、通商問題の動向が世界経済に与える影響や海外経済の動向、金融資本市場の変動、地政学的リスク等により、投資家のマインドが左右されることから、2019年のマンション市場は不安定要素を含みつつ、推移していくものと予測した。